まるで10年前のリプレーを見ているようだ。言わずと知れた米国の金融危機である。
 
 今からちょうど11年前の1997年11月、三洋証券の破綻をきっかけに、都銀の一角であった北海道拓殖銀行、そして四大証券の一つであった山一証券が破綻した。翌1998年の10月には日本長期信用銀行、12月には日本債券信用銀行が破綻し、日本は金融危機の深淵を垣間見た。くしくも9月15日に破綻した米国のリーマン・ブラザースも、山一証券と同じ業界第4位であった。

 今回の金融危機はまだ収まる気配を見せない。なぜ、このような世界を震撼させる金融危機が発生したかはさておき、焦眉の急である処方箋について考えてみたい。

 少し理屈っぽくなるが、金融危機を考える際には、リクイディティ(流動性)とソルベンシー(支払い能力)が、キーワードになる。流動性とは約束した期日に決済をできるお金があるかどうか、お金を借りてくる力があるかどうかである。支払い能力とは、預金や借金を返せる能力があるかどうか、一言でいえば債務超過に陥っていないかどうかである。

 もちろんこの2つは密接に絡んでいる。金融不安が今回のように市場全体を覆い尽くすと、どの金融機関がソルベンシー不足に陥っているかわからなくなるため、金融機関同士が一時的な資金の過不足を調整する金融市場に相互不信が蔓延し、みながおカネを出し渋る。このため、貸し借りがうまくいかず、債務超過でない健全な金融機関でさえ、資金繰りに失敗して支払い不能に陥り、倒産してしまうことにもなりかねない。支払い不能が支払い不能を呼び、金融システムがマヒしてしまうのだ。これがシステミックリスクであり、パニックである。

 では、米国の金融危機は回避できるのだろうか。

 結論から言えば、日本の金融危機以上に、ことは厄介である。ごく簡単にいえば、日本の金融危機は、バブル期に不動産を担保に貸し出し競争に突き進んだ銀行(金融機関)が、バブル崩壊で膨大な不良債権を抱えたために発生した。当時、日本では貸し出しの転売や証券化は発達しておらず、企業向けの貸し出しは銀行融資が中心。このため不良債権のリスクや損失が銀行部門に集中した。

 今にして思えば、不幸中の幸いで、処方箋は描きやすかったとも言える。銀行部門にリスクが集中しているため、日銀が金融市場に流動性を供給して市場を落ち着かせ、次いで公的資金で銀行の自己資本を増強して、ソルベンシー不足を解消するという手を打ったからだ。