本連載では、話題の新刊『最先端科学×マインドフルネスで実現する 最強のメンタル』の内容から、エビデンスに基づいた最新科学の知見をもとに、現代人が抱える2大メンタル問題「ストレス」と「プレッシャー」を克服し、常に安定して高いパフォーマンスを発揮するための方法をお伝えしていく。

なぜ、大事な場面で「プレッシャー」を感じてしまうのか?

なぜ、大事な場面でプレッシャーを感じるのか?

 そもそも、本番ではどうしていつもの力が発揮できないのでしょうか?

 それはいうまでもなく、プレッシャーが邪魔をしているからです。そこで、まずはプレッシャーが生じる原因について探っていきたいと思います。本番では練習と異なり、プレッシャーが大きくのしかかってきます。

 それは、「結果」が求められるからです。「結果」を求められた途端、

 「うまくできるだろうか…?」
 「失敗しないだろうか…?」

 という不安が頭の中を駆け巡り出します。

 この時、人間は「結果」という未来を見据えているようで、実は、その水面下では過去の体験を想起し始めます。

 「またあの時と同じように失敗してしまわないだろうか…?」

 と、特に過去の失敗体験が鮮明に蘇ってきます。

 これはトラウマ記憶と呼ばれるもので、脳の扁桃体と密接な関係があります。

 今まで良い結果を残してきた人でさえ、「結果」を求められると少なからずプレッシャーを感じ始めます。10回のうち7回成功していても、3回の失敗体験の方が前面に出て来てしまうのです。

 これは、過去と同じ過ちを繰り返さないようにするためのリスク回避、防衛本能が強く働くからだと推測されています。

大切なのは「結果」の予測ではなく、今に「集中」すること

 サッカーのPK戦をイメージするとわかりやすいかもしれません。

 シュートを蹴る選手の意識は、ボールを蹴る前に、

 「キーパーにディフェンスされないだろうか…?」
 「ゴールを外してしまわないだろうか…?」

 と、シュートしたあとの「結果」へと向かい出します。そして、過去の体験から今行おうとする行動がうまくいくかどうかを模索し出します。

 苦い体験をしたことのある選手なら、

 「あの時も大事な場面で外してしまったな…」

 と、トラウマ記憶が蘇り、鼓動は高まり、呼吸は浅く速く、筋肉は緊張し始めます。

 このような心身状態でシュートを放つのですから、当然結果は、かんばしいものではありません。

 本来、この場面において最も大事なことは、ボールを蹴る行為そのもの、いかに蹴る動作に意識を集中させられるかであり、「結果」の予想ではないはずです。

 「結果」を意識して、ポジティブなイメージが想起できれば良いですが、「ここ一番」では、どうしてもリスク回避の観点から、トラウマ記憶の方が勝ってしまいます。

 以前、サッカーの本田圭佑選手がPKを成功したあとのインタビューで「真ん中に蹴って止められたらもう仕方がないと思った」と語っていました。

 これはメンタル的にとても重要なことで、本人の中では、一度シュートの狙いを真ん中に定めたら、あとはただ蹴る動作に100%意識を集中させています。

 「外したらどうしよう…?」

 というような未来への不安(予期不安)はないのです。

 この場面における本田選手の中での最大の任務は、「ボールを真ん中に蹴る」という行為そのものであり、たとえ、真ん中に蹴ってそこにキーパーが立っていてキャッチされたとしても、本人のシュートを真ん中に蹴るという任務は遂行されているのです。

 そこにキーパーが立っていたというのは結果論であり、その部分は自分ではコントロールできないアンコントロールの領域なのです。

 アンコントロールなことに力を注ぐよりも、今自分ができることに最大限の力を注ぐべきなのです。