米ヘッジファンドの現役オプショントレーダーが、「オプションとは」に始まる基礎理論から、プロトレーダーの視点、そしてVIX先物までを解説する『実務家のためのオプション取引入門』。この連載では本書に収められている14のコラムから5つを紹介する。連載2回目の今日は、ノーベル賞受賞者によるヘッジファンドの破綻の顛末だ。

なぜLTCMは破綻したのか

 歴史上もっとも「有名な」ヘッジファンドは何かと聞かれれば、ほとんどの人はLTCM(Long Term Capital Management)と答えるでしょう。

 これは、1994年に元ソロモンブラザーズの債券トレーディング責任者であるジョン・メリウェザー(John Meriwether)が起こしたファンドで、マイロン・ショールズとロバート・マートンも参画者に名を連ねていました。

 彼らは、最初の数年、年40%にも及ぶ高リターンをたたき出します。しかし1998年のロシア危機が引き金となり、数カ月で46億ドルもの資金を失い、実質的な破綻に追いやられることになります。

 LTCMの破綻の最大の理由がVaR(Value at Risk)を用いたリスク管理の失敗にあると言われています。
 VaRとは「次の何日間で、何%の確率で何ドル以下の損失にとどまる」という形式で表現される値で、会社全体のリスクを把握するのに用いられる指標です。
 通常、銀行は「次の10日間で99%の確率で何ドル以下の損失にとどまるか」を計算します。この数値をもとに、必要な資本を計算するわけです。

 LTCMは、VaRを用いて、これだけあれば十分だろうという資金を求めていました。しかし、その値を決定的に低く見積もっていたのです。