4月より公共政策(経済政策)とファイナンスを学ぶために仕事と並行する形で大学院に通い始めた。ここ数年間は、M&Aやコーポレートファイナンスを中心とした企業活動や金融・経済分野の解説を主な仕事としてきており、株式投資の分野も含めると関連著書は共著を含めて10冊以上になる。したがって、「大学院に通い始める」と周りに伝えた時のほとんどの人たちの反応は、「なぜ必要なの?だって金融とか詳しいじゃない?」というものであった。著書の半分弱は物語や漫画をベースとするものなので、「金融関連の本を10冊ほど書きました」と言うと少し語弊も生じかねないが、いずれにせよ「本まで書くような人がなぜ大学院に通うのだ?」、これが多くの人から発せられた疑問であった。
また、いざ大学院に通い始めてみると、最初の1週間は毎日どこかの授業で「あの~、保田さんですよね。ご著書何冊か持っています」とか「ブログ読んでいますよ」など声をかけられてしまった。彼らも同様に「何をしに来たのですか?」と聞いてきた。
なぜ大学院で学ぶのか、それは見識の幅を広げて深めるために他ならない。ただ、学者になるためではなく、あくまで仕事においての幅と深みを追求するためのものである。単に知的好奇心を満たすのが目的ではなく、当然ではあるが、大学院に費やす時間とお金は先行投資であり、後で仕事において十分なリターンを獲得することを念頭に置いている。
仕事で求められる見識は
より広く深く複雑に
私は、もともと外資系証券会社でM&Aやコーポレートファイナンスのアドバイザリー業務に従事し、その後は自ら起業をしたり、ベンチャーキャピタルファンドを運営していたので、それら分野に関しては比較的詳しい。しかし、それらはあくまでも業務を通じて習得した見識であり、アカデミックに学んだものではない(書籍で学ぶことは多々あったが、教育機関でそれら分野に関しての教育を受けたことはない)。また、自分が業務で担当した分野以外に関しては、さほど詳しいわけではない。
「証券会社の人」と聞くと、株式、債券、証券化、M&A、コーポレートファイナンス、そして資産運用とあらゆる分野に関して精通している人という印象を一般の人たちは持つようだが、実際は、債券部の人間は毎日債券ばかりと向き合っており、株式部の人間は株式とベッタリである。そして、M&Aやコーポレートファイナンスに関与する人間は、市場の分析よりも企業の収益分析に優れている人の方が多かったりする。
しかし、最近は市場と企業活動のグローバル化とともに、各分野の境界線があいまいになりつつある。また、サブプライムや為替、金利の話がこれほどまでにお茶の間に入ってくることは今までなかったので、ファイナンス分野の見識が求められる場面は増えており、求められる解も複雑化している。これはファイナンスの世界に限ったことではなく、最近事業会社が発表する新商品は今までの商品や技術のいろいろな要素を組み合わせたものが多く、中で働く人たちが自分の担当分野のこと以外にも興味を持たないことには登場していなかったものと思われる。