
日本に潜伏するジャック・マー氏の
華麗すぎる「失脚」ぶり
アマゾンに匹敵する中国ECサイト「アリババ」を成功させたにもかかわらず、当局への断りなしに米トランプ大統領に会うなど、中国政府に不快感を与えていた馬雲(ジャック・マー)会長。2020年前後に中国政府を批判して激怒させアリババのトップの座から失脚、一時行方不明と噂されたが、時々その消息が報道される――。
私のような中国事情に疎い人間には、これが少し前までの知識でした。しかし、最近私の知人から、日本で馬氏に会ったという人物が複数現れ始めました。本物のアリババ創業者なのか、それとも彼の名を語る詐欺師なのか。あの国のことですから、わかりません。
そう思っていたら、馬氏の日本滞在の状況を詳細に公表した本が出版されました。『潤日(ルンリィー):日本へ大脱出する中国人富裕層を追う』(舛友雄大著、東洋経済新報社)です。著者が馬氏の側近たちに取材し、近況を克明に調べた結果、馬氏は日本各地の観光地や温泉めぐりを堪能していました。
中国で失脚と聞けば、「幽閉」「牢獄」といった暗いイメージを持っていたのですが、なんとも優雅な「失脚」ぶりです。確かに、「孫正義氏の贈呈した京都の豪邸に住んでいる」(FRIDAY)、「家族でスキーリゾート地に行っている」(英フィナンシャル・タイムズ)といった報道はありましたが、今回ほど詳細な記事は初めてです。この本を読むと、どうも馬氏は日本に永住するつもりで、居場所をこしらえ始めているようです。
もちろん日本でも、専属シェフだけでなく、警備員の厳重な警戒付き。公の場にはなるべく出ないようにして、もっぱら現代日本美術のコレクターとして活動しながら、中国人が多く集まる会員制クラブ(女性が接客するクラブではなく、三菱クラブとか三井クラブのようなもの)で時間を過ごしているといいます。クラブのひとつは銀座にあり、もうひとつは皇居に面した丸の内の金融街にあるそうで、最近は自ら水彩画まで描くようになったそうです。
一方、復権に向けての活動も着々と進んでいるようで、23年5月には、東京大学傘下の研究組織「東京カレッジ」の客員教授に就任しました。大学の要請は、持続可能な農業や食糧生産分野における東大研究者との共同研究や事業の実施、さらに講演などで起業や企業経営、イノベーションなどの経験を学生や研究者に教えることだそうです。