【第10回】 2010年02月04日
「自己主張」で排除されてしまう
―周りに「どう思われるか」ばかり気にする「ムラ的共同体」
自分という「主体」が持てない人々の問題については、これまで本連載第2回や前連載第16回でも取り上げてきました。
しかし、これとは逆に、「主体」をはっきり持っているがゆえに、組織や集団の中で煙たがられて、理不尽な扱いを受けてしまう人々もいます。また、そのようなことが原因となって、本人も「自分がおかしいのではないか」と疑いはじめ、その結果、「うつ」状態にまで追いこまれてしまうケースも稀ではありません。
そこで今回は、私たちの属する組織や集団がどのような体質を持っているのか、また、それが私たちの生き辛さとどう関係しているのかという点について、考えてみたいと思います。
ここは「社会」なのか「世間」なのか
――そんなふうに生意気で協調性がないようでは、君はどこに行ってもやっていけないと思うよ。
Yさんは、過酷な労働条件を課せられ、それに対して異議を唱えた際に、このような捨て台詞を社長から浴びせられ、不当に解雇されてしまいました。
ここで、「生意気」という言葉が使われていることに注目してみましょう。
これは、「タテ社会」において用いられる典型的な言葉で、上の立場の人間が下の立場の人間の主張に対して論理的に反論できない際に、感情的に吐き出されるものです。
しかし、およそ個人主義をベースにした会社という組織形態で雇用されている人間は、雇用者とは雇用契約という対等な「契約関係」にあるはずで、そこに「タテ社会」的な力学が持ち込まれていることは、本来おかしなことだと言えるでしょう。
ここではまた「協調性」という言葉も用いられていますが、これを実質的に翻訳すれば、「暗黙の空気を読んで、どんなに理不尽だと感じても、ほかの連中のように文句を言わず、黙って従え」ということでしょう。
私たちの社会は、明治維新以降、急速に西洋の制度や概念をとり入れ、近代国家としての体裁を整えてきました。しかし、近代化を急ぐあまり、それらが基盤に据えていた個人主義の精神を理解することはなおざりにされてきたきらいがあります。
そもそも「社会」という概念は、「主体」としての権利や独立性を持った「個人」が集合した集団を指すものです。その意味からすれば、私たちが所属している様々な組織や集団、そしてその集合体である日本社会の実質は、「社会」というよりは、依然として「ムラ的共同体」の傾向を色濃く残した「タテ社会」的なものであると言わざるをえないでしょう。これは、「世間」と呼ばれているものにほかなりません。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
今日急増している「うつ」は、もはや特定の個人の問題と捉えるだけでは十分ではない。現代人が知らず知らずに翻弄されているものの正体は何か。前連載に引き続き、気鋭の精神科医が豊富な臨床経験をもとに読み解く。
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