去る9月14日に日中関係学会主催(中日関係史学会共催)の国際シンポジウム「現下の難局を乗り越えて~日中が信頼関係を取り戻すには~」が開催された。その中で日中二人の学者から、尖閣諸島(中国名・釣魚島)問題をいかに乗り越えて行くかに関する報告があった。この報告に基づき2回にわたって、尖閣諸島問題超克の道を提案する。第1回目は名古屋外国語大学・川村範行特任教授の論考を掲載する。同教授によれば、尖閣諸島の領有権問題を巡り日中両国間に「棚上げ合意」が存在したという外交文書上の裏付けは確認できないが、少なくとも「暗黙の了解」があった可能性が認められるという。同教授は、日中双方が「棚上げ」論から脱して、危機管理と共同開発の話し合いに進むよう主張している。

かわむら・のりゆき
岐阜県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、中日新聞社入社。上海支局長、論説委員など歴任。2011年4月、名古屋外国語大学外国語学部特任教授。同済大学(上海)顧問教授、北京城市学院客座教授。日中関係学会副会長兼東海日中関係学会会長。専門は現代中国論、日中関係論、日中メディア論。著書は『構築未来的中日関係(日中関係の未来を築く)』(共著)ほか。論文は「尖閣領有権問題と日中関係の構造的変化に関する考察」など。

協調から対立へ

 2012年9月の尖閣諸島(中国名・釣魚島、以下「尖閣」と呼ぶ)国有化決定を契機に、日中両国は深刻な対立関係に陥った。すでに1年余が経過するが、「国交正常化以来、最悪」とみられる両国の対立関係は基本的に改善されず、長期化の様相を呈している。

 尖閣問題の影響は両国の政治外交だけでなく経済貿易、文化全般、民間交流など幅広い分野に及ぶ。尖閣問題を原因に相手国に対する国民感情の悪化が深刻化し、日中関係の長期不安定化が憂慮される。さらに尖閣周辺において中国の公船の巡回常態化、軍用機の巡航増加により、偶発的トラブルから軍事衝突へ発展の危険性も指摘されている。

 1972年の国交正常化以降40年余、日中関係は経済貿易を軸とする友好協調を基調に発展してきたが、尖閣の領有権問題を機に対立関係へと構造的に変化した。日中関係の構造的変化は「1972年体制」の崩壊につながり、「日中冷戦」の始まりと捉えることができる。

 尖閣問題の背景には、両国の内政事情をはじめ中国の大国化に伴う海洋強国戦略、日本の対中けん制外交、米国の新アジア太平洋戦略が複雑に投影されている。日中関係の悪化は東アジアのみならず世界の平和と安定を揺るがすことになり、関係改善は急務である。

「日中冷戦」を回避するために、東アジアの国際関係の中で日中関係の関係打開に向けて取り組まねばならない。