北京オリンピック開幕まで3ヵ月を切ったというのに、競泳日本代表チームが迷走を続けている。ご存じの通り、好記録が出せる水着の着用を巡って揉めているのだ。
今年2月、英国・スピード社が最新の機能を満載した水着「レーザー・レーサー」を発表。着用した選手が軒並み好記録を出した。今季はすでに18の種目で世界記録が更新されているが、このうち17が「レーザー・レーサー」を着用した選手によるものだ。日本代表選手が試しに着て泳いだところ、100mで0.5秒は短縮できる感触があったという。北京オリンピックでは6割以上の選手が着用し、上位を独占するともいわれている。
ところが、日本の選手は「レーザー・レーサー」を今のところ使用できない。日本水泳連盟が日本代表公認ウェアとして公認しているメーカーは、ミズノ、アシックス、デサントの3社。スピード社とライセンス契約を結んでいるゴールドウィンは公認メーカーではないためだ。
3週間で新商品開発
という無理難題
現場からは「このままではメダルは獲れない」という声があがった。この声に押される形で日本水連は5月7日に理事会を開き、3社合わせて1億円を超すといわれる違約金を払ってでもスピード社の水着を使用できる新たな契約を結ぼうと動いた。
しかし、公認3社の抵抗は大きかったようだ。3社は長い年月をかけて水連とのパイプを築いてきた。大会を後援し、有力選手には用品の提供などの支援を行っている。それもこれもオリンピックの舞台で自社のブランドマークをつけた選手が活躍し、ブランドイメージを高めるためである。もし、スピード社の水着使用が認められたら、個人的にメーカーと契約している選手(北島康介=ミズノ、柴田亜衣=デサントなど)以外の多くは「レーザー・レーサー」に流れるだろう。そうなったら、これまでの努力は何にもならなくなる。
現場の声とメーカーの抵抗の板ばさみになった日本水連はスピード社公認の決断を下せず、かわりに3社に対し、5月30日までに現状の水着の改良することを要請した。しかし、「レーザー・レーサー」はNASAをはじめ、多くの研究機関の協力を得、3年あまりをかけて開発されたといわれる。それに匹敵するものを3週間で作れというのは無理難題。その間、選手たちはスッキリしない気持ちを抱えて直前練習をしなければならないのである。