「いや~、うちの妻なんてね、以前は“中国はトイレが汚いから絶対行くのはイヤ!”なんて言っていたんですけど、トイレがきれいになっただけで、途端に中国を見る目がガラッと変わっちゃったんですよ」
中国に単身赴任経験のある某大手メーカーの男性は、こう苦笑する。
毒入り餃子事件や北京五輪に沸いた昨年は、中国が最も注目された1年だった。米国発の金融危機以降、すっかり中国の話題は鳴りを潜めた感があるが、この年末年始の休暇に夫婦で北京を訪れた友人から、ちょっと面白い話を聞いた。
これまで“トイレ事情が最悪”と言われていた中国で、トイレのインフラ整備が急ピッチで進められているというのだ。そのきっかけとなったのは北京五輪だが、五輪が無事に終わって半年以上が経った現在でも、北京では着々と「トイレ革命」が進められているという。
冒頭のように、旅先や出張先のトイレ事情がどうなっているかは、老若男女を問わず、重大な関心事である。中国の公衆トイレと言えば、これまで世界中から「汚い、臭い、汚物の山」という不名誉な“3大お墨付き”を与えられていたことで知られている。
実際、その状況は、先進国の人々には想像もできないほどひどかった。
現在、中国のトイレの形は日本の和式便器とほぼ同様であり、日本のような白い陶器製よりも金属製が多い。だがこれまでは、トイレと言っても、真ん中に穴が開いていたり、溝があって川のようになっているだけのものがほとんどであり、「個室の仕切りさえない」という有様だった。穴や溝には流されないまま“汚物の山”が放置されていることも日常茶飯事だったのである。
一部では洋式も導入されているが、やはり仕切りやフタはなく、道路からちょっと顔を覗き込めば、「中で用を足している様子がすべて丸見え」という状態。女性トイレでも、隣同士で顔が見えてしまうという。
そのためか、1980~90年代に中国に駐在したり、旅行したりしたことがある日本人は、仕切りのない丸見えトイレを「ニーハオ・トイレ」と呼び、揶揄してきた。
北京五輪前、日本のあるスポーツ選手団が中国で競技した際、悪臭やトイレでの中国人喫煙者に辟易し「中国では二度と競技したくない」と発言し、物議をかもしたこともあるほどだ。
そんな中国で、今何故「トイレ革命」が進んでいるのか?
そもそも北京で「トイレ革命」が始まるきっかけとなったのは、五輪開催が決まった2001年だが、実際にインフラ整備に乗り出したのはここ数年のこと。北京市政府は2001年当時、オリンピックに向けて都市インフラに合計2800億元(約4兆2000億円)を投入すると発表した。