中米の小国「エルサルバドル」は、世界で初めて、仮想通貨(暗号資産)のビットコインを法定通貨として採用した国である。
2021年9月、ナジブ・ブケレ大統領は大胆な金融実験に踏み切り、ビットコインを法定通貨として採用するビットコイン法を施行した。
これにより、エルサルバドルの国民が金融サービスに容易にアクセスできるようになったが、その一方で、ビットコインのボラティリティの大きさなど、複数の課題が指摘されている。
本記事では、エルサルバドルがなぜビットコインを導入し、どのような成果を上げ、課題を抱えているのかについて解説する。
- ビットコインを法定通貨として採用することにより、国民が金融サービスにアクセスする環境が構築された
- エルサルバドルでは、「Chivoウォレット」と呼ばれるビットコインウォレットサービスが、政府により導入された
- 海外送金を利用するエルサルバドル国民にとって、ビットコインは、従来のサービスにおける負担を軽減するための有効な手段となる可能性がある
- ビットコインの価格が大きく変動する局面では、国家の経済状況も大きく変動しうる
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なぜエルサルバドルはビットコインを法定通貨として採用したのか?
エルサルバドルは、2021年6月8日にビットコインを法定通貨として採用し、同年9月7日に施行した。
ナジブ・ブケレ大統領は、国民の約70%が銀行口座を持たない状況下で、金融インフラ整備のための一手として、ビットコインを通じてデジタル金融サービスへのアクセスを拡大しようとした。
また、海外からの送金がGDPの20%以上(※)を占める中、ビットコインを利用することで送金手数料の削減と迅速な送金を実現しようとした。
※出典:World Bank Data「Personal remittances, received (% of GDP) – El Salvador」
加えて、ビットコインの導入を通じて外国からの投資を呼び込み、経済成長を促進するといった狙いもあった。
しかし、このビットコインの導入は国内外で賛否を呼ぶこととなり、特にビットコインの価格変動性や技術的課題、法的整備の不備などが懸念された。
なお、2025年1月29日、エルサルバドル議会はビットコインの決済への使用を任意とする改正法案を可決した。
これにより、企業や国民がビットコインでの支払いを拒むことも可能となり、ビットコインは事実上、法定通貨とは言えなくなった。

エルサルバドルによるビットコインの法定通貨への採用のメリット
エルサルバドルがビットコインを法定通貨として採用することには、以下のようなメリットがある。
- 金融インフラの整備
- 海外送金の課題解決
金融インフラの整備
エルサルバドルでは、約7割もの国民が銀行口座を持っておらず、金融サービスへのアクセスが制限されていた。
このような背景においてビットコインが導入され、エルサルバドル政府が提供するスマートフォン対応のデジタルウォレットサービス「Chivo(チーボ)ウォレット」を通じて、銀行口座を持たない人々でも金融取引が可能となった。
なお、「Chivo」とは「クール」や「カッコいい」といった意味を持つ、中南米のスラングである。

Chivoウォレットの概要
項目 | 内容 |
---|---|
運営主体 | エルサルバドル政府(国営) |
対応通貨 | ビットコイン(BTC)および米ドル(USD) |
利用対象 | エルサルバドル国民 |
提供開始日 | 現地時間における2021年9月6日(ビットコイン法施行と同時) |
主な目的 | 金融インフラの整備、送金手数料の削減、送金日数の短縮 |
プラットフォーム | iOS、Android、ATM (Chivo ATMは全国に設置済) |
Chivoウォレット導入の主な目的
-
銀行口座を持たない国民の金融アクセス拡大
(エルサルバドルでは、国民の約7割(※)が銀行口座を保有していない)
※出典:World Bank Data「Global account ownership increased from 51 percent to 76 percent between 2011 and 2021 – El Salvador」 - 海外送金の利便性向上
「Chivo」利用促進策
導入初期、政府は国民の利用を促進するため以下のインセンティブを設けた。
- 30ドル相当のBTC配布
Chivoウォレットに登録したすべての成人国民に対し、政府から30ドル分のビットコインが配布された。
- Chivo ATMの全国設置
国内約200台以上のChivo専用ATMを設置。スマートフォンを持たない人も現金引き出しが可能となった。
- 送金手数料無料
Chivoウォレット同士の送金は手数料無料で利用できる。
家族間送金や海外送金に活用されている。
これにより、金融サービスへのアクセスが拡大し、特に若年層や都市部の住民を中心に利用された。
しかし、こういった策を講じたにもかかわらず、実際にはビットコインの普及は国全体としてはそれほど進んでおらず、2022年半ば時点ではインセンティブ対象者のうち6割以上が取引を行っていなかった。
また、調査対象の国民のうち9割近くが、2023年にビットコインを使用していなかったとの調査結果もある。
※中米大学による2024年1月の調査
さらに、ビットコインの導入に反対する国民によるデモの発生事例も報道されている。
海外送金の課題解決
エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用した大きな理由の1つが、海外送金(レミッタンス)に伴う負担の軽減である。
同国では、約300万人の国民がアメリカなど国外で働き、そこから家族へ仕送りをしている。
これらの海外送金はGDPの約2割を占めており、エルサルバドル経済にとって極めて重要である。
エルサルバドルの従来の送金手段には、以下のような課題があった。
従来の仕組み | 課題 |
---|---|
銀行送金 | 手数料が高額(〜10%ほど)、送金に数日かかる |
従来の送金サービス (ウェスタンユニオン等) |
手数料が高額(送金額の5%以上になるケースも)、銀行口座への送金の場合は数日かかる |
現金持参・口座未保有者 | 受け取りに時間と交通費が必要 |
このように、海外送金は手数料や所要日数の点において、国民の大きな負担となっていた。
そのような背景のなか、政府が導入したChivoウォレットを利用してビットコインを送金手段に用いることで、「送金手数料が無料、即時~数分以内の決済」が可能になり、銀行口座を持たない人でも容易に送金が可能となった。

エルサルバドルのビットコイン導入のデメリット
エルサルバドルでは、ビットコインを導入することで、金融インフラにアクセスが困難だった国民も金融サービスを容易に利用できるようになった。
この点は評価されるべきである一方で、ビットコイン導入に関する以下のようなデメリットも懸念されている。
- 価格変動性による経済的不安定
- 技術的課題とインフラの未整備
価格変動性による経済的不安定
ビットコイン最大の特徴の1つが、価格変動の激しさ(ボラティリティ)である。
ビットコインの価格は、わずか数カ月〜数年で2〜3倍の間で上下することも珍しくない。
エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用したことで、このボラティリティが国家経済へも直接影響を及ぼすようになった。
具体的には、以下のような影響が懸念される。
影響対象 | 内容 |
---|---|
国民生活 | 物価の安定性に不安を与える。 特に、日常支出での利用をためらう可能性がある。 |
政府財政 | 国家準備資産として保有するビットコイン評価額が大幅に変動。 含み損・含み益が頻繁に発生し、安定しない。 |
企業活動 | 請求・支払の通貨選択に慎重。 ※依然として米ドル決済を優先している企業も多いとみられている。 |
外資投資 | 価格下落局面では投資家心理が冷え込みやすい。 |
特に発展途上国においては、通貨価値の安定が重要であり、法定通貨としてボラティリティの高い資産を採用することは慎重であるべきとの見方もある。
技術的課題とインフラの未整備
エルサルバドルがビットコインを法定通貨に導入した際、課題となったのが技術インフラの整備不足である。
ビットコインの利用にはインターネットやデジタル機器が必要だが、一部地域では、これらのインフラが十分に整備されておらず、ビットコインの利用が困難な状況があった。
例えば、地方においては「スマートフォンを保有していない」「インターネットが普及していない」といった問題も見られたほか、デジタル機器の操作が困難な高齢者層もいる。
さらに、「Chivoウォレット」自体にも、特に導入初期においては複数の問題が見られた。
サービス開始後にシステム障害やダウンロードエラーが多数発生し、一時的に緊急メンテナンス期間を設け、修正の対応のためシステムを停止した時期があるのだ。
また、2024年4月にはハッキングの被害を受け、機密情報であるChivoのソースコードの一部が公開されるといったトラブルが発生し、セキュリティの脆弱性が露呈した。
なお、その後、政府は技術的改善を続けており、アップデートやサポート体制強化、さらには無料Wi-Fiスポットの拡充などに取り組んでいる。
エルサルバドルのビットコイン保有量推移
エルサルバドル政府は、2021年9月のビットコイン法施行とほぼ同時に国家としてのビットコイン購入を開始した。
これが世界初の「政府によるビットコイン国家準備資産化」の実例である。
初回購入は、2021年9月6日に発表された200BTCであり、その後も積極的な追加購入を行っている。
公表されている主な政府購入履歴は、以下のとおりである。
購入日 | 購入数量 |
---|---|
2021年9月6日 | 400BTC ※初回に200BTC購入、数時間後に追加で200BTCを購入し、合計400BTCとなった |
2021年9月7日 | 150BTC |
2021年9月19日 | 150BTC |
2021年10月27日 | 420BTC |
2021年11月26日 | 100BTC |
2021年12月21日 | 21BTC |
2022年1月21日 | 410BTC |
2022年5月9日 | 500BTC |
2022年6月30日 | 80BTC |
2022年11月18日〜 | 毎日1BTC購入宣言 |
2022年11月18日以降は、1BTCずつの定期購入を宣言しており、2025年6月時点の政府保有量は約6,200BTCと推計されている。
このような継続的な購入を経て、現在のエルサルバドルは、国家としては世界でも有数のビットコイン保有国となっている。
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エルサルバドルのビットコイン導入戦略
エルサルバドル政府は、単なる通貨としての利用にとどまらず、国家成長戦略の柱としてビットコインの活用を推進している。
ここでは、ビットコイン導入に関する具体的な戦略を紹介する。
- 若年層向け教育プログラムの導入
- 高度な技術教育「CUBO+」の推進
- 「ビットコイン・シティ」の建設
若年層向け教育プログラムの導入
ビットコインやデジタル金融に関する国民の理解促進を目的に、政府は教育分野への取り組みを積極的に進めている。
2023年9月には、エルサルバドル教育省が、2024年までに公立学校のカリキュラムにビットコイン教育を導入することを発表した。
「What Is Money?(お金とは何?)」の名を冠したこのプログラムは、若年層が、将来的に仮想通貨に対応できるリテラシーを習得できるようになることを目指している。
7歳から13歳までの児童を対象に、週3時間の「金融リテラシー」授業が行われる。
具体的な教育カリキュラムは、以下のような内容とされている。
- お金の歴史
- 予算の立て方
- 貯蓄の重要性
- ビットコイン・ブロックチェーンの基礎概念
政府は、この教育プログラムをビットコイン・リテラシーを国家教育制度の核として位置づけ、プログラムを通して将来の世代が新たな金融エコシステムの担い手となることを期待している。
この取り組みは世界初の国家規模のビットコイン基礎教育事例となった。
高度な技術教育「CUBO+」の推進
学生向けの基礎教育にとどまらず、エルサルバドル政府は高度なブロックチェーン人材の育成も国家戦略の一環として進めている。
その中心となっているのが、「CUBO+(クーボ・プラス)」と呼ばれる教育プログラムである。
このプログラムの概要は以下のとおりである。
内容 | 詳細 |
---|---|
対象 | 約100人~125人の応募者を対象とする「非常に集中的なブートキャンプ」 |
カリキュラム | ビットコインの理論、歴史、哲学に関するコース |
目的 | もっとも優秀な21人の学生を選出し、教育を推進する |
このプログラムは、国際的なビットコイン開発コミュニティとも連携しており、世界水準のエンジニア育成を目指している。
このプログラムでは、初年度においては修了者の100%が職を得ることに成功し、なかには月収4,000ドル近くを得ている学生もいるとのことである。
政府は、ビットコインのみならず将来的なブロックチェーン関連産業の国家育成を目指しており、これが長期的な成長ドライバーになると期待している。
「ビットコイン・シティ」の建設
エルサルバドル政府は、国家を「ビットコインのハブ」として国際的に位置付ける戦略を採用しており、「ビットコイン・シティ」構想を掲げている。
この構想は、2021年11月、ナジブ・ブケレ大統領により正式に発表された構想で、単なる金融利用にとどまらず、経済全体をビットコイン中心に構築しようとする計画である。
この計画は、「仮想通貨投資家の富裕層が租税を回避する」ための地域開発プロジェクトであるとも言える。
ビットコインシティの主な特徴は以下のとおりである。
特徴 | 説明 |
---|---|
建設予定地 | コンチャグア火山付近 |
マイニング環境 | 火山地熱によるクリーンエネルギー活用したビットコインのマイニング |
税制 | 所得税・キャピタルゲイン税・固定資産税、給与税がかからない ※支払う税金は10%の付加価値税(VAT)のみ |
資金調達 | ボルケーノ・ボンド(ビットコイン国債)の発行 ※「ボルケーノ・ボンド」は日本語で「火山債」の意 |
2022年1月には都市電力供給に必要なエネルギーの確保についての発表、2023年4月には入植地の計画に関する発表がなされた。
2024年8月には、トルコの港湾運営会社であるイルポート・ホールディングスによるエルサルバドルへの大規模な投資が発表された。しかしその後、具体的な進捗について大きな発表は見られていない。
また、国民の多くはビットコイン政策そのものに懐疑的であり、普及が進んでいない現状を踏まえると、ビットコイン・シティ構想への関心は低いと考えられる。
加えて、ビットコイン・シティの市民とされているCorbin Keegan(コービン・キーガン)氏は、土地建設予定地の近くに自ら家を建てたものの、2年以上入植地の建設を待った後、一時的にアメリカに帰国したことも報道された。
この出来事も、ビットコイン・シティへの「関心離れ」の象徴と言えるかもしれない。
計画の実現性や進捗については不透明な部分はあるが、今後、この計画が実現した場合は、ビットコインへの関心が高まることだろう。

エルサルバドルのビットコインに関してよくある質問
- エルサルバドルはいつからビットコインを法定通貨として採用しましたか?
-
エルサルバドルがビットコインを法定通貨として正式に採用したのは、現地時間における2021年9月6日(日本時間:2021年9月7日)である。
この日は「ビットコイン法(Ley Bitcoin)」が施行された日であり、世界で初めて、国家がビットコインを法定通貨に採用したこととなる。
導入に先立ち、2021年6月にナジブ・ブケレ大統領が「ビットコイン法」法案を議会に提出し、のちに可決された。
その後、政府は約3か月間の準備期間を経て、Chivoウォレットの開発やATMの設置、国民向けの広報活動を実施した上で施行に踏み切った。
しかしその後、ビットコインによる決済は任意となり、ビットコインは法定通貨とは言えなくなった。
- エルサルバドルが保有するビットコインの含み益はどれくらいですか?
-
エルサルバドル政府はビットコイン法施行以降、複数回に分けて国家としてビットコインを購入してきた。
現時点における政府保有量は、約6,200BTCであり、含み益は約3.57億ドルとされている。
より具体的には、Coinpostの記事によれば以下の数値となっている。
元本 2.87億ドル 保有ビットコイン評価額 6.44億ドル 保有ビットコイン総量 約6,181 BTC 2025年における含み益 6,980万ドル 含み益の規模はビットコインの価格に大きく左右されるが、エルサルバドル政府は常に「長期保有」の方針を公言しており、評価益はあくまで含み益(売却前、利益確定前)の段階である。
今後の市場の変動によっては、含み益が減少するリスクも存在する。
- エルサルバドルにおいて、Chivoウォレットはどの程度普及が進んでいますか。
-
Chivoウォレットの導入後、2022年初頭において、約400万人のユーザーを獲得していることが政府により発表された。
また、2022年2月に実施されたイェール大学の調査によると、68%の世帯がChivoウォレットについて認知しており、そのうちの78%はダウンロードをしていた。
その後のセントラル・アメリカン大学の調査では、2023年時点において、国民の約88%がビットコインを使用していないと発表された。
さらに、サンサルバドル大学の調査では、2024年10月までの時点で、取引にビットコインを使用していたユーザーはわずか8%だったことが明らかになった。
つまり、Chivoの利用者数は国民の1割に満たない状態であり、いまだに普及は進んでいないと考えられる。
エルサルバドルのビットコインのまとめ
本記事では、エルサルバドルのビットコインに関する動向について解説した。
- 約7割の国民が銀行口座を持たないエルサルバドルでは、ビットコインを基盤とする金融インフラは重要な意味を持つ可能性がある
- 「Chivoウォレット」は、送金手数料や送金日数など、従来の送金システムにおける課題の解決を目指している
- 国外で労働するエルサルバドル国民も多いため、海外送金は生活に欠かせないサービスである
- 発展途上国では特に通貨価値の安定性が重要であるため、ボラティリティの高いビットコインの導入にはリスクが懸念されている
エルサルバドルは、世界で初めて国家としてビットコインを法定通貨に採用した。
その背景には、国民が金融インフラにアクセスしにくい環境や、送金時におけるコスト面・日数面の負担といった課題があった。
エルサルバドル政府は「Chivoウォレット」の提供や教育プログラムの整備など、多面的な施策を講じている。
ところが、現状、同国の試みは期待通りには進んでいない。
ただし、他国の中央銀行デジタル通貨の導入議論を後押しした要因になった可能性なども考慮すると、ビットコイン市場の拡大に貢献したという観点において評価されるべき取り組みであったとも言える。
エルサルバドルの今後のビットコインに対するスタンスは、ビットコインの価格にも影響を及ぼす可能性がある。
ビットコインの今後の動向に関心がある人は、国内取引所コインチェックを確認しておくと良いだろう。
国内取引所コインチェックなら、スマートフォンで手軽に、誰でも500円からビットコインを気軽に購入できる。

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