どのような人材に育てるのか
理念や授業内容が問われる

 とはいえ、ChatGPTのようなツールを想定していなかった教育現場では、これまで検討してきた手法で子どもたちを教えていくことは難しくなってきています。中学・高校教育における学習内容のあり方も大きく変わっていくことは間違いありません。

 ただ、STEAM教育もプログラミングも情報科目も、AIとIoTが当たり前の社会において、そこで生きる人間に必要な素養、基礎力を身に付けることにつながります。生成系AIが普及しても、その基本は変わることなく、むしろ必要性がより高まりました。主に知識を教えるだけの一般教科より思考力や判断力、表現力を鍛える探究学習の比率が高まっていくはずです。

 探究学習の内容は、学校ごと、先生ごとに考え方がさまざまに異なりますが、今後、生成系AIに対する子どもや親の理解が深まってくると、学校側としてもそれに対応した学習プログラムを考えざるを得なくなります。生成系AIの使い方を探究学習のプログラムに組み込む中学校や高校も出てくるでしょう。

 その一方で、生成系AIは、人間がやるべき情報の収集や整理、分析を代わりに行ってくれるので、自ら問いを立て、その解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら学習していくという、探究学習の意義が損なわれるのではないかという危惧もあります。

 確かに、自分で調べたり、まとめたりする力が育たなくなり、AIが間違えた内容でレポートをまとめたとしても、それに気付かずに発表してしまうといったことが起きる可能性はあります。また、AIが他人の研究成果や意見を勝手に引用しても、そのことに気付かないだけでなく、悪いことだとも思わない人間に育ってしまう恐れもあるでしょう。

 しかし、生成系AIは急速に進歩を遂げており、いずれ「どの部分が間違えているのか」「どの文献からの引用なのか」といったことまで事細かに評価・判定するAIが登場するのも時間の問題です。その結果、ツールとしての信頼性が高まれば、未来を生きていく子どもたちにとって、生成系AIを思い通りに使いこなせるかどうかが重要な鍵を握るのです。

 私は、これからの探究学習では「新しい知識を生み出す専門家になる人材」「生成系AIを的確に使いこなせる人材」「生成系AIを使いこなす人に的確な指示を与えられる、創造性やコミュニケーション能力に秀でた人材」の育成が主要なテーマとなってくると考えています。

 いずれの人材育成に力を入れるのかは、学校ごとの教育理念によって異なります。学校を選ぶ際には、偏差値やブランドだけでなく、どのような理念で、どのような人材に子どもたちを育てようとしているのかを、これまで以上に親が真剣に考えるべきだと思います。同時に、学校側も探究学習の内容によってその教育真価が問われる時代になるでしょう。

次回は、堀井秀之氏のイノベーション教育を実践する芝浦工業大学附属中学高校の事例を紹介します。