国内大手投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(AP)が、投資先の一つである東京スター銀行の株式を手放すことを決めた。背景にあるのは、東京スターの業績不振だ。

 APは2008年に東京スターの株を取得する際、あおぞら銀行や新生銀行、地方銀行などの銀行団から融資を受けて買収資金の一部を賄った。

 その利払いについては、東京スター株の配当を充てる契約になっていたが、東京スターは09年度決算で赤字に転落。10年度中間決算でも、軒並み好調だった銀行界で数少ない赤字行となり、配当を続けることが難しくなっていた。

 銀行団関係者によれば、そのことが原因でAPから銀行団への利払いも滞りがちになり、融資の際の制限条項に抵触、今後の返済について話し合いが持たれたのだ。その結果、APは東京スター株を銀行団へ譲渡し、銀行団はその株を受け皿ファンドに移し替えることにしたのだという。

 ところが「これは単なる時間稼ぎにすぎない」と、事情に詳しい関係者は語る。

 じつは今回の一件で焦ったのは新生銀だった。というのも返済が滞れば、APへ貸したカネが不良債権化してしまうからだ。

 そうなれば返済の優先順位が低い新生銀は、多額に及ぶ貸倒引当金の積み増しを迫られる。これは10年度の当期純利益を100億円と予想している新生銀にとって、大打撃となりかねない。

 そこで損失の表面化を先延ばしするために、まるでDES(債務の株式化。デット・エクイティ・スワップ)のような手法を用いることにしたというのだ。

 これにより、銀行団がAPに貸したカネと東京スター株を交換すれば、「APから銀行団へ株の器を移し替えるだけで、債権放棄も引当金の積み増しも、しなくてすむ」(銀行団関係者)というわけだ。

 とはいえ最終的な損失を免れるためには、「東京スターの経営を立て直し、再上場させて株を売り抜けるしか道はない」(地銀幹部)。ところが「公的資金の返済も終わっていない新生銀やあおぞら銀に、その能力はない」(同)と、周囲の目は冷ややかだ。

 それを裏づけるように、舞台裏では東京スターの経営者とスポンサーを探すのに奔走し、時間を要した。具体的なオファーを出した人物も複数いた模様だが、いずれも交渉は難航したという。

 複数の銀行に影響が広がりかねないため、金融庁も一枚かんでいるようで、「公的資金が入っていた主要行の処理が一段落し、当局が残りの注入先銀行の整理に乗り出すのでは」(大手行関係者)と見る向きもある。今回の騒動が不振にあえぐ銀行をめぐる、新たな再編の口火となる可能性も高い。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

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