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日本に巣食う「学歴病」の正体

生きるために学びたい人たちが駆け込む自主夜間中学校「人間復興」の現場

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第32回】 2016年8月23日
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 今回は、千葉県松戸市の「自主夜間中学校」を取材したルポルタージュを紹介したい。ここは、市民有志が運営する学びの場である。生徒は様々な事情で中学校卒業程度の学力を十分には身につけられなかった人が多い。いじめや虐待を受けたり、家庭の事情などで中学校に通うことができなかったのだという。それでも、今、懸命に学ぼうとしている。それは、多くの日本人が見失いつつある姿勢なのかもしれない。

 この連載では、大学などを卒業した後、数十年後も学歴に一喜一憂する人たちの状況を「学歴病」と位置づけてきた。「夜間中学校」に通う人たちは、そのような人たちとは別の世界で生きている。彼らの「学びたい」という真摯な思いは、純粋に自らの知性を高めるための欲求である。それは、ともすれば学歴の価値と世間体を重ね合わせて見てしまう「学歴病」の人たちとは、対極にあるもののように見える。彼らの思いを知ることは、「学歴病」を考える上で参考になるはずだ。読者諸氏は、「自主夜間中学校」で学ぶ人たちの思いに何を感じるだろうか。


「松戸自主夜間中学校」に集まる
中学で学ぶ機会がなかった人々

千葉県松戸市の「自主夜間中学校」で個別事業に取り組む人たち

 今年5月、千葉県松戸市にある勤労会館を訪ねた。午後5時半ごろ、会館の1階にいると、20人ほどの生徒が続々と入ってくる。午後6時から始まる授業を受けるためだ。

 12~13歳くらいの男子もいれば、20代前半と思える男性とその父親らしき人もいる。20代前半に見える外国の女性もいる。60代ぐらいの女性もいる。

 2階に上がると、いくつかの部屋の入口付近に「松戸自主夜間中学校」と書かれた紙が貼ってある。部屋の1つは、20畳ほどの座敷になっていた。2メートルほどの細長いテーブルが8つほど並ぶ。それらを隔てて、「生徒」と「スタッフ」と呼ばれるボランティアが向かい合う。

千葉県松戸市の勤労会館(JR松戸駅徒歩5分)

 これから、1対1の学びが始まる。個別授業である。テーブルの上には、中学校の教科書や参考書、問題集、独自の教材などが並ぶ。学ぶ教科や進度は、それぞれの生徒の学力や実情によって違う。

 「スタッフ」は元中学教師や元会社員などで、教えることに関しては経験豊富だ。現在は30人ほどいて、千葉県、埼玉県、都内などから通っている。

 2階の奥の部屋に行くと、中学校のような一斉授業が行われている。ホワイトボードの前に「スタッフ」が立ち、その前に長い机と椅子が並び、数人が腰かけている。「漢字・日本語」という名の授業のようだ。他に「算数・数学」「理科」「社会」「音楽」「人権」などがある。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


日本に巣食う「学歴病」の正体

 今の日本には、「学歴」を基に個人を評価することが「時代遅れ」という風潮がある。しかし、表には出にくくなっても、他者の学歴に対する興味や差別意識、自分の学歴に対する優越感、劣等感などは、今も昔も変わらずに人々の中に根付いている。

たとえば日本企業の中には、採用において人事が学生に学歴を聞かない、社員の配属、人事評価、昇格、あるいは左遷や降格に際しては仕事における個人の能力や成果のみを参考にする、という考え方が広まっている。しかし実際には、学歴によって選別しているとしか思えない不当な人事はまだまだ多く、学閥のようなコミュニティもいまだに根強く存在する。学歴が表向きに語られなくなったことで、「何を基準に人を判断すればいいのか」「自分は何を基準に判断されているのか」がわかりずらくなり、戸惑いも生まれている。こうした状況は、時として、人間関係における閉塞感やトラブルを招くこともある。

 これまでの取材で筆者は、学歴に関する実に多くのビジネスパーソンの悲喜こもごもを見て来た。学歴に翻弄される彼らの姿は、まるで「学歴病」に憑りつかれているようだった。学歴は「古くて新しい問題」なのだ。本連載では、そうした「学歴病」の正体を検証しながら、これからの時代に我々が意識すべき価値基準の在り方を考える。

「日本に巣食う「学歴病」の正体」

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