国内で73万部を突破したアドラー心理学の入門書『嫌われる勇気』。じつは今、韓国でも大注目のベストセラーとなっている。2014年11月末に韓国で発行されるや、わずか4ヵ月余りで30万部まで部数を伸ばし、アドラー心理学ブームを巻き起こしているのだ。
そして今年3月、先方の出版社に招聘され、著者の岸見一郎氏と古賀史健氏がプロモーションのためにソウルを訪れた。テレビ・新聞・雑誌の取材から、講演会、サイン会に至るまで怒涛の3日間を過ごしたお二人に、現地での熱い状況を語っていただいた。(聞き手:今泉憲志)

想定外のスピードで
ベストセラーに

──昨年11月に刊行された『嫌われる勇気』韓国語版が、累計30万部、ベストセラーランキング11週連続総合1位(2015年4月20日時点)と大変な勢いになっています。韓国でこれほどまでに受け入れられていることをどう思われますか?

いまなぜ韓国で『嫌われる勇気』が<br />30万部の大ヒットになっているのか?岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ。京都在住。高校生の頃から哲学を志し、大学進学後は先生の自宅にたびたび押しかけては議論をふっかける。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの“青年”のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』(アルテ)、『人はなぜ神経症になるのか』(春秋社)、著書に『嫌われる勇気』(古賀史健氏との共著、ダイヤモンド社)、『アドラー心理学入門』『アドラー心理学実践入門』(以上、ベストセラーズ)』、『アドラー 人生を生き抜く心理学』(日本放送出版協会)などがある。

岸見一郎(以下、岸見) 日韓の社会は似ているようで似ていない側面がかなりあります。ですが、私としてはアドラーの教えは普遍的なものであり、おそらく『嫌われる勇気』も受け入れていただけると思っていました。ただ、これほど速いペースでこの部数まで成長するとは思っていなかったので非常に驚きました。

古賀史健(以下、古賀) 韓国の人たちは日本人よりも自己主張が強いという印象がありますし、対人関係の問題についてそれほど悩んでいるとは思っていなかったので、正直なところビックリしています。そもそも日本語版の『嫌われる勇気』が、もっと長い時間を掛けて広がってゆく本だと思っていました。なので、日本の売れ行きにも相当驚いていたのが正直なところですが、韓国はそれ以上のスピードなので驚きはより大きいですね。

岸見 私は韓国についてそれほど詳しいわけではないのですが、知人から聞いた話などを参考にすると、おそらく日本よりもっと縦社会なのだろうと理解しています。たぶん、そうした縦社会に抵抗を感じる人が増えており、『嫌われる勇気』は、その人たちの興味を引いたのではないでしょうか。

古賀 日本の場合、仕事や生き方の選択の悩みなどを抱えて『嫌われる勇気』を手にとる読者が多いと思います。ですが韓国を訪れて取材や講演会などに出てみると、親子関係に関する質問がすごく目立つんですね。本人と親との関係はもちろん、本人と子どもさんの関係について問われることが実に多かったという印象です。