SAPIX小学部本社(東京都渋谷区)
SAPIX小学部本社(東京都渋谷区)

 司会:まず、最初に簡単な自己紹介と、お子さんがSAPIXに入塾したきっかけを教えてください。

 Aさん:メーカーで営業事務をしています。子どもは現在、小学5年生と小学4年生の2人です。うちの長女が一人で電車に乗って塾に行くのは無理そうだったんで、一緒に行ってくれる子がいる塾にしようと思いました。そうなるとSAPIXに通う子が多いので自然とうちの子もそこに通うことになります。23区内の校舎の真ん中より少し下のクラスにずっといます。

 Bさん:企業の法務部に在籍しています。リモートワークが中心です。子どもは小学6年生と小学3年生です。上の子が自由が丘の塾の体験授業を受けて、本人が「SAPIXの授業は楽しい!通いたい!」というので入塾させました。最初はαクラス※にいたので御三家を狙っていましたが、だんだんクラスが落ちてきて、今はアルファベットクラス※です。なので、今は御三家より少し難易度が下がる学校を考えに入れています。私は学習のフォローに疲れたので転塾したいんですが、本人は「SAPIXは授業が好きだから続けたい」といっています。

 Cさん:中高一貫校の教員をしています。SAPIXさんはテキストが一番優秀だと判断したので、3年生の講習から通わせました。4年生の冬に一番下のクラスに落ちまして、これは合ってないなと思い、家の近くの塾に転塾させました。今は都内の女子校に通っています。ちなみに私も学生時代は中学受験塾講師を4年間やっていました。

※αクラス=上位クラスの総称。上からα1、α2、α3と数字が付いていく
※アルファベットクラス=αクラスより塾内偏差値が下のクラス。最も下からAクラス、Bクラス、Cクラスとなっていく

テキストは整理しないでいい

 司会:SAPIXは「塾におまかせ」ができないから、働きママ家庭は苦戦するといわれますが、実際、どのあたりが大変ですか。

 Bさんまず、テキストの整理ですよね。最初の頃は土日を潰して整理していましたが、最近、諦め気味で積んでいます。

 Aさんあれ、整理しないで捨てていいようなんですよ。SAPIXの広野先生がそうおっしゃっていて、ママ友の間で話題になりました。

 司会:これですね。“「どうせスパイラル学習で大事なことはまた出てくるので、そもそも整理する必要はない」と開き直ってしまえば一切負担はなくなりますし、現に整理をしてもなかなか過去の見返しをするような余力がない子が大半です”(朝日新聞『Edua』2023年1月12日配信「サピックス広野先生の知っトク なっとく 中学受験」)

 Aさん:それです!

 Cさん:捨てちゃうのはどうかと。スパイラル学習というのは、同じ単元を復習するたびにどんどんと難しくなっていくやり方です。まだ、身に付いてない単元を取り組む時に、過去にやった基礎問題をやり直さないで、新しい難問に取り組むのはどうなんでしょうね。

 Bさん:確かに。自主的な復習は大切です。旅人算が解けない原因は速さが分かってないということがあります。そうすると、速さのテキストを掘り出してやり直さないと旅人算はマスターできないですよね。α1の子たちは一度習った内容は身に付いているからテキストは捨ててもいいかも知れないけれど、うちの子みたいなボリュゾ民※はそうもいかないから、親は頑張ってテキストを整理しないと駄目なのでは。※ボリュゾ民=中学受験で最も人数が多いのは中堅校狙い層だ。業界的にボリュームゾーンと呼ばれるので、そこに属する層の保護者は自虐的に「うちの子はボリュゾ民」ということも

 Aさん:下の子が予習シリーズを使用する塾(四谷大塚の準拠塾)なんですが、あれは冊子になっているからすぐに過去にやったところを見直せるのは助かりますね。

SAPIX小学部の中学受験入室案内
「SAPIXでは『復習主義』を実践しています。学習の定着を図るため、授業で学習したことをご家庭で定着させていくことが必要です」という(SAPIX小学部の中学受験入室案内より)

SAPIXから転塾したら一人で宿題をやり出した子も

 司会:今、自主的な復習の話が出てきました。小学生が過去のテキストを取り出して復習をし出すわけはないから、親が付き添う必要がありますね。SAPIXは日々の宿題も親がつきそう必要があると聞きます。なぜ、そうなるんでしょう。

 Cさんうちの娘、転塾したら一人で宿題をやるようになったんですよ。学習意欲はあるのだけど、SAPIXの宿題はできなかったんだなーと思いました。もちろん、親の頑張りは成績を左右すると思いますが、SAPIXはまずメソッドが特殊ですからね。

 司会:SAPIXメソッドは導入(最初のさわり)の部分だけを授業でやって、宿題を通して理解させるメソッドだから宿題に苦戦するともいわれますが。

 Cさん:そうです。授業で導入しかやらないです。最初の入り口の部分だけを聞いただけで、一人で理解していくなんて普通の小学生には無理ですよ。結果、大人が横でついてあげないといません。それを親ができないと個別指導に頼ることになります。我が家は経済的にそれが無理だったので、娘は最下位のクラスになったわけです。

 Bさん:まさにその通りです。導入しかやらない。それでいて、自習室もなく、質問も随時対応ではないです。まったく面倒を見てくれない。その理由をSAPIXは「子どもが自立して勉強をするべきだから」といいます。過保護にすると生徒が自分の力で学ぶ力が育たない、だから、SAPIXは面倒見を良くしないと。じゃあ、なんで個別指導塾のプリバードを併設しているのかな(笑)。

SAPIXに関する座談会の様子

メール質問では図形の問題は対応できない

 司会:今、個別指導の話が出ましたが、質問が随時できないから、個別を利用する生徒も多いと聞きます。

 Aさん:授業の後に並んで、積極的に質問できる子はいいかも知れませんが、うちの子は引っ込み思案なので無理なんですよ。

 Cさんうちの子もSAPIXでは質問ができませんでした。転塾先は大手塾の小規模校舎で校舎全体の生徒の数も30人ぐらい。クラスの入れ替えが頻繁ではないから、校舎長や講師と仲良くなるんですよ。うちの子は校舎長に懐いて、質問をして、苦手な単元が減っていき、成績が上がりました。

 司会:SAPIXもメールで質問の受付をしていますが、使われていますか。

 Bさん図形や立方体の問題はメールでは説明ができないから使っていません。速さだって線分図やダイヤグラムで解くからメールでは説明しづらいです。

授業の楽しさ、優れたテキスト

 司会:学習面のフォローは具体的にどうされているんですか。分からないところを教えるんですか。

 Aさん:うちは社会や理科のまとめノートを私が作っていました。SAPIXのテキストは教科書ではなく問題集じゃないですか。だから、私が覚えることをまとめています。

 Bさん:私の周りでも熱心にやっている方はそうやっていますね。そこまではうちはできないので宿題の丸付けをして、間違えた箇所を確認するぐらいですね。

 Cさん:お2人とも立派です。うちはそういったこともまったくできなかったので、最下位のクラスにいっちゃったんですよ。

 司会:でも、Cさんのお嬢さんは、1月受験で浦和明の星に合格されたとか。

 Aさん Bさん:すごい!

 Cさん:うちの子はSAPIXでは最下位クラスにいたのに、転塾したら真ん中のクラスになって、その後、一番上のクラスに上がりました。うちはとにかく私がなにもしないので、「塾にお任せ」ができるところと相性が良かっただけです。親御さんがちゃんとフォローできるならば、SAPIXはいい塾でしょう。

 Bさん:そうなんです。いい塾なんですよ。生徒同士でトラブルが起きた時に相談の電話をしたら、すぐに対応をしてくれましたよ。授業がうまい先生が多いのもいいですね。クラスが落ちたら、娘が落ち込むかなと思ったら、下のクラスも授業は面白いといっています。子どもが楽しく塾に通ってくれるなら親としてはありがたいです。

 Aさん:さすが自由が丘校ですね。うちの校舎だと下位のクラスだと、授業が微妙な先生もいるとのことです。だから上のクラスに行きたいとも話していて。

 Bさん:上のクラスもいいことだけではありませんよ。まったく宿題チェックがなくて。アルファベットクラスになると、宿題をやっているかを見てくれて、少し手厚くなる印象はあります。

 Cさん:最下位のクラスはさらに手厚いですよ。少数制ですし。娘のクラスは7人ぐらいだったと思います。うちも私さえ頑張れたらSAPIXは辞めさせなかったですね。とにかくテキストがいいですし。

なぜ「難関校向け」といわれるのか

 司会:テキストの良さは他塾の先生も認める点ですね。

 Bさん:まず、レイアウトが美しいですよね。とても見やすい。算数は問題の質も高いですし、解説も端的で分かりやすいです。一昔前は解説があっさりしすぎているということでしたが、今はそれも解決しています。

 Cさん:国語は単元ごとではなくて、長文を読ませることで全部の単元を網羅していくテキストで素晴らしいですよ。また、いい文章を見つけてきます。私もSAPIXの国語のテキストのおかげでいろんな作家を知りました。

 Aさん:社会のテキストも大人が読んでも面白いですよね。半導体は空輸が増えているから飛行場の近くに工場があるとかそんな話も載っていて勉強になります。

 Cさん:ただ、これは私個人の意見ですが、学年が上がるにつれて、算数はどんどんと思考力問題の対策に特化した内容になっていると感じました。単純に難しいのではなく、質的に難関校向けのテキストなんですよ。中堅校対策を狙う子にとってはどうなのかなと。あくまでも私の感想ですけどね。難関男子校を目指す子には素晴らしいんですが、うちの娘みたいに桜蔭は最初から目指す気持ちがない女子にとってはどうなのかなあと。それもあって転塾させたんですよ。

 Aさん:うわ、そうなんですね。うちの子はどうなっていくんでしょうか。私は転塾も考えているんですが、本人は楽しいといいというし悩ましいですね。

 司会:今後は中堅校も思考力問題を出すようになっていくでしょうから、SAPIXのメソッドはこれからも最強であり続けるのでしょう。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

SAPIXの保護者座談会まとめ

 首都圏で圧倒的な合格実績を挙げるSAPIX。難関校に受かるために必要は思考力や記述力を育てるテキストには定評がある。一方で、家庭の負担は大きくなるようだ。今回、参加したママたちは全員がフルタイムワーカーで、相当苦戦している。また、夫が中学受験の伴走に参加していないことが共通した。

 SAPIXに通わせて、中学受験を乗り越えるためには夫婦でやることを分担をし(片方が家事や塾の送り迎え、もう一人が宿題の付き添いなど)、どうにか効率的な伴走をする方法を模索することが必要かも知れない。しかし、どの塾に入れても、筑駒や御三家を目指すならば親も頑張らないといけないのは確かだ。筑駒や御三家を目指すならばまず検討すべき塾であるのは確かであろう。

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