米国──トランプ政権の三大内在リスク
新大統領が就任して半年から1年は「ハネムーンピリオド」として議会やメディアも大統領に好意的な態度をとるのを常とするが、トランプ政権とはこの期間にも尋常でない摩擦を生むリスクがある。先般の記者会見で自らの意に沿わない報道をしたとCNNの質問を拒絶したことに象徴的に示されるように、メディアとの関係は波乱含みである。
特に今後の「利益相反」問題の推移は注意を要する。トランプ大統領も多くの閣僚も広範な事業を営んできており、利益相反を巡り厳しい批判を生む可能性がある。議会との関係でも、共和党が上下両院の多数を占めているとは言え、例えば財政や貿易政策あるいは対露政策を巡り伝統的な共和党の政策とは相いれない場面が容易に想像され、厳しい対峙となる可能性は否定できない。メディアや議会との敵対的な関係は米国の内政を揺さぶる。
次にトランプ政権の政治手法である。トランプ政権は、これまでのプロフェッショナルな統治手法ではなく、選挙キャンペーンから引き続きポピュリスト的なアプローチをとる可能性がある。大統領選挙での勝利後もツイッターを多用し、特定企業を名指しした批判や対中牽制などに加え、「敵か味方か」という大衆に分かりやすい二分法で衝動的なメッセージを送り続けた。果たして大統領として同じような手法を多用していくのか。それとも十分な吟味が行われたうえで政策が形成されていくのか。前者であれば米国だけでなく世界の混乱は止まらない。
国際秩序への最大リスクは米国のリーダーシップが揺らぐことである。これまで米国は(1)強大な軍事力を、秩序維持のために使う覚悟を持ってきた、(2)強い経済力を維持し、自由貿易を含む自由主義経済体制を守ってきた、(3)地球温暖化や反テロ、抗不拡散など世界の課題設定を行いルール作りに中心的役割を担ってきた、(4)民主主義のモデルとして存在してきた。「米国第一」主義は、米国さえよければいいと捉えられ、リーダーシップの否定に繋がる。特に、民主主義のモデルとしての米国の存在が揺らげば揺らぐほど、中国やロシアは自国の体制が秩序維持に効果的であると喧伝していくだろうし、第二次世界大戦後続いてきた自由民主主義の価値観さえも問われることとなる。