生成系AIの普及で、探究学習の必要性はますます高まる教育現場での探究学習にも生成系AI活用の拡大が見込まれる 写真提供:芝浦工業大学附属中学高等学校

「AIの進歩によって人類が脅威を感じることは、10年前から予見していた」という日本社会イノベーションセンター(JSIC)代表理事の堀井秀之氏。驚くほどの速さで膨大な情報を収集し、人間顔負けのロジックと表現力で整理・分析するツールは、中学・高校教育のあり方をどう変えるのか? 堀井氏は、「生成系AIを使いこなせる人材の育成が重要になる」と提言する。

生成系AIが普及した社会で
未来をつくり出す人材の教育

 インターネット上にあふれる情報を基に、文章や画像、音声、コンピューターのプログラムなど、さまざまなコンテンツを自動的に作成する「生成系AI」が注目を集めています。

 2022年11月に生成系AIの一つ「ChatGPT」が公開されたことが発端となりました。人間には不可能なスピードで膨大な情報を集め、まるで人間が整理・分析したかのように答えを提示してくれる能力の高さに、多くの人が驚かされたようです。しかし、AIの進歩によって人類が脅威を感じることは、10年ほど前から予見していました。 

生成系AIの普及で、探究学習の必要性はますます高まる堀井秀之(ほりい・ひでゆき)
日本イノベーションセンター代表理事/i.school エグゼクティブ・ディレクター 。1980年東京大学工学部卒業、米国ノースウェスタン大学大学院博士課程修了。96年より東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授。2009年よりイノベーション教育プログラム「i.school」を運営し、新しい製品、サービス、ビジネスモデル、社会システムなどのアイデアを生み出すことができる人材の育成に携わる。16年に日本イノベーションセンターを設立。政府、企業、i.schoolの学生や修了生が協働して社会イノベーションを推進する活動を行いながら、実践的な教育機会の提供に努める。 PHOTO by KUNIKO HIRANO

 09年6月、東京大学工学部教授で東京大学・知の構造化センターのセンター長を務めていた私は、同センターの教育部門として主に大学生や大学院生を対象とするイノベーション教育プログラム「i.school」をスタートさせました。

 リーマン・ショック後、米国と中国が超大国として存在感を高める中、日本が目指すべきは世界が称賛する製品やサービスを次々に生み出していくことだと考え、そのために必要な人材の育成を目指したのです。

 13年には京都大学や東京工業大学、慶應義塾大学SDMなどと共にイノベーション教育学会を設立し、その高校教育部会では、i.schoolで培ったイノベーション教育の成果や知見を高校教育にも生かす方策の検討を行い、高校の教員の方々にもご参加いただきながら、創造力とイノベーションを養う探究学習のあり方を議論し、教材、カリキュラムの開発を進めています。

 学会設立当時からすでに生成系AIの研究・開発は始まっており、AIの発展によって、いずれいくつかの仕事がなくなると、多くの識者が予想してもいました。

 では、AIにはできない、人でなければできないことは何なのか。AIが普及した時代に未来をつくり出せるのは、どのような人材なのか。部会では、その答えを求めて、創造性やコミュニケーション能力、情報リテラシーといった「21世紀型スキル」を身に付けるための教育が重要になるという認識が強まっていったのです。

 教科横断的なSTEAM教育*の推進、小学校でのプログラミング教育の必修化、中学校での総合学習、高校での情報科目の必修化や探究学習など、大学入試改革から新たな学習指導要綱を含めた小学校から大学までの一体的教育改革の背景には、こうした緊迫感があったといえます。

 つまり、AIの進歩によって人類が脅威を感じることは「予見されていた未来」であり、誰もが生成系AIを利用することが当たり前になる「その先の未来」に向けて、学校教育現場に変化が起こってきたといえます。

*科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の理数教育に、芸術やリベラルアーツ(Arts)などの創造性教育を加えた教育理念で、分野横断的な学び