かつてない激戦のまま、まもなく投開票を迎えるアメリカ大統領選挙。3回に渡るテレビ討論会では、当初劣勢にあったオバマ大統領が盛り返し、共和党のロムニー候補を退けた。しかし、スタンフォード大学政治学部のシャントー・アイイェンガー教授は、「(テレビ討論会の)ディベートは単に支持者の傾倒を強めるだけに過ぎない」と、国民の政治的な争点への無関心とアメリカにおける党派意識の強さを指摘する。党派意識が非常に強い中で、結果的に今回の大統領選が接戦のまま終わりを迎えれば、これからの4年間はどういった政治環境に置かれることになるのか。大統領選挙の投開票を目前にした今、アイイェンガー教授が“新大統領”就任後の政治環境を占う。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

宗教観にも似た強いアメリカの党派意識
民主党員と共和党員の間には憎悪も

――3回に渡ったテレビでの大統領候補のディベートも終わり、選挙戦はいよいよ終盤に入っている。ディベートは両候補への支持を左右したと見ているか。

シャントー・アイイェンガー(Shanto Iyengar)
スタンフォード大学政治学部教授、フーバー研究所上級フェロー。専門は、民主主義社会におけるマスコミュニケーション、世論形成、政治心理学。全米科学財団、フォード財団、ピュー・チャリタブルトラストなど有数の非営利財団から援助を受け、選挙活動時における広告効果、特にネガティブ広告に関する調査、研究などを多く行ってきた。著書に『Media Politics: A Citizen's Guide(メディア政治:市民の手引き)』、『Is Anyone Responsible?(責任者はいるのか?)』などがある。アイオワ大学で博士号を所得

 1回目のディベートでは、オバマ大統領がロムニー候補の攻撃にまともな反論ができないという予期せぬことが起こり、その後の世論を動かした。だが、その後の2回のディベートではオバマ大統領も攻撃に出て、ロムニー候補を退けていた。ただ、結果的に言って、ディベートは単に支持者の傾倒をさらに強めるだけのものだ。この国で誰に投票するかを最終的に決めるのは、どちらの党に所属しているかだ。その上に立って、経済が回復に向かっているか、オバマ大統領は十分な働きをしたかといったことに対する「気分」で投票する。共和党員ならば99%がオバマ大統領は失策続きだったと主張し、民主党員ならばその正反対を唱える。

――ディベートの内容や選挙活動でそれぞれが主張している争点の違いは、それほど影響力を持たないということか。

 人々が雇用率の統計を分析して投票するといったことは、ほとんどない。今、アメリカの党派意識は非常に強まっており、ほとんど宗教にも似ている。しかも、二極化が起こり、民主党員と共和党員は互いに憎悪を抱いていると言ってもいいくらいだ。最近スタンフォード大学が党派意識に関する調査を行い、その中で民主党員や共和党員の親に「子どもが相手側の党員と結婚したらどう感じるか」と尋ねたところ、33%が「不満」と答えている。それほど対立しているということだ。