エコカー大戦争!
【第233回】 2017年1月12日 桃田健史 [ジャーナリスト]

CESとデトロイトモーターショーに「目玉」がない理由

CESの 「まるでモーターショー」は
あくまでも結果論

 年頭はITや家電の世界最大級見本市「CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)」、そして北米国際自動車ショー(通称デトロイトショー)を巡るのが、2010年代に入ってから自動車産業界での常識となっている。

トヨタがCESで発表した、「コンセプト愛i」。人工知能により、車に感情を持たせるというイメージ Photo by Kenji Momota

 CES2017については、すでに日本のテレビやネットで詳細が報道されている。その多くが「まるでモーターショーのように、自動車メーカーの参加が増えた」と伝えている。

 だが、筆者はこうした表現に少々疑問を感じる。

 確かに、今回から日産、ホンダが出展したことで、トヨタを含めて日系ビッグ3が出揃った。しかし、この5年ほど「CESでの花形」として自動車部門をぐいぐいと引っ張ってきたアウディが姿を消した。また、コネクテッドカーの領域で、すでに30年近い実績を持つ車載システム「オンスター」を持つGMも消えた。そして、昨年は自動運転からドローン、さらに住宅とつながる音声認識技術まで、新しい技術には「マシンガンを撃つように片っ端から投資する」と社内で檄を飛ばしていたフォードは、出展しているものの、昨年までの勢いが感じられない。

ホンダのコンセプトモデル「NewV」。小型EVでライドシェアリングを想定。発表では、ホンダが人工知能など新分野で戦略的に挑戦すると宣言 Photo by Kenji Momota

 こうしたCES撤退または縮小組は、CES出展の旨味がなくなった、と見ているはずだ。なぜならば近年中に、自動運転やコネクテッドカーのアメリカでの量産が本格的に進むことが、ほぼ確実になったからだ。これまでのような技術のイメージ論や、企業PR的な宣伝ではなく、量産プロセスを本格的に始めようしているのだ。

 また、今回のCESで自動車が目立った理由は他にもある。それは、「他の分野で目玉がない」からだ。そのため、相対的に自動車が目立ったのだ。今年のCESでは、仮想空間におけるARやVR、ドローン、ウェアラブル、またヘルスケアなど、この数年CESの主役を演じた分野が、年次改良を加えてのキャリーオーバーに甘んじた印象が強い。

結局アメリカ自動車産業の
デファクト主導に振り回される?

半導体大手のエヌヴィディアの自動運転デモ。一応、人が乗っているが、目の前に障害物があると、走行ルートを自動で変更する Photo by Kenji Momota

 結果的に自動車が目立った、CES2017。屋外会場では、画像認識に強みがある半導体大手のエヌヴィディア(nVIDIA)が、自動運転車を走らせた。また、フランスの自動車部品大手のヴァレオは、前進だけでなく、後退時や車体の側面を含む360度方向の自動ブレーキに関するデモを行うなど、海外メディアを含めて高い関心を集めた。

仏ヴェレオが行ったデモ。量産型のメルセデスが搭載しているカメラ、レーダー、超音波センサーなどを使って、後方と側面での自動ブレーキをかけるシステムを発表 Photo by Kenji Momota

 こうした動きは、アメリカでの自動運転やコネクテッドカーに対する事実上の標準化(デファクトスタンダード)を強く意識したものだ。

 米運輸省の国家道路交通安全局(NHTSA)は2016年9月に自動運転に関するガイダンスを、また同年12月にはコネクテッドカーに関するルールを発表している。この他、自動運転については、カリフォルニア州交通局と連邦環境局(EPA)が自動運転に対して、2016年中にそれぞれ独自の考え方を公表している。

 こうしたなか、日本はアメリカに同調する動きを見せている。例えば、自動運転の自動化のレベル表記について、NHTSAが「今後は、米自動車技術会(SAE)の表記に統一する」ことを決定。これに、自動運転に関してこれまでNHTSA準拠の姿勢だった日本の国土交通省は、SAE表記への変更をあっさり決めた。具体的な変更点としては、完全自動運転はこれまでのレベル4からレベル5へと変わる。

 なお、2017年初めの時点では、国が作成する自動運転関連の資料には、NHTSAとSAEの自動化レベルが併記されており、「近いうち、時期を見てSAE表記に統一する」(行政機関関係者)という状況だ。

 自動運転やコネクテッドカーの技術の基準化や、道路交通省に関係する法整備については、国際連合の欧州経済委員会の傘下にある、自動車基準調和世界フォーラム(WP29)やWP1で国際的な協議が進んでおり、日本は各種のワーキンググループでリーダー的な役割を示している。しかし、全てが投票によって決まる国連の意思決定システムでは、タイムリーな法改正ができないケースも見られる。

 その一方で、ITや通信の大手企業を擁し、高付加価値のクルマという点では中国を凌ぐ世界ナンバーワンの自動車製造・販売国ともいえるアメリカが、自動運転とコネクテッドカーに対するデファクト奪取を仕掛けているのだ。この動きに対して、国連側はアメリカとの協調を模索するに留まっており、事実上アメリカに対して手が出せない。

 また、消費者にクルマの安全性データを公開する「自動車アセスメント」に関しては、欧州での基準が世界的な影響を与えているが、アメリカはそれを参考にさらに独自基準を設けることもある。そのなかで、日本は欧州とアメリカ、双方の動きを見ながら自らの立ち位置を決めているように思える。

デトロイトショーでの注目は
新型車発表よりトランプ問題

 往路がLAからの車移動だったので、ラスベガスからLAへ5時間強走り、さらにレッドアイ(深夜便)で約4時間飛んでデトロイト入りした。外気は日中でもマイナス10度前後と寒い。

 CESにも顔を見せた日系の大手メディア関係者らは、「デトロイトショーの目玉は、クルマ本体ではなくNAFTA(北米自由貿易協定)」と苦笑い。次期大統領であるトランプ氏がトヨタのメキシコ工場に否定的なツイートをし、それに反応したトヨタが北米への巨額投資を表明したことをはじめ、日産、ホンダ、マツダ、そして日系自動車部品メーカーにとって、NAFTA関連は世界的な事業戦略のなかで重大問題である。

 しかしNAFTA問題があろうがなかろうが、デトロイトショーのメディアに対するインパクトは弱い。ここ数年、自動車業界関係者向けの、いわゆるディーラーショーとしての印象が濃くなっている。次世代の車に関する世界発表の多くが、CESに持っていかれたという格好だった。

 そうした状況の変化に、強い危機感を持った同ショーの主催者が打った手が「AUTOMOBILI-D」だ。自動運転、コネクテッドカー、EV、モビリティサービス、そして都市型交通に関して、産学官やステートアップが発表や意見交換をする場として新設された。ただし開催期間は、デトロイトショーの報道陣向け公開日の1日前から、一般公開が始まる前。一般ユーザー向けではなく、あくまでも既存の自動車業界関係者、及び新たに自動車産業とのコラボを考えている業界関係者向けに特化したイベントだ。

デトロイトショーの冒頭、AUTOMOBILI-Dに登場した、Waymo。FCAと共同開発する自動運転ミニバンの実車を世界初公開 Photo by Kenji Momota

 その冒頭に登場したのが、「Waymo(ウェイモ)」だ。昨年12月、グーグルの親会社アルファベットから独立した自動運転の技術関連企業である。今回の発表で披露したのは、それまで映像と画像のみで紹介してきた、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービル)と共同開発する、ミニバン「パシフィカ」をベースとした実験車両だ。

 ルーフ部分にあり、周囲360度の状況を把握するレーザーレーダー(通称ライダー)は、米ベロダイン社製品などの既存品と比べて製造コストが「9割減だ!」と、アルファベットという巨大IT企業をバックに持つ企業としてのコスト競争力を強調した。実証試験は1月末から、アリゾナ州とカリフォルニア州で合計約100台を使って行う。

 こうして、デトロイトショーでも、メディアの注目はIT系寄りの次世代自動車だ。5~6年に一度モデルチェンジを繰り返し、n数商売(=大量販売)しか想定していない既存の自動車ビジネスに対して、メディアだけでなく、一般ユーザーの関心も徐々に薄れている状況だ。