著名ベンチャーキャピタリストの原丈人氏が主宰するアライアンス・フォーラム財団が、途上国支援の人材育成策として、大学院での修士課程の開設を進めている。アジア最貧国のバングラデシュのBRAC大学と協力して、マイクロファイナンスの修士課程を、3年以内に開設する計画だ。

 第一段階として今年9月、10日間の短期プログラム、マイクロファイナンス・プロフェッショナル養成コースを開設する。マイクロファイナンスは、商業銀行から融資を受けられない貧困層の人々を対象とした小額の無担保融資システムで、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏創設のグラミン銀行が有名だ。
 
  主に途上国において、貧困から脱する生計基盤構築を促す融資を行ない、融資先への関与や連帯責任制度などにより高い返済率を実現している。このように特徴のあるファイナンスの専門家養成が、同コースや修士課程の目的だ。

 「世界不況の元凶である、歪んだ資本主義を推進したMBAホルダー。それに理論的・実践的に対抗する人材を育成し、輩出したい」と原氏は狙いを語る。株主を過度に尊重した現在の資本主義に対して、従業員や社会などにも利得をもたらす“公益資本主義”の実現を目指す原氏の活動の一貫だ。

BRAC大学マイクロファイナンス・プロフェッショナル養成コースのプログラム作成陣。右からサレフディンBRAC大学理事、ハシェミBRAC大学開発学部学部長ら

  今回のコースは、マイクロファイナンスの日本人のプロを多く育てることを目的に、15人程度の日本人を募集。バングラデシュで、考え方や実務の概要を履修した後、グラミン銀行やASAなど代表的なマイクロファイナンス金融機関のフィールドワークを行なう。講師陣は、BRAC大学開発学部学部長や前BRAC副代表など、長くマイクロファイナンスの実務を経験してきたメンバーだ。

  プログラムを作成した東京財団・アライアンスフォーラム財団の野宮あす美研究員によれば、マイクロファイナンスを専門に学べる教育機関は現在、イタリアのボールダーインスティテュートだけ。同機関は経験者の能力向上に重点を置いているから、マイクロファイナンスのプロを基礎から養成する機関の設立は今回が初めてだ。

  主催者のBRAC大学は、世界3大マイクロファイナンス機関の1つであるBRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)が2001年に創設した総合大学。BRACは、1972年に設立されたNGOで、マイクロファイナンスの元祖。現在、予算規模約350億円、職員10万人、会員600万人の規模まで成長している。

(「週刊ダイヤモンド」副編集長 大坪亮)