
「ラーメン×パン」でより多くの人に二郎系を
貧困VS起業をテーマにしたゼミに所属する高校1年生、石塚久高さんはもともとラーメンが苦手だった。しかし、同校卒業生が経営する二郎系ラーメンの人気店「Life is Better...from Yume Wo Katare」で2カ月間インターンとして働き、早稲田大学の学生街で長蛇の列を作る店の魅力を知った。
そして、ラーメンの量や店の雰囲気に抵抗感を持つ人にも、手軽に二郎系の味を楽しめるようにならないかと考えた。石塚さんはパン作りを得意とするため、パンとラーメンを組み合わせた調理パンを開発した。
「ラーメンとパンは炭水化物の組み合わせでカロリーが高くなるため、女性や高齢者など低カロリー志向の人にどう訴求するかを模索しています」と石塚さん。
二郎系の濃厚なスープがパンに吸収される課題や、もやしやチャーシューで食感を出す工夫を検討中だ。発表会ではトッピングのアンケートも実施し、来場者からは「卵を加えてほしい」「シュークリームのようなドーム状のパンなら、カロリーや大きさを抑えつつ見た目もよくなる」などの意見が寄せられた。
自分作りをしないSNSの開発
哲学・メディア・芸術ゼミの高校1年生、山縣幸敏さんは「中学生はXをやらないトレンド」という報道に触れつつ、「共学校の生徒はInstagram、男子校の生徒はXと親和性が高い」と分析。他校の文化祭で「Xでやりとりしましたよね」と話す男子生徒を目撃した経験も裏付けだ。
SNSでは「他人にこう見られたい」「世間の目を気にして本音を隠す」傾向があり、精神的な疲弊や率直な交流の妨げになる。そこで、本音で語れるSNSを構築したいと考えた。
「匿名アカウントのほうが本音を言いやすい。投稿時にID表示か匿名かを選べる仕様を検討しています」と山縣さん。
課題は以下の3点だ。
①アイデアはあるが技術不足で構築できない。②サーバーの費用が捻出できない。③会話が荒れる可能性がある。
これらに対して山縣さんは「①はプログラミングを学ぶことで解決、②は無料サーバーから始め、③は現在対策を模索中です」と対応策を示した。
「犬材派遣」で犬に居場所を作る
高校1年生の坪井絃起さんは「犬材」という造語で注目を集めた。
「令和4年度は全国で2,434匹の犬が殺処分されました。殺処分ゼロを目指すにはどうすればいいのか」と問題意識を持ち、保護犬の居場所を増やすため、盲導犬のような「犬材」として活躍の場を与える発想に至った。
「犬を飼えない人が触れ合える場所や、犬を人に慣らすためのふれあい動物園を作りたい」と坪井さん。犬について自身で学び、トレーニングを施した上で「犬材」を輩出する計画だ。課題は「費用」と「安易に犬を手放す人が増えるリスク」だ。
「ヤンゴンかるた」プロジェクト
高校1年生の野中茂壮さんは2021年2月、ミャンマーで軍事クーデターが起こった日に現地にいた経験がある。ミャンマーの課題を日本人に知ってほしいと、遊びながら学べる「ヤンゴンかるた」を制作した。クラウドファンディングで300万円を集め、ヤンゴンの街の写真を使ったかるたを完成させた。
当初は街頭募金を行ったが効率が悪いと感じ、小学校で児童にかるたを用いてミャンマーを伝える活動にシフト。
「大人の活動は政治的と誤解されやすいが、高校生の純粋な思いは伝わりやすく活動しやすい」と野中さん。高校生ならではの強みを活かしている。
大人の視点が入らない探究学習
全国の高校で「総合的な学習の時間」が必修となり、探究学習が広がる中で、指導法や成果には未知の部分も多い。その中で聖学院の活動が注目されるのは、ひとことで言えば「面白い」からだ。教科書的なものではなく、高校生らしい等身大のテーマが並ぶ。ラーメン、SNS、犬、ミャンマーといずれも独創的で、大人が用意した枠組みの匂いがしない。
「教師や大人のための探究ではなく、生徒が自ら取り組みたいテーマを見つけられるよう導くのが私たちの役割。テーマを実現する指導にも力を入れています」(英語科・イマージョン教育リーダー小池航太先生)。
例えば「自分作りをしないSNS作り」の場合、構築にはプログラミング技術が必要で、それを生徒自らが学ぶ努力も求められる。自由な発想と実現するための努力――この2つが質の高い探究学習の鍵となるだろう。