せんべいや味噌、和菓子、日本酒などの主原料となる加工用米の価格が高騰し、食品業界が苦悶している。同じうるち米にもかかわらず、用途別に交付金で生産調整を図る農業政策の無理が、震災による米不足で露呈した。家畜が新米を食べ、人間が古米を食べる歪みを生み、伝統食の存続を危うくしている。

「このままでは値上げをしないとやっていけないが、顧客が受け入れてくれるか不安だ」

 せんべいが特産の千葉県野田市で70年近く営業する老舗米菓店、藤井本店の4代目社長の藤井浩一氏は、主原料の加工用米(うるち米)の値上げを前に困惑する。

 せんべいの原料である加工用米が今秋、1キログラム当たり約160円から約220円へ約38%も値上がりする見通しなのだ。

 野田地区のせんべい店の多くは30年以上、値段は据え置きだったが、製造原価の約半分を占める米の高騰に耐え切れず、今春から10%程度値上げする店が出始めた。

 しかし、「デフレが続き、製品の値上げは簡単に受け入れられるものではない」(大手スーパー経営幹部)というのが小売市場の現実だ。

 品質がよくて手頃な価格の国産原料米が入手困難になっていることへの対応策として、亀田製菓や天乃屋など全国展開する米菓メーカーは、安価なMA(最低輸入量)米の使用を増やしている。

 日本は米生産者を守るため、安い外国産米が大量に入らないように778%の高関税をかけているが、その代償としてWTO(世界貿易機関)で課せられたMAだ。

「国産米でも外国産米でも、せんべいの味はそれほど変わらない」と大手米菓メーカー経営者は言うが、「国産米が安心というお客がいる以上、できるだけ変更したくない」(藤井氏)とこだわりを持つ老舗は多い。