秋の健診シーズンもそろそろ終盤へ。忙しいから、と逃げ回っている方へ少々厳しい報告を一つ。中高年男性が予防したい疾患の筆頭は心筋梗塞と脳卒中だが、脳卒中に関してはどこかに「お年寄りの病気」という気持ちがある。ところが、米国神経学会誌「Neurology」に報告された調査研究によると、近年、脳卒中の発症が若年齢化しているというのだ。

 調査研究では米国中西部の中規模都市圏(人口130万人前後)の住民を対象に、1993年7月から94年6月までと、99年、2005年のそれぞれ1年間ずつのデータを比較。93~94年当時の脳卒中の平均発症年齢が71.2歳だった一方、05年は69.2歳へ低下していた。

 さらに55歳未満(20~54歳)の発症を見ると、93~94年の12.9%に対し、05年は18.6%に上昇していたのである。人種別ではアフリカ系アメリカ人、白人とも年齢を経るとともに増加、人口10万人当たりの発症数はアフリカ系アメリカ人が93~94年の83人から05年の128人と約5割増、白人は同26人から48人へと、ほぼ倍増している。

 一方、国内に目を転じると高齢患者の増加に隠されがちだが、この数年、70年前後に生まれた世代の脳卒中患者が増加傾向にあることが明らかになっている。この世代は高度経済成長期真っただ中の生まれ。この時期を境に日本人は小児期から欧米型の食生活にどっぷりつかり、社会や生活文化もガラリと変化した。

 70年代までの日本人の脳卒中といえば、しょっぱいもの好きが生み出した高血圧が主要因。しかし、それ以降は塩分が減る一方で、高脂肪食──つまり欧米型の食事が増加。これを背景にした耐糖能異常、脂質異常症、肥満の「メタボ型」脳卒中が増えてきたのである。もはや、脳卒中は「お年寄りの病気」ではない。

 つらい現実として、脳卒中発症後の復職率は3割程度。それもほとんどが軽症に限られた話だ。研究者は55歳以前でも定期的な健診や人間ドックは必要だとしている。忙しい、は言い訳にならない。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド