麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。今回から3回にわたっては、特別編として、“いまさら聞けない”アベノミクスについて、末席が精魂こめて解説します。まずはアベノミクス3本の矢の1本目、金融政策から。(佐々木一寿)
「主任はただいま、外出中でございまして…」
マネジャーが電話をとって対応している。
「これはこれは、ヨミヨミ新聞の方ですか、ご連絡ありがとうございます」
どうやら、新聞社からの取材らしい。ヨミヨミ新聞は大手の全国紙であり、これは光栄なことである、といった雰囲気を全面に押し出して対応している。
「えっ。…そうなんですね」
こんどは一転して声のトーンが2つばかり落ちている。いったい、どうしたというのだろう。
「であれば、主任ではなく、もう1人のほうがむしろ適役かもしれません。その者でもよろしければ…」
マネジャーは受話器越しに末席をチラリと見た。
「ご快諾ありがとうございます。では、なにとぞよろしくお願いいたします」
そう言って保留ボタンを押して、マネジャーは末席のところに来た。
「末席研究員、取材対応をお願いできるかな」
「はい。でも、大手の新聞の取材は主任の役割じゃないですか。今ならケータイでつかまるかもですが、いいんですか、僕でも」
「うん、もちろんじゃないか、私もいずれはこんな日がくると思っていたんだよ。よろしく頼むね!」
感激した面持ちのマネジャーを見て、「もらい感激」をしてしまった末席は、受話器をとって挨拶をした。記者も挨拶を返す。
「こちらヨミヨミ新聞の朝口と申します。今回はアベノミクスの取材をお願いしたいと思いまして」
いまどきアベノミクスなんて、直球中の直球じゃないか。しかも嶋野主任の得意分野でもある。これは一生懸命やらないと。末席は重責に応えようと必死の形相だ。
「ただ、できるだけわかりやすくお願いします」
無論、そのつもりである、読者はエコノミストではないのだから。末席はわかっていますよ、という風に頷いた。