1.公立中学校に進学するメリット:「近さ」「地元の友達」「遊び」
私自身、子どもの頃は地元の公立中学校に進学しました。私の実感ですが、公立中学校に通う良さは、何と言っても「近い」ことです。家から徒歩5分ほどで着きました。近いので、私立中学校に電車やバスで通うよりも、朝、ゆっくり家で過ごせます。通学で疲れることもありません。交通費もかかりません。事故や不審者に遭う心配も少ないです。部活が遅くまであっても、すぐに帰宅して晩ご飯を食べられます。
また、「地元の友達と毎日会える」ことも公立中学校のメリットです(昔は今と違ってスマホやSNSがありませんでした。だから、高校進学、大学進学のとき、地元の友達と会う機会がものすごく減りました)。
もし、自分がもう一度、中学生時代をやり直すとしたとしても、また地元の公立中学校に進学します。それほど、近さと地元の友達は重要なポイントだからです。
私立中学校は中高一貫のところが多いから、高校受験のための勉強をしなくてもよいので楽に思えます。地元の公立中学校に進学すると、高校受験のためのしんどい勉強があります。でも、私立中学校に進学するには、中学受験に向けた勉強をしないといけません。
小学生時代と中学生時代、どちらの時期の自由時間を増やしたいでしょうか? 私は、小学生時代はたくさん遊びたいです。中学生になれば受験勉強のために遊ぶのを我慢することはできますが、小学生だったら遊ぶのを我慢できません。
2.公立中学校のデメリット:「人間関係」「施設」
私自身、小学生の頃は、友達と毎日遊んでとても楽しかったです。だから、仲の良い友達とそのまま地元の公立中学校に進学することは楽しみであり、安心でした。でも、もし自分がいじめに遭っているなど、友達関係でつらい思いをしていたら、地元の公立中学校に進学するのは不安です。
また、公立中学校の教室は、どの学校も基本的に同じ規格で作られています。しかし、私立中学校の施設は、その学校が目指す教育方針を具現化しています。教員になってからいくつかの私立中学校を訪れた際、理科室や音楽室、図書室などを見せてもらいました。あまりの設備の充実ぶりに感動したのを今でも覚えています。公立と私立の施設・設備面の差にとても驚きました。
ICT環境の「進化のスピード」においても公立と私立は差があります。公立でもICT化は進んでいますが、私立は導入・更新のスピードが圧倒的に速いのです。生徒1人1台のハイスペックなタブレットやPC、全教室に設置された電子黒板はもちろん、VR/AR(仮想現実/拡張現実)を活用した学習スペースなど、最新技術を教育に取り入れるための先行投資を惜しみません。公立では予算の関係で、機器の故障や老朽化が進んでも、すぐに修理・交換できないジレンマがあります。
3.公立教師:「異動」がもたらす光と影
公立の先生は、自治体内で異動があります。これは公務員としての宿命であり、その結果、教育の「質」にも独特の影響が出ます。
メリット:学校の「よどみ」を防ぐ
異動があることで、学校に古くからの慣習や閉鎖的な空気が蔓延するのを防ぐ効果があります。新しい先生が来るたびに、新しい指導法や風が持ち込まれ、学校運営が「よどみ」にくいというメリットがあります。
デメリット:指導の「深掘り」が難しい
公立では、異動によって専門外の教科や指導を急に任されることがあります。例えば、数学が専門なのに「野球部の顧問」を任されたり、「特別支援学級の担任」になったりといった具合です。
先生は良くも悪くも「全方位型」にならざるを得ません。その結果、特定の分野や教育理念を深く掘り下げて探究する時間が少なくなり、指導が「広く浅く」なってしまうことがあります。
デメリット:学校への「愛校心」が生まれにくい
教職員や管理職が数年ごとに異動するため、「この学校を生涯かけて良くしていく」という強い愛校心や、責任感が生まれにくい側面があります。教師の働きかけで学校を大きく変えるには、時間が足りない……と感じることがあるかもしれません。
一方、指導方針や学校の雰囲気がある程度変化しやすく、私立のような一貫した指導を受けにくい場合があります。学校としての指導方針や教育への「熱意」が継続しにくい場合もあります。
4.私立中学校のメリット:「環境」
公立学校の先生をしていると、子どもの心理は「環境」に大きく左右されることを痛感します。私立中学校の施設は、子どもの心身の健康とモチベーションを維持するための配慮がとても行き届いていると思います(公立中学校に比べて、校舎がきれいです。廊下が広くて、天井も高く感じます)。
また、私立中学校には、「塾に通う必要がないぐらい学習面の充実」を目指しているところがあります。放課後や休日に集中して勉強できる図書館(ラーニングコモンズ)の機能が充実し、ソファ席、グループワーク用スペース、集中ブースなど、多様な学習スタイルに対応できる空間が用意されています。これは、公立の学校ではなかなか実現できません。
公立中学校ではグラウンドと体育館、屋外プールが基本ですが、私立中学校は人工芝のグラウンド、屋内プール、専用の武道場、トレーニングルームなど、部活動の専門的な練習に対応できる施設を有している学校も珍しくありません。屋内プールだと、屋外に比べて天候に左右されないし、室温も水温もあたたかいので、水泳の授業の機会が公立よりも増えます。保護者目線でもありがたいです。
さらに私立中学校は、学校独自の建学の精神に基づき、カリキュラムを特定の分野に特化したり、進度の速い授業を行ったりすることが可能です。私立は中高一貫校が多いため、高校受験を経ることなく、大学進学を見据えた一貫した指導を6年間で受けることができます。
中学生と高校生の交流があるのも魅力の一つです。体育祭や文化祭などの行事を同日に開催する学校もあります(私の息子は、高校生の文化祭に参加させてもらいました)。
私立中学校は、教員の転勤が公立に比べてとても少ないです。定年退職するまで長年、同じ学校に勤めることも珍しくありません。その分、勤務校への愛着、愛校心が強い教員が多いのです。
5.私立中学校のデメリット:「費用の高さ」「通学」
授業料、施設費、教材費、交通費などが公立に比べ高額になり、ご家庭の経済的な負担は大きくなります。したがって、十分な経済的な準備が必要です。
私の家庭でも妻と、「息子が私立中学校に進学したら、家族旅行や外食は少なくしないといけないなぁ」と話し合いました。授業料などにとてもお金がかかるからです。
また、通学時間がかかるのも難点です。息子も中学受験をして、地元の中学校には進学しませんでした。そのため毎朝6時半頃に起きて、7時半に家を出て、学校に通っています。もし地元の中学校だったら、8時15分頃に家を出ても間に合います。毎朝の通学時間だけで、45分間のゆとりの時間がなくなります。これに加えて、学校から家に帰る時間もあります。私だったら「地元の中学校に通うのになぁ」と思ってしまいます。
【まとめ】
お子さんの進路を選ぶ際は、ご家庭の教育方針、経済的な状況、そして何よりお子さん自身の個性と将来の目標に照らし合わせて、公立・私立それぞれのメリットとデメリットを慎重にご検討いただくことが大切です。また、通学時間は、お子さんの日々の生活の質、疲労度、そして自由に使える時間に直結する非常に重要な要素です。

