日本では、実際に不動産物件を見て比較検討する際、「新築マンション、新築戸建て」なら不動産デベロッパーや住宅分譲会社、「中古住宅」なら不動産仲介会社と住み分けされていて、様々な不動産物件のなかから自分に最適な物件選びをサポートしてくれるエージェント(代理人)がいません。新築、中古を問わず扱えるようにした方が、買い主のためになるのではないでしょうか。
シンガポールの不動産仲介は、新築も中古も扱う
私が住むシンガポールでは、不動産仲介会社のエージェントは「新築マンション、新築戸建て」でも、「中古マンション、中古戸建て」でも、両方の物件を取り扱うことができます。不動産仲介会社はほとんど「中古」しか取り扱っていない日本とは大違いです。買い主が信頼できるエージェントを決めたら、エージェントは、新築、中古を含めて幅広い物件のなかから買い主に最適な物件を一緒に探してくれます。まさにエージェントは買い主の強い味方なのです。
こうした取引慣習になっているのには理由があります。シンガポールと日本では、新築物件の販売方法は大きく違うのです。新築のコンドミニアム(日本の分譲マンション)を開発したデベロッパー(開発会社)は、竣工直後は直接販売することはありますが、1か月程度で国家資格を持つエージェントなら誰でも取り扱えるようにオープン化して販売します。そのためエージェントは、新築・中古の両方を幅広く取り扱うことができるようになります。
シンガポールでは、中古の仲介手数料の上限が取引価格の1%と日本に比べて低く抑えられています。日本の不動産仲介会社なら「そんなに安い手数料で経営が成り立つのか?」と不思議かもしれません。重要事項説明などの業務は不動産仲介会社の業務には入っていないのである程度安くて当然なのですが、それでも安いと感じます。
実は、シンガポールでは新築の仲介手数料も手に入れることで、収益を確保しているのです。新築でデベロッパーがエージェントに支払う販売手数料にはシンガポールも日本も規制がありません。シンガポールでは、新築の物件の仲介手数料としてデベロッパーが不動産仲介会社に物件価格の5%程度を支払っているケースが多いようです。
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中古住宅の取引が増加してきた日本
では日本の不動産仲介会社の置かれた状況はどうなっているでしょうか。不動産仲介会社が取り扱うのは「中古」が中心であり、「新築」は不動産デベロッパーや住宅分譲会社が直接販売していることが多いのが現状です。
日本では、これまで消費者の多くは新築嗜好が強いと言われてきました。しかし、2016年の首都圏のマンション市場では、中古の売買成約件数が初めて新築を上回り、新築と中古が逆転しました。新築マンションの価格上昇が続いているために、値ごろ感のある中古の人気が高まっているためと言われています。消費者の嗜好も変化して、新築にこだわらずに中古も含めて物件選びをする人が日本でも増えてきているのでしょう。
しかし、「中古」の存在感が強まってきたとはいえ、不動産仲介会社が取り扱いできる「新築」はあまりないので、新築との比較は買い主が自分で行うしかありません。「新築」「中古」を合わせた幅広い物件から最適な物件選びをサポートしてくれる買い主エージェントは、日本にはほとんど存在しないといっていいでしょう。
一応、ポータルサイトやその運営者の行っている「◯◯カウンター」や「◯◯窓口」は、どちらの情報も掲載されており、最適な物件選びの窓口にはなりえます。しかしエージェント業ではないので契約書や価格交渉などのやり取りまではできません。
日本の大手デベロッパーは直販が基本
日本では新築物件の販売は、不動産開発会社自らが行うケースがほとんどです。とくに三井不動産や野村不動産などの大手は直販が基本で、共同開発や地方などの限られた物件を、系列の不動産仲介会社に販売委託する程度です。他の不動産仲介会社が新築物件を自由に取り扱って、成約時に開発会社から販売手数料を得ることはできません。
デベロッパーが売り主の場合、買い主である消費者は不動産仲介手数料を支払う必要はありません。一見するとお得な印象がありますが、分譲マンションのブランドイメージ向上のための広告宣伝費、モデルルームや販売センターなどの販売費などの間接経費がすべて、物件価格に上乗せされているのです。
デベロッパーとしては直販した方が買い主の生の声が聞けて、次の商品開発に生かせるのでメリットが大きいと言います。しかし、不動産仲介会社にも売ってもらうようにすれば、広告宣伝費などの販売費はかなりカットできる可能性があるのではないでしょうか。そうすれば、買い主も物件価格が低くなり、購入しやすくなります。
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直販でも、間接販売でも、”安心度”は一緒
日本で、シンガポールのエージェントのように新築・中古を含めて物件選びを相談できる不動産仲介会社はあるのでしょうか。個人不動産投資家や富裕層の中には、不動産コンサルタントを雇って不動産取引を相談している方はいるようですが、買い主が高額な不動産仲介手数料のほかにコンサルタントへの報酬を支払うのでは負担が重すぎます。
新築不動産をデベロッパー自ら責任を持って直販する方が、買い主にとっては安心というイメージがありますが、本当にそうでしょうか。10年以上前に発覚した分譲マンションの耐震強度データ偽装事件を機に、新築住宅には瑕疵担保責任保険が義務付けられました。住宅性能に対する責任は、直販と間接販売とで違いはありません。
日本の中古市場では、売り主から仲介を依頼された不動産仲介会社が、他社には物件紹介を行わせない“囲い込み問題”がクローズアップされてきましたが、新築の“囲い込み問題”はまったく注目されてきませんでした。日本でも買い主の立場になって物件選びしやすいよう、不動産仲介会社でも新築をもっと取り扱えるようにしていくべきではないでしょうか。
(編集協力=ジャーナリスト・千葉利宏)
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