安倍晋三首相が昨年12月の衆議院選挙期間中から「デフレ脱却のために大胆な金融緩和を求める」との発言を繰り返したことから、世間の耳目は金融政策を所管する日本銀行に集まっている。

 日銀は、今月21、22日に金融政策決定会合を開く。そこでは、安倍晋三首相が強く求めている「物価目標」の導入が決定され、しかも2%という数値が目標とする物価上昇率として盛り込まれる、と多くのメディアが規定路線のように報じている。

 だが、物価目標(インフレ・ターゲティング)がいかなる効果を持つのか、2%の物価上昇率の実現可能性はどれほどあるのか、多様な観点から検証され、広く議論が起こっているとは言いがたい。以下に、物価目標に関わる基本的な論点を整理した。

論点1:「デフレ脱却」とは何を意味するのか

つじひろ・まさふみ
ダイヤモンド社論説委員。1981年ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部に配属後、エレクトロニクス、流通などの業界を担当。91年副編集長となり金融分野を担当。01年から04年5月末まで編集長を務める。主な著書に「ドキュメント住専崩壊」(共著)ほか。

 デフレは通常、「物価が下落し続けること」と定義されている。この定義にしたがうと、物価が上昇基調に反転さえすれば、デフレを脱却することにはなる。だが、多くの人々が「デフレ脱却」という言葉に託す意味は、端的に「景気が良くなる」ということであろう。

 すなわち、「企業収益が向上し、賃金が上昇し、雇用も増加し、物価も上昇する」という経済状況全体が改善する状況を指していると思われる。実際、物価の代表的指数である消費者物価指数(CPI)上昇率は、2008年夏には2%を一時的に超えたが、石油や食料価格の上昇による資源価格の高騰によるもので、経済状況はむしろ悪化し、家計にダメージを与えた。敢えて言えば、「物価上昇」と「デフレ脱却」は別物であり、そこに物価目標を巡る議論が混乱する原因がある。

 むろん、景気が上向き、経済状況全般が改善されれば、物価はその結果として上昇するのだから、物価の上昇は、本来的な意味でのデフレ脱却の計測指数として重要である。日銀は、およそ1年前の2012年2月14日、「中長期的な物価安定の目途」を公表、当面の目途としてCPI上昇率1%を掲げ、1年ごとに点検をする、とした。だが、現状では1%という目途に達するどころか、依然としてプラスにさえ転じていない。したがって、日銀は、目途と現状が乖離している要因に加え、金融政策当局としての何をなしえて何をなしえなかったのか、を国民に説明しなければならない責任を負っている。