表面的に見えるもの、威勢のいいもの、声の大きな人ばかりに気を取られていると、つい大事なものを見失いそうになることがある。

「引きこもり」という現象を語るうえでも、私たちが本質的に向き合わなければいけないのは、圧倒的に多くの人たちが姿を見せず、あるいは声を上げることもできずに引きこもり続けているという現実である。

 当コラムでも、問い合わせ用のアドレスを載せるようになってから、長年外に出られないような当事者たちとも、メールやソーシャルメディアを使って、ダイレクトでのつながりや関わりが生まれるようになった。

 そんな当事者たちの思いや反応を紹介したり、ときには一緒にイベントを開いたりするたびに、それまでずっと声を出さずに傍観していたような読者からも、当コラムのアドレスや問い合わせ窓口などにメールが寄せられるようになった。

 それが、どんなに短い一文であっても、勇気を出して紡ぎ出していただいた言葉の1つ1つには、生きてきた証の重みが凝縮されているように思える。

 また、同じような状況の当事者たちが、どんな思いで生きているのか。安心できる場であるのなら、「話を聞いてみたい」。あるいは「自分も話をしたい」と、密かに思っている人たちが多いこともわかる。

 こうした姿の見えない当事者たちに向かって、毎日、インターネット放送で呼びかけ、引きこもりの人と交流している人がいる。

「最初はお金になるなと思った」
ひきこもり研究所立ち上げのきっかけ

 静岡県静岡市にある「清水ひきこもり研究所」の原科佳衛(よしえ)代表(50歳)。通称“よしさん”と呼ばれている。

 本業は、大手メーカーの会社員。一旦、会社を早期退職し、2011年1月、相談と講演を行うための同研究所を立ち上げた。

「引きこもりの人が70万人とか155万人とか、かなりの人数がいるという報道を見て、潜在的な需要があるのに、ほとんどが相談に行かない現状を知りまして…。どういう人間かがわかれば、絶対、お金になるなと思ったんですが…」

 そんなきっかけを正直に明かしてしまうところが、また好感が持てる。

 退職後の1年間は、静岡大学の教育学部で非行や不登校、発達障害などの教育相談を勉強した。