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外科医のつぶやき

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「お坊さまのお仕事」も医療のひとつ

 外科医になって3年目ごろのある日、家へ帰ると遠い親戚に当たるというお坊さまが来ておられて、母と昔話をしていた。私が挨拶をして横に座ると、突然そのお坊さまが

 「たかしちゃん、お医者さんだそうですね。患者さんは元気になられる場合もあるけど、亡くなることもあるでしょう」

 と、私に話しかけられた。

 「はい、今はガン末期の方のお世話が多くて」と私。

 「そうですか。最期に立ち会われるんですね」とお坊さま。

 「死亡確認が月に2、3回はあります」と私。

 「悪いことはいいません。亡くなられた方に向かわれた後は、必ず心の中でかまいませんから手を合わせて、南無阿弥陀仏を唱えてくださいね」とおっしゃって、お坊さまはこう続けた。

 「いろいろな思いを抱いて亡くなられる方がいます。どんな方でもご冥福を祈る思いをそれぞれの霊に伝えてください」

 私は“霊”については、そのときはあまり理解できなかったが、それ以降必ず、ご冥福を祈る思いを込めて心の中で「南無阿弥陀仏」と手を合わせることを実行した。

 その後勤めた病院での出来事。

 その病院は戦後まもなく建てられて老朽化が進んでいたため、新病院への移転構想が立てられていた。あるとき、三十代後半の独身女性の患者さんが手術後合併症を起こして退院できないまま、亡くなられるという不幸なことが起こった。

 亡くなられる数日前、廊下で歩行器を使って懸命に歩かれていたのを見かけた私は「がんばれてますね」と声をおかけしたが、その髪が急に白くなっているのに驚いたのだった。

 そして亡くなられたその日、私は病室の前を通りかかり、名札の名前が変わっているのに気づいた。詰所でたずねると「昨晩、亡くなられました」と担当のY看護師が答えてくれた。胃ガンの根治手術で縫合不全という合併症が起こり何度も手術や処置を行った。半年近い入院で、合併症がよくなったころから免疫が低下し、抗がん剤予防投与ができないこともあり、早期にガンが再発してしまったのだった。

 そのとき「ピンポン、ピンポン」と名札の変わったその病室から患者さんのコール。「ハーイ、どうなさいました。すぐ行きますね」と出て行ったY看護師が、しばらくすると悲壮な顔をして戻ってきた。「患者さんが金縛りにあってて…、髪の毛の白い女性が夢に…」と言葉を詰まらせる。

 居合わせた詰所の数名は、一瞬で私と同じことを考え、血の気が引く思いにとらわれた。

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著者プロフィール

柴田高

川崎医科大学卒業後、大阪大学論文博士課程修了。日本外科学会指導医。日本消化器外科学会専門医。現在は大幸薬品副社長。著書に『カリスマ外科医入門』『肝癌の熱凝固療法』がある。

この連載について

現在は製薬会社役員である外科医師による医療エッセイ。患者の知らない医師の世界。病院の内側が覗ける、ここだけの話が満載。

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