製造業務への派遣が、“派遣切り”の温床になっているとして、労働者派遣法の見直し論議が白熱してきている。所管は厚生労働省だが、水面下で経済産業省が激しく動き始めている。雇用創出は厚労省にはできないとうそぶく経産省による“労働行政シフト”の真の狙いはどこにあるのか。

  「なぜ、経産省が雇用問題にしゃしゃり出てくるのだ」と、ある厚生労働省幹部はいらだつ。

 昨年12月の完全失業率は4.4%となり、前月に比べて0.5ポイント悪化し、41年ぶりの大幅な上昇幅となった。いまや、雇用政策は緊切の政治テーマである。

 自民党には、雇用政策を議論する基本組織として「雇用・生活調査会」があるが、そのほかにも、公明党との「新雇用対策に関するプロジェクトチーム」、その傘下に、非正規労働のあり方を議論する「労働者派遣問題研究会」と複数にまたがっている。

 最近、経済産業省の官僚が、これらの会合に“オブザーバー”として参加したり、雇用問題をテーマにして政治家詣でに余念がなかったりと、労働政策にかかわろうとする動きが目立っている。言うまでもなく、日本の労働政策を束ねるのは厚労省だが、所管の壁を越えて、経産省が労働行政へ介入する機会を狙っているのだ。

 なぜか。

 ある経産省幹部は、「厚労省には弱者救済策はできても、雇用創出策を練る能力がない。雇用創出なくして、雇用情勢の好転は望めない。ならば、産業政策とセットの雇用創出策はわれわれにやらせてもらう」と打ち明ける。

 経産省の労働行政への意欲を象徴する出来事を、二つ挙げよう。

 一つ目は、昨年12月末に閣議決定された「独立行政法人 雇用・能力開発機構」(厚労省所管)の廃止後の運営方法についてである。赤字を垂れ流してきた機構は廃止され、職業訓練事業は別の独立行政法人(厚労省所管)に統合、その運営については、「中期目標の策定は経産省と協議する」と注記が付いた。実質的には、厚労省と経産省の「共管」となったのだ。