政権交代を実現させたのは、必要性に疑問のある公共事業を漫然と続けるなど、税金の使われ方への不満や憤りだった。こうした世論を背景に、前原誠司国土交通大臣がダム事業の見直しに乗り出した。だが、ダム問題にはまだ、重大なことが隠されている。農林水産省が所管する農業用ダムの存在とその問題点である。
歴史的な使命を帯びて誕生した鳩山内閣が、負の遺産の処理に奮闘している。なかでも獅子奮迅の働きをしているのが、国土交通省の前原誠司大臣だ。税金のムダづかいの代表的な事例であるダム事業に初めて、メスを入れた。国(国交省)が主導する56のダム事業のうち、本体工事の未着工の28事業をいったん凍結する方針を示した。八ツ場ダムなどがその対象だ。大きなニュースとして連日取り上げられ、ダム問題はいまや国民的な関心事となった。
だが、その一方でもう一つのダム問題が陰に隠されたままとなっている。光がまったく当てられず、国民は実態を知らされずにいる。
前原大臣によって取り上げられたのは、国交省が所管するダムである。あまり知られていないが、農林水産省も全国各地にダムを造り続けている。土地改良法に基づいて造られた国直轄の農業用ダムは、これまでに150に上る。さらに現在、建設中の農業用ダムが15(下表参照)。
農水省もまた、意味不明なダムを建設したり、ないしは建設中なのだ。
たとえば、いまや全国的に知られる大蘇ダムだ。九州農政局が熊本県産山村に建設した農業用ダムだが、水漏れで使用不能となっている。ダム湖の底や周辺に亀裂があり、水がたまらないのである。周辺一帯は阿蘇外輪山の東麓で、いわゆる火山灰地。地盤も脆弱なため、地元の人たちは当初から、水をためるのは難しいと懸念していた。
水がたまらない農業用ダム
大蘇ダムは2005年にダム本体が完成したが、総事業費は計画当初の約130億円から約593億円にまで増大した。
そのうえ試験湛水で水漏れという大問題が発覚した。水利用はできず、30年も待たされ続けた農家は怒り心頭。原因と対策の検討で事業は宙ぶらりんの状態だ。