「勝者のゲーム」と資産運用入門

個人投資家待望のNISA改革案が浮上!投資上限の引き上げや投資期間の恒久化など。さらに改善を図ってほしいのがこれだ!太田忠の勝者のポートフォリオ 第47回

2022年8月31日公開
太田 忠
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2014年に始まったNISA。率直な印象は「これでは資産形成できない」

 「各人が置かれている状況は異なるし、年齢によって投資できる時間軸も異なる。わずか5年ぽっちの期間、しかも年間100万円で合計500万円の元手だけの非課税対象。これでは資産形成などできるはずがない」―。

  2014年に始まった「一般NISA」(少額投資非課税制度)の内容を見た時の私の率直な印象だ。その後、一般NISAは2018年に年間120万円で合計600万円に増額され、さらに年間40万円で20年間積み立てられる「つみたてNISA」や、親が未成年の子の代理で運用する「ジュニアNISA」も誕生した。

英国ISAと比較すれば一目瞭然。NISAの3つの欠点とは?

 そもそもNISAは英国のISA(個人貯蓄口座)制度のコンセプトを受け継いで「日本人の資産形成のために」という目的で作られたが、キャピタルゲイン課税10%の特例を20%に戻すことと引き換えに始まったことも影響して、「資産形成には不十分」で、しかも「欠陥だらけ」としか言いようのない内容だと思う。以下にISAとNISAを対比してみる。

① ISAの非課税期間は恒久化、NISAは時限的措置

 NISAは期限が来れば終了するが、終了するタイミングで好パフォーマンスとは限らない。好パフォーマンスでなければ資産形成にはならない。しかも投資に失敗した場合、損失は損益通算できない。

② ISAの年間非課税枠は約320万円(2万ポンド)、NISAはきわめて小さな枠

 NISAで投資できる金額が小さすぎる。5年間の比較でみた場合のISAの枠は1600万円もあるのに対して、一般NISAはわずか600万円。20年間の比較ならISAの枠は6400万円、つみたてNISAはわずか800万円である。

③ ISAは銘柄の入れ替えが自由、NISAは入れ替えやロールオーバーすれば新たな枠を使ってしまう

 投資は時によって機動的な入れ替えが必要だ。ISAは自由なのにNISAはそれができない。選んだ投資先がハズレの場合は惨めな結果に終わってしまう。

 私の場合、一般NISAを1年間だけ使ったが、損失が出た場合に利益との合算ができないという使い勝手の悪さもあって2年目から利用しなくなった。とにかくこの制度を使って本格的かつ柔軟な資産形成などできない、というのが私の偽らざる気持ちである。

「金融庁が2023年度税制改正要望にNISAの投資上限引き上げを盛り込み、投資期間の恒久化も求める」との報道に好感

 ところが、である。先週のニュースで「金融庁は2023年度税制改正要望にNISAの投資上限引き上げを盛り込み、投資期間の恒久化も求める」との報道がなされた。しかも日本証券業協会が7月にまとめた提言ではISA並みの上限額を要求。一般NISAを年120万円から240万円に、つみたてNISAを40万円から60万円に引き上げる案を提示、しかも併用が可能で最大の投資額は合計300万円とのことである。

 これはナイスアイデアだ。というよりも最初からこうしておくべきだった。ようやくスタートラインに着こうとしているという感じだ。現状のつみたてNISAは投資信託だけにしか投資できないが、株式も購入できるようにする案が盛り込まれている点も歓迎である。恒久化によって生涯どのタイミングでも非課税で投資できる仕組みになれば、今の異常に高い20%というキャピタルゲイン課税を負担することなく資産形成に取り組むことができる。

 実は恒久化のプランは金融庁にとって2014年のNISA創設時からの悲願だった。しかし、与党の税制調査会を筆頭に政府内で「金持ち優遇」との批判が強く、税制改正で実現したことはない。NISAは一般庶民のためのものであり、どこが金持ち優遇なのか。投資に無理解な反対勢力のため10年近くも国民は不利益を被ってきたのだ。

一般庶民の投資を促すには、NISA改革に加え、金融増税案を撤廃すべき

 今回これほどまでに一気にNISA改革が勢いづいたのはやはり、岸田首相が掲げた「資産所得倍増プラン」が重要施策と位置づけられているからだと思う。ついでに株式市場を揺るがした金融増税案もこの際撤廃して欲しい。「1億円の壁」とか何とか言ってもそれはごくごく一部の高所得者に当てはまるだけ。20%もの高い税金が課され多額の税金を支払わされている一般庶民のことなど全く考えていないことは本末転倒も甚だしいと私は思っている。

 皆さんもすでにご存じのように、昨年末に初めて日本の家計の金融資産は2000兆円を突破した。そのうち約半分の1000兆円は預貯金として滞留している。そのため過去20年の金融資産の伸び率は1.4倍。一方、株式投資が盛んで金融資産の半分が株式・投資信託の米国では同期間において約3倍の伸び率だ。日本の株式・投資信託の比率はわずか14%、一方で米国の預貯金の比率は13%。あまりにも違い過ぎる。今の時代、預貯金はどんどん価値が目減りしているのだ。一般庶民の「貯蓄から投資へ」を促すためには、やはりISAのような使い勝手の良い仕組みが必要である。

 私が先ほど述べたISAとNISAの比較の①②はクリアされそうだ。実際にNISAをおこなっている人たちが問題意識として持っている③についても改善を図って欲しい。投資可能期間と非課税期間の2つが恒久化されれば、老後を見据えた本当の意味での長期投資が可能となる。長期になればなるほど、マーケット環境は変化し、個別銘柄を取り巻く環境も変化する。それに対応できないのは画竜点睛を欠く、というものだ。ぜひともこの点についても改善を図っていただきたいと思う。そうすれば損益通算問題もほとんどなくなるはずだ。

「勝者のポートフォリオ」は最高値を更新し、ベンチマークを凌駕

 さて、マーケットについてである。先週金曜日のマーケットは注目のジャクソンホールでのパウエル議長の講演があった。「やり遂げるまでやり続けなければならない」とインフレ退治のために利上げを継続すると改めて表明。「来年の早々にも利下げがおこなわれる」という能天気で楽観的な市場の見方を否定する形となったため米国市場は急落。NYダウは久々の1000ドル安となった。これはもう当然だ。ノーテンキな見方が間違っている。下げ局面で売らされ、急上昇で焦って高値買いしたヘッジファンドたち。ジャクソンホール前にはさらに買い増したと聞く。往復ビンタ+1で厳しそう。廃業する運用会社がまだまだ増えそうだ。今年は非常に厳しい年である。

 私がDFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ)で投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」はおかげさまで先週も最高値を更新した。相場環境が厳しい中、昨年10月にスタートした個人投資家向けサービスであるが、先週末の8月26日の時点で+2.8%(同期間のTopix-2.5%、日経平均-2.8%、マザーズ-34.0%)。先週はマーケット全体が下落したにもかかわらず、ポートフォリオはプラスとなりベンチマークをさらに凌駕している。たとえ調整が起こったとしてもマーケットに打ち克つだけの底力があるポートフォリオの布陣になっている。引き続き運用資産を積み上げ、会員の皆さんとともに大きく前進していきたい。

●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

 

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