ピカソの秘密
【第16回】 2013年4月11日 山口揚平 [ブルーマーリンパートナーズ 代表取締役]

自由に生きている人ほど成功して見えるのは
デフレが原因。今後は「大組織モデル」も復活する!

ゲスト:松本大・マネックス証券代表取締役社長CEO[前編]

『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』著者の山口揚平さんがお金をテーマにさまざまな人と語り合う対談シリーズの第16回。今回のゲストは、マネックス証券代表取締役社長CEOの松本大さんです。自ら「松本マニア」と公言する山口さん。松本さんが起業されたころから敬愛の念を込めて注目してきたといいます。おふたりの共通関心事である「マネー」について、じっくりと語り合います。

悪いときは続かない。必ず波はやって来る

山口揚平(以下、山口) 最初に、20代の頃の松本さんのお話を伺わせてください。

 多くのビジネス書が仕事の効率化を謳っているのに対して、松本さんはご著書のなかで、仕事に向き合う姿勢として「仕事にプライオリティはつけず」「仕事の整理法も考えず」と書かれているのが新鮮に映りました。僕も自分の20代を振り返ると、松本さんと同じように、効率化や優先順位をつけることなどまったく考えていませんでした。目の前の仕事が楽しかったですし、お金を稼ごうという考えがあまりなかったからです。松本さんの仕事に対する姿勢は、20代の頃から変わっていらっしゃらないのですか。

松本大(以下、松本) やっていることは今と同じで変わっていませんが、20代の頃はそういうふうに行動していただけで、自分の考えやスタイルとして整理して自覚はしていませんでした。

山口 どんなことを考えておられたのですか。

松本大(まつもと・おおき)マネックス証券代表取締役社長CEO。87年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券入社。その後、ゴールドマン・サックス証券に勤務し、94年に30歳で同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。99年にマネックス証券を設立した。『「お金の流れ」はこう変わった!』(小社刊)、『お金という人生の呪縛について』(幻冬舎)など著書多数。

松本 僕は新卒でソロモン・ブラザーズに入社しました。今でこそ日本の大学を卒業後、新卒として外資系企業に入社する人も多いでしょうが、僕らがその「はしり」だったと思います。

 期待に胸を膨らませて入社したものの、僕らの上にいた先輩たちは中途入社した経験者ばかりで、高給を取って、大きな仕事をやっていました。実績を積んで入社した彼らは、そもそもドルベースで高給を取っていたうえ、1ドル200円ぐらいのときに入っています。僕らが入社したころは120円ぐらいでしたから、ドルベースはもちろん、円にすると報酬レベルが全然違うわけですよ。当時のそんな状態に「入社時期が遅かったんじゃないか」と痛感したのです。面白そうで大きな仕事は先輩にすべて持っていかれる、報酬も違う。いい時代は終わってしまったんじゃないかと。そんな風に考えたのが、入社して1週間ぐらいでしたね(笑)。

山口 そんなに早く!

松本 ただ、すぐに考え直したんですよ。ちょっと待てよ。すべてのことには「波」があるので、必ずまた次の波が来るはずだ、と。

 野球でも、ボール球ばかりでは試合が終わらない。必ずストライクが来る。ストライクが来たときに確実に打つには、素振りをやっておかなければならない。ボール球しか来ないからといって寝転がっていると、ストライクが来たとしても絶対に打てない。来るのが遅かったんじゃないかと痛感してから数週間も経たないうちに、そんなふうに思い直したんです。それからはまったく悩まず、ひたすら働きました。何だか困ったヤツですよね(笑)。

お金は「天下の回り物」。そう考えれば全体の流れがよく見える

山口 松本さんは「波」という言葉をよくお使いになりますが、お金に関しても「意識の波」という表現をされていますね。お金については、ほかにも「社会財」「社会の議決権」などという言葉で表現されていますが、改めて、お金をどのように捉えていらっしゃるか伺えませんか。ご発言から拝察するに、「お金はいつも流れている。それでいいんじゃないか」という考え方をお持ちのように感じます。

松本 お金は「天下の回りもの」ですよね。私が初めてそう思ったのは、19歳のときでした。

山口 19歳ですか?会社に入る前ですね。

松本 お金は天下の回りものだと考えれば、気が楽になります。実際にそれで僕はお金の呪縛から解かれましたから。そう考えたほうが、お金の流れはよく見えるようになります。「傍目八目」という言葉がありますよね。お金にばかり執着していると、全体の流れは見えないと思うんですよ。

山口 それは、ご著書に書かれているお友だちのお母さまが「ちょっとアメリカに行ってきなさいよ」とお金を出してくださったことがきっかけですか。

松本 そうです。それ以前と以後のお金に対する考え方の変化は、現在の水準を100%とすると、60%から70%ぐらいはその瞬間に起こりました。自分の中でメジャー・レボリューションが起きたんですね。

山口 僕は自分の価値観がお金に縛られていると思っていて、だからこそお金とは何か、ずっと考えてきました。ちょうど松本さんが1999年にマネックス証券を起業されたころ、社会人になりたてだった僕は、自分の人生の可能性を制限するものとしてお金を捉え、性と同じように不浄のものと考えていたんですね。そんなときに、松本さんが「マネックス」という言葉をサラッと使われた。衝撃でしたね。この人はお金に縛られていない、自由な人なんだと。そんな松本さんは、お金以外で何か縛られているものがありますか。

松本 縛られてないですねえ(笑)。僕は『お金という人生の呪縛について』という本のあとがきに、こんなことを書いています。

「そもそも自分という存在は社会のなかの一現象であり、実験的な研究材料を提供しているようなものです。そう考えると気が楽になり、しがらみから解放され、肩から力が抜けて自然体となり―」

 結局「どこまで行きたい」「何かになりたい」「これだけ欲しい」と考えてしまうと、それとの対比で「できていない自分」に対して不安になったり焦燥感に駆られたりしてしまいます。あるいは、目標があると他人とつい比べて「自分はこれだけやったけど、あの人のほうがもっとすごい」と正当な評価ができなくなってしまいます。僕は「どこまで行きたい」「何になりたい」というゴール・セッティングがない人間なんです。

束縛から解放されて自由になること。それは決して楽なことではない

山口 友人で、僕の会社の取締役でもある藤沢烈くんは「常にフローで生きたい」と言っています。どんなにお金が手に入る可能性があったとしても、自分は毎日起こる現実を目の前にして、その瞬間を生きたいと。

松本 ご本人にお聞きしてみないとわかりませんが、大筋では僕の考えも似ているかもしれませんね。

 僕が気になるのは「自分のキャパシティや出力に対して、100%出し切っているか、120%出すことができたのか」ということに尽きます。瞬間々々の生き方が自分のキャパシティに対して最低100%で、かつ、過去からの累積でも100%を超えているか。その積み重ねが僕の人生の羅針盤なので、世間一般に多いタイプではないかもしれません。

山口 なるほど。

松本 自分は他人にはなれません。他人と比較しても仕方がない。だから、僕は「自分ができたはずのことができていたか」を重視します。相手は他人ではなく自分。端から見ると束縛されていないように見えますが、自分が相手というのは、そんなに楽なことではないですよね。

山口 かつては、社会に従属する人が伸びた時代が続きました。しかし、最近は松本さんのように自分の基準で自由に生きている人ほど成功しているように見えます。お金の流れと同じように、自分の状態やキャパシティを俯瞰して客観化できないと成功は難しいと思うんです。松本さんは、どこに「自分」をどう相対化しているのですか。

松本 いや、別にそんなに遠くにいるわけではないですよ(笑)。

 それよりも気になるのは「自由に生きている人ほど成功している」という話です。もちろん、一人ひとりを見るとそういう事例もあると思いますが、現象として増えているのだとしたら、僕はデフレが原因だと思いますね。

 右肩上がりのモデルにおいては、成長する大きい組織に入って、その中の階段を昇っていくのが手っ取り早い成功への道です。ところが、デフレで成長のない時代になると、組織に所属していても、昇っていくことができません。成功するには独力で跳び上がるしかない。でも、跳ぼうとしたときに、組織というしがらみが邪魔になって跳べないんですね。それより自由に跳べる状態にある人のほうが上に行けるので、自由な人ほど成功する現象が増えたように見えるんじゃないですか。これから国全体がインフレになって成長できるようになると、再び大組織モデルが復活してくると思いますよ。

アベノミクスは極めて当たり前のことをやっている

山口 デフレ、インフレの話で言うと、1. 金融緩和、2. 財政出動、3. 成長戦略を柱(「三本の矢」)とするアベノミクスと、現在の株高の関係をどのようにご覧になっていますか。ご著書のなかでは「ファンダメンタルが見直されている」と書かれていたと思います。お金の流れは、新陳代謝を目指し新規産業に向かうのか、あるいは55年体制で作り上げた産業オペレーションに戻っていくのか。

松本 その点はあまり考えたことはありませんが、デフレから脱却しようというアベノミクスは、まったく妥当な判断、妥当なアクションだと思いますね。

 そもそもおかしかったんですよ、日本は。これだけ生産技術が発達しても、それに見合う対価が支払われない。その状態をやめようとするアベノミクスが期待デフレを期待インフレに変え、期待実質金利がポジティブからネガティブに転じた。いままで日本は先進国で唯一、期待実質金利がポジティブだったので円高になっていましたが、他国と同じようにネガティブに振れて(政権交代前から)20%円安になった。簡単に言うと、日本の産業は20%の競争力をインスタントに手にすることができたのです。

山口 なるほど。

松本 よく3本目の矢が放たれないと(3. 成長戦略が実現されないと)ダメだという人がいますが、僕からすれば「?」ですね。もちろん実現したほうがいいに決まっていますが、円安という1本目の矢が放たれただけでも、企業の競争力が20%上がったのです。

山口 そうですね。

松本 日本の債務残高はGDP比で約240%です。でも1990年代から名目GDPが3%ずつ伸びていれば、債務残高は130%ぐらいの「どうでもいい」水準になっていたはずです。名目GDPが伸びなかったから、いろいろな問題が起きてしまった。ということは、アベノミクスでデフレを脱却して名目GDPが伸び始めれば、債務残高比率は下がるはずなんですよ。

 ザックリ考えてみましょう。これまでは日本国債の金利が1%、デフレ率が2%とすると実質金利は3%という状況でした。これがインフレになると、当然国債の金利も上がります。たとえば国債の金利が3%になったとすると、これまでの3倍の金利になると危惧する人がいますが、実質金利で考えれば国債の金利が3%でインフレ率が2%であれば実質金利は1%という数字になります。国の実質的な金利負担は3分の1になります。

 僕から見れば、アベノミクスは今までできなかった極めて当たり前のことをやっているだけに見えますけどね。その点を誤解することなく「緩やかなインフレのほうが、国全体にとってはいいことなんだ」という点が理解されると、日本もずいぶん良くなるんじゃないでしょうか。その後、お金の流れが昔の形に戻るかどうかは、アベノミクスとはまた別次元の問題だと思います。

山口 なるほど。

松本 安倍総理が、従業員の賃金を上げましょう、と呼びかけているじゃないですか。マネックスグループもそれに応えて、年収の3%を特別一時金として支給しました。そういう流れがもっと広がっていくと思います。日本の経済をみんなで良くしていくと、みんなが楽になると思うんですけどね。

次回は4月11日更新予定です。


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