航空機や次世代自動車の有望素材として注目される炭素繊維。日本勢が世界の7割以上の生産を任い、東レがトップシェア(推定34%)を握っている。帝人がここに猛追撃をかけ始めた。
同社は2007年に炭素繊維の生産量で東レに次ぐ東邦テナックスを完全子会社化したが、今年7月には、静岡県御殿場市にあるベンチャー企業、ジーエイチクラフト(GH)を買収する。東邦テナックスの研究者や帝人の樹脂研究者をここに集結させ、複合材料開発センターをつくる方針だ。
GHの子会社化のために投じられる資本は約10億円と“小粒”ではある。だが、この会社、炭素繊維研究者のあいだではよく知られている。ヨット好きの木村學社長が38年前に創業したベンチャーで、繊維に樹脂を染み込ませた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使い、ヨットを開発。それを手始めに、風力発電の羽根や航空機部品などを手がける。「愛・地球博」の会場を走った無人バスの車体を設計したのも同社だ。
「GHのCFRPの応用技術に、帝人の樹脂技術を融合し、複合材料研究を飛躍的に進歩させたい」と、帝人の山岸隆専務も期待を込める。炭素繊維のほか、スーパー繊維のアラミド繊維を使った複合材料も開発する。「カスタマーラボとして、自動車メーカーに活用してもらい、新素材開発につなげたい」(山岸専務)という。
ライバルの東レは今年、名古屋に炭素繊維複合材料の研究所を開設している。自動車メーカーとの共同研究で、こちらも次世代自動車素材のデファクトスタンダードを取ろうと必死だ。
次世代自動車は20年頃に実用化されると見られているが、水面下での研究開発競争は激しさを増している。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)