1.受験の動機が誰のものか

 まず、受験することを決めた出発点が、お子さんなのか、それとも親御さんなのかで、その後の受験勉強に取り組む子どもの姿勢が大きく違ってきます子ども自らが「受験をしたい」「受験させて」と親御さんに言ってきた場合は、受験勉強も頑張れることが多いようです。

 一方、親御さんが「受験したら?」「受験しなさい」とお子さんに言って、受験勉強を始める場合もあります。親御さんの気持ちを優先しすぎる(良い子を演じる)お子さんは、本当は受験したくないのに、親御さんの期待に応えようとして無理をしていることがあります。心のエネルギーが続かず、ある日突然、燃え尽きてしまうリスクもあります。

 親御さんが望む姿と、自分が本当にやりたいことの違いを理解し、自分の意思で進路を選択している子どもは受験に向いていると思います。だからこそ、困難に直面しても「誰のためでもなく、自分のために頑張っている」と腹落ちできるのです。

 塾の宿題を「親に言われたからやる」のではなく、「今日、この課題をクリアしなければ、自分が目標とする学校に近づけない」と、自分で必要性を感じて机に向かえることは学力の向上につながります。目的意識が「自分発」で、「自分はこの学校で学びたいことがある」という明確な目標があり、親に言われたからではなく、自分の意思で頑張れる点が、最後までモチベーションを維持する最大の原動力になります

2.心がタフかどうか

「心の切り替えスイッチ」や「挫折や失敗を燃料にする力(レジリエンス)」を持っているお子さんは受験に向いています。例えば、公開テストで偏差値が下がったときに、「ああ、悔しいな」と感じた後、すぐに「じゃあ、この穴をどう埋めようか」と感情を学習行動に変換できます。いつまでも結果に引きずられず、「次に何をすべきか」に心を向けられるお子さんは強いです。

 逆に、失敗や挫折から立ち直れないお子さんは、受験はしんどいと思います。例えば、模試やテストで悪い点数を取ると深く落ち込み、立ち直るのに時間がかかる、あるいは「もう無理だ」と諦めてしまうなど、自己肯定感がとても低いお子さんです

3.スマホに依存していないか

「今すぐの快楽」に流されるお子さんは、受験に向いていないと思います。自制心の未熟さ(スマホゲームへの逃避など)があり、目の前の「楽な楽しさ」と将来の「大きな成果」の価値を比較できないお子さんです。

 すべきことを後回しにして、反射的にゲームや遊びに手を伸ばすのは、長期的な目標に向かう能力がまだ育っていない証拠です。私の息子がそうなのです。息子にスマホを持たせていなくて本当によかったです……。大人でもスマホをついつい触ってしまいます。子どもならなおさらです。受験勉強とスマホ我慢はセットだと思います。

 スマホやゲーム、YouTubeに依存しないで、当たり前のことを当たり前にできることが大切です。例えば、決めた時間に寝起きする、忘れ物をしない、提出物を期限までに出すなど、基本的な生活習慣や約束事が守れること。これが「学習習慣」の土台になります。

4.家の経済力はどの程度か

 中学受験において避けては通れない問題が、「経済力」です。家の経済力は、単なる「費用」としてではなく、「受験というプロジェクトを支える親の覚悟と資源」として捉えるべきです。中学受験にかかる費用は、単なる支出ではなく、「お子さんの可能性と自己肯定感への投資」であると同時に、「親の持続的なサポート体制を維持するための資源」です。

 私立中学の受験期にかかる費用(塾代・受験代)は、一般的な公立中学への進学と比較して、まとまった金額が集中して必要となります。中学受験にかかる主な費用は以下のとおりです。

① 塾の費用

 小4~小6までの総額は、約250万円~400万円超(大手塾の場合)です。小6では年間150万円を超えることが一般的です。

 費用が高いのは当然ですが、「安ければよい」わけではありません費用対効果を追求し、塾のカリキュラムがお子さんの学力を上げるために適しているかを見極めることが、親御さんの役割です。

 夏期・冬期の季節講習や直前特訓などの特別講座は、別途年間で数十万円必要になります。必要な講座は惜しむべきではありませんが、お子さんの心のエネルギーが切れていないかを常にチェックし、単なる「費用をかけた」という自己満足に終わらせないことが肝心です

② 模試・受験料

 総額は、約20万円~50万円(模試、過去問、出願時の受験料)になります。受験校を決定する際、経済的な理由だけで選択肢を絞りすぎるのは避けたいところですが、「もしものときの併願校まで含めた費用」を冷静にシミュレーションする、親の冷静なマネジメント力が問われます。

③ 進学後にかかる費用(私立中高一貫校)

 受験を突破した後、私立学校に入学すれば、公立とは比較にならない授業料等が継続的にかかります。授業料・施設維持費などは、年間約80万円~150万円程度が相場です。これに加えて、修学旅行などの積立金や、部活動の遠征費なども加わります。

「受験をさせたことで家庭の経済が逼迫し、進学後に心の余裕がなくなる」ことは、お子さんにとっても不幸です。私立中高一貫校の6年間にかかる総費用(約500万円~1,000万円超)を明確に把握し、無理のない範囲で、家庭の笑顔と心の安定を維持できる経済状態が最も重要です。

 経済力は、受験の「合否」そのものを決めるわけではありませんが、「受験というチャレンジを最後までやり抜くための耐久力」に大きく影響します。

 経済的なプレッシャーを乗り越えられるお子さんは、親御さんが用意した「経済的な土台」を理解し、それを成長の糧にできます。感謝の気持ちを学習エネルギーに変えられます。

 親御さんが頑張って塾に行かせてくれていることを理解し、「この費用を無駄にしないように頑張ろう」と、自発的に努力する動機に変えられるお子さんは中学受験に向いています。また、塾に通うことを「親の愛情の証し」として受け取り、限られた時間を有効活用し、集中して学習に取り組めるお子さんも受験に向いています。

 逆に、経済的なプレッシャーが重荷になりすぎるお子さんは、親御さんの過度な期待や不安を、そのまま重圧として受け止めてしまいます。「こんなに塾代をかけたのに」という親御さんの一言が重圧になることもあります。

 親が経済的な負担を言葉や態度で示しすぎると、子どもはテストで悪い点数を取ったときに「親不孝だ」と感じ、自己肯定感を失います。これは、費用をかけた親御さんの不安が、そのまま「心の毒」となって子どもに伝わってしまう状態です。私も息子に伝えてしまったことがありました。

まとめ|中学受験に向いている子ども、向かない子ども

 中学受験に「向いている子」と「向かない子」の差は、能力の優劣ではなく、受験に対して「心のエネルギーがどこに向かっているか」、そして「親子の関係性」に集約されると、わが子の受験を通して感じました。

 もしお子さんに「向かない」とされる特徴が多く見られる場合でも、それは能力の問題ではなく、親子の関わり方や環境を変えることで、自立心や学習意欲が育っていく可能性があります。親御さんの役割は「管理」ではなく「伴走」です。そのことをわが子の中学受験を通して痛感しました。