猛暑効果の特需に沸く飲料業界で、地味ながら最も注目されているのが紅茶飲料だ。

 2010年上半期、お茶類、缶コーヒー類、ミネラルウォーターなど主要飲料の出荷が前年比でマイナスになる中で、紅茶飲料だけが唯一プラス成長を果たしたからだ。

 飲料大手のキリンビバレッジの調査によれば、消費不況のなかで紅茶飲料の市場は前年比で9%プラス成長だった。今年は相次ぐ定番ブランドのノンカロリー商品の登場で炭酸飲料が話題となったが、数字だけ見ると実際はマイナス1%と減少していたので、紅茶飲料の異彩ぶりが際立つ。

 8月の猛暑効果で紅茶飲料以外の売上げが伸びたため、下期の数字はいずれもプラスになる可能性があるが、あくまでも“特需”によるものだ。

 紅茶飲料が好調な理由は後述するが、この追い風を活かそうと、キリンは今月14日発売の「午後の紅茶」シリーズから、味や外観(ペットボトルの形状)をリニューアル。今年の目標出荷数を3860万ケースから4100万ケースへと上方修正した。これは小型ペットボトルの解禁で飲料ブームとなった1997年以来、じつに13年ぶりとなる最高出荷数の更新だ。

 リニューアルでは、従来よりも甘さを抑制し、一方で香りを強調した。一般的に飲料の飲用目的は、「リラックス」と、「ノドの乾きを癒す」の2つに大別できる。今回のリニューアルは前者に重点を置いたものだ。

 また、今年2月に発売開始以来、大ヒットとなった「午後の紅茶 エスプレッソティー」は、より渋みを強調する味へ変更した。

 このリニューアルを分析すると、紅茶飲料好調の要因が2つ浮かんでくる。

 一つは消費者動向、環境の変化だ。ストレス社会の中で、無糖茶やミネラルウォーターだけでは癒されないシーンが増えているが、かといって甘ったるいジュース類は避けたいと思う人は多い。また、所得の減少で、お茶やミネラルウォーターなどにカネを出すことに抵抗を持つ消費者が増加しているが、「緑茶」と「紅茶」のあいだには壁があり、ミルクティーなどには付加価値を感じている消費者が多いというのだ。

 もう一つは、「飲用シーン」の広がりだ。もっとも顕著なのは職場だろう。オフィスの机、あるいは会議にペットボトルを持ち込むことが許容されることが多くなった。それでも、炭酸飲料などはまだ持ち込みにくい雰囲気があるが、紅茶なら、緑茶と同様に許されるというものだ。

 また、小容量缶で味も渋めのエスプレッソティーは、思惑どおり缶コーヒーユーザーをとらえて、缶コーヒーが飲まれていた喫煙シーン、運転シーン、休憩シーンなどに紅茶飲料が浸透してきたのだ。

 もちろん、広がる市場を他社も指をくわえて見ているだけではない。アサヒ飲料は今年になって紅茶飲料の「TeaO(ティオ)」ブランドを復活させ、来月からはカロリーゼロ商品や、エスプレッソティーを彷彿させる少容量缶の濃厚紅茶を発売する。伊藤園、サントリーも紅茶飲料を強化している。

 コンビニエンスストアなどで発売されている紙パックの紅茶飲料も、10代の若年層を中心に定番商品となっており、紅茶飲料の飲用習慣はまだ拡大すると飲料業界は期待している。

 成長市場をめぐって、各社の知恵比べ、新商品提案がまだまだ続きそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)

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