中学受験と高校受験について
まず前提として、大学受験を目指す場合、大きく分けて以下の2つのルートを選べます。
1.中学受験して中高一貫校に通い、高校受験を回避して大学受験する
2.中学受験せず高校受験して大学受験する
中学受験では、熾烈な競争に勝ち抜く必要があります。なぜなら、各小学校の成績上位層が受験者の大半を占めているためです。受験者数は多くありませんが、母集団のレベルが高いため、合格は簡単ではありません。
私立中学に通う生徒の割合は、以下のとおりです。
■私立中学に通う生徒の割合
全国 | 7.7% |
---|---|
東京都 | 25.5% |
参照:私立中学校に通う割合はどの程度?|公共財団法人生命保険文化センター
つまり全国平均で見ると、学力で同学年の上位およそ1割以内に入る必要があると考えられます。そのため、相当な努力が必要です。
一方中学受験せず高校受験して大学受験する場合、小学生の時に苦労して勉強する必要はなくなります。しかし、中学校に入学してからは高校受験のために勉強する必要があるため、どちらにせよどこかのタイミングで受験勉強に大きな時間と労力を割かなければなりません。
では、中学受験と高校受験それぞれの選択肢について整理します。
中学受験は「私立中/公立中高一貫」のどちらか
中学受験では、私立・公立の中高一貫校を受験します。中高一貫校とは、中学・高校の6年間で一貫指導を行う学校のことです。
中高一貫校には、大きく分けて「併設型」と「中等教育学校」の2種類があります。併設型とは、その名のとおり中学校と高校が併設されているタイプの中高一貫校で、高校から入学できる学校もあります。一方で中等教育学校とは、中学と高校の間の切れ目がなく、高校からの入学は原則できません。
元々中高一貫校は私立がメインでしたが、近年では公立校も増えています。公立中高一貫校は、私立よりも安い学費でレベルの高い教育を受けられることがメリットです。ただし、入試は競争率が高く、2023年度の東京都立中学校の応募倍率は4.45倍に達しています。
参照:令和5年度東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定応募状況(一般枠募集及び特別枠募集)|東京教育委員会
例として、実際に東京都立中学校、大阪府立中学校の応募倍率を確認してみましょう。
学校名 | 応募倍率 |
---|---|
小石川中等教育学校 | 4.28 |
白鷗高等学校附属中学校 | 4.18 |
両国高等学校附属中学校 | 4.65 |
桜修館中等教育学校 | 5.06 |
富士高等学校附属中学校 | 3.46 |
大泉高等学校附属中学校 | 4.38 |
南多摩中等教育学校 | 4.04 |
立川国際中等教育学校 | 3.65 |
武蔵高等学校附属中学校 | 2.83 |
三鷹中等教育 | 5.54 |
参照:令和5年度東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定受検状況(一般枠募集)|東京都教育委員会
学校名 | 応募倍率 |
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咲くやこの花中学校 | 3.98 |
水都国際中学校 | 5.18 |
富田林中学校 | 2.52 |
やはり、応募倍率は全体的に高めです。
高校受験は「私立高・公立校」のどちらか
高校受験の場合は、私立・公立高校のいずれかを選択します。中高一貫校であっても、高校受験により入学できる学校があります。しかし、中高一貫校の高校募集は減少傾向にあるため要注意です。
中学受験のメリット
中学受験に合格することで、将来の進学にかかる労力が小さくなったり、レベルの高い環境で過ごせたりするというメリットがあります。また、万が一志望校に合格できなくても、中学受験で培った経験は子どもの人生にとってプラスになるでしょう。
高校受験や大学受験の負担が少なくなる
中高一貫校に中学から入学した場合、高校受験を経ることなく、併設されている高校へ進学できます。また学校によっては、大学までエスカレーター式で進学できるケースもあります。そのため、受験勉強の負担が小さいです。
また、外部の高校や大学を受験する場合であっても、中高一貫校に入学しておくと便利です。なぜなら、多くの学校が大学受験まで見据えたカリキュラムを組んでいるためです。
例えば全国トップクラスの進学校である開成学園の国語科では、以下のようなカリキュラムが組まれています。
■開成学園国語科カリキュラム
学年 | 内容 |
---|---|
中学1年生 | 口語文法 |
中学2年生 | 文語文法・古典 |
中学2年生 | 文語文法・古典 |
中学3年生 | 古典・漢文 |
高校1年生 | 国語総合 |
高校2年生 | 現代文・古文・漢文(それぞれ独立) |
高校3年生 | 大学受験対策 |
このように早いうちから大学受験に備えていることも、開成学園が優れた進学実績を上げている理由のひとつだと考えられます。
質の高い生徒に囲まれて生活できる
また、中高一貫校に入学する子ども、もしくは家庭は将来の大学進学まで見据えていることが多いです。よって、中学入学後も高い学習意欲を維持する生徒が多く、互いに切磋琢磨していけます。実際に、中高一貫校の進学実績は優秀であることが多いです。
■中高一貫校進学実績の例(2022年度)
学校名 | 進学実績 |
---|---|
開成高等学校 | 旧帝一工神※1:259名 国公立医学部:63名 早慶上理※2:546名 |
麻布高等学校 | 旧帝一工神:119名 国公立医学部:26名 早慶上理:313名 |
桜陰高等学校 | 旧帝一工神:89名 国公立医学部:50名 早慶上理:349名 |
※1:旧帝大(東京大学・京都大学・大阪大学・名古屋大学・東北大学・九州大学・北海道大学)に一橋大学・東京工業大学・神戸大学を加えた難関大学群
※2:私立大学難関校(早稲田大学・慶応義塾大学・上智大学・東京理科大学)の総称
参照:2022(令和4)年度 大学入試結果|開成中学校・高等学校
参照:2022年大学合格者数|学校法人麻布学園
参照:令和4年度進路状況|学校法人桜陰学園
参照:桜蔭高等学校|inter-edu
質の高い教育や部活動がある学校に行ける
中高一貫校は、教育も部活動も質が高い傾向があります。
教育に関しては、最後の1年を大学受験対策に当てるため先取り教育したり、ネイティブの先生を活用したグローバル教育を導入していたりします。
質の高い教育を実施している学校の例として、渋谷教育学園渋谷中学高等学校(通称「渋渋」)が挙げられます。渋谷中学高等学校は「ユネスコスクール」に指定されており、地球規模のさまざまな問題に対応できる人材の輩出を目指しています。
参照:ユネスコスクール|渋谷教育学園渋谷中学高等学校
部活に関しても、野球やサッカーなどのスポーツの全国大会出場校の顔ぶれをみると、基本的には中高一貫校の割合が高いです。実際に、スポーツで高い実績を残している中高一貫の例を見てみましょう。
■スポーツで高い実績を残している中高一貫高の例
学校名 | 実績 |
---|---|
大阪桐蔭中学校・高等学校 | 硬式野球:全国大会優勝9回 |
青森山田中学校・高等学校 | サッカー:全国大会優勝7回 |
福岡大学附属大濠中学校・高等学校 | バスケットボール:全国大会優勝6回 |
参照サイト:硬式野球部|大阪桐蔭高校
参照サイト:サッカー部|青森山田高校
参照サイト:バスケットボール部|福岡大学附属大濠高等学校
勉強する習慣をつけることができる
中学受験を経験することで、早いうちから勉強習慣が身につきます。中学受験対策には、小学4年生の頃からの3年間をあてるのが一般的です。このように早いうちから勉強習慣を身につけておくことで、中学受験後もそれを維持でき、将来の大学受験でも大いに有利になります。
中学受験のデメリット
中学受験にはメリットだけではなくデメリットもあります。こちらも把握したうえで、中学受験を検討しましょう。
保護者の経済的な負担が大きい
中学受験をする場合、普通の中学に進学するよりも高額な費用がかかります。中学受験対策として通う塾の料金がかかりますし、私立中高一貫校の場合は、入学金や学費などが高額です。実際に、中学受験にかかる費用相場を見てみましょう。
■中学受験にかかる費用相場
内訳 | 費用相場 |
---|---|
塾代(小学4年~6年の3年間) | 200万~250万円 |
私立中高一貫校に通うための諸費用(6年間) | 450万~500万円 |
保護者の身体的な負担が大きい
子どもが中学受験をする場合は、保護者のさまざまなサポートが必要です。具体的には塾の送り迎えや学校説明会への参加、学習スケジュール管理などが挙げられます。そのため、身体的負担が大きいです。
特に共働きの家庭は忙しいため、子どものサポートが大変です。したがって、夫婦で役割分担し、負担を分散すると良いでしょう。
受験勉強が大変なため、子どもの負担も大きい
中学受験は、子どもにとって大きなストレスとなり得ます。周りが自由に遊んでいるなか、自分だけ学校では習わないような難しい内容を長時間勉強するのは、間違いなく大変です。
また、模試の結果を見て一喜一憂してしまうこともあります。勉強の成果がなかなか出ないと、モチベーションが下がってしまうでしょう。
中学受験が向いている人の特徴
中学受験が向いている人には、以下のような特徴があります。
- 好奇心旺盛
- 学習能力が高い
- 忍耐強い
- 長期的目線を持てる
- 自己管理能力が高い
- 将来の夢が明確になっている
- 素直に淡々と努力できる
中学受験で勝ち抜くには、長期間の勉強に耐える必要があります。そのためには、知的好奇心やモチベーションの高さ、自己管理能力などが必要です。また、地頭が良く学習能力が高い子どものほうが、中学受験でも当然有利です。
中学受験が向いていない人の特徴
中学受験が向いていない人には、以下のような特徴があります。
- 目先の誘惑に弱い
- すぐに結果が出ないとやる気をなくしてしまう
- ストレス耐性が低い
- 勉強が不得意
- 本人に中学受験したいという意欲がない
- 小学生の子どもは、ゲームや友達との遊びに誘惑されがちです。しかし、中学受験で勝ち抜くためには、このような誘惑に抗わねばなりません。そのためには、ストレスに対する強さも求められます。
また、勉強を始めてもすぐに成績が上がるわけではないため、すぐにやる気をなくしてしまうでしょう。そのため、長期的な目線を持って努力できる子どもでないと厳しいです。
そしてありがちなのが、保護者の意向のみで子どもに中学受験させるケースです。これは必ずしも間違いとはいえませんが、子どものモチベーション維持の難易度は上がります。
中学受験の塾の選び方のポイント
塾選びは、中学受験の結果を大きく左右します。妥協せず、子どもにとってベストな塾を選びましょう。
現在の子どもの学力や学習状況を確認する
現在の子どもの学力や学習状況によって、選ぶべき塾は変わってきます。例えば、子どもの学習状況が良くない場合、いきなり中学受験向けの塾に通っても授業について行けない可能性があります。この場合は予習メインの塾、もしくは学習進度を子どもに合わせられる個別指導塾を選ぶほうが良いでしょう。
体験授業を通し塾や先生の雰囲気を確認する
「百聞は一見にしかず」ということわざのとおり、実際に塾へ足を運び、説明を聞いたり体験授業を受けたりすることは最高の判断材料です。ネットや資料でも塾に関する情報を得られますが、それらの内容が必ずしも実態と一致するとは限りません。また、多くの方にとっては良い塾であったとしても、子どもには合わない可能性があります。
塾や先生との相性は、子どもが学習を継続したり、成績を伸ばしたりするうえで重要な要素です。したがって、体験授業は必ず受けましょう。
合格実績を参考にし教室を比較する
合格実績も、塾選びでは非常に重要なポイントです。特に志望校への進学実績が豊富な塾は、その中学への合格に必要なノウハウがしっかりしている可能性が高いため、要チェックです。
加えて、あまり成績が良くなかった子どもが志望校に合格したケースが豊富であると、より再現性高く成績を伸ばせると考えられます。そのような事例がないか、教室長に尋ねると良いでしょう。
オンライン塾などを運営するスタディスタジオ代表の鈴木孝一氏は、塾選びのポイントとして「特別な理由がない限りまずは大手中学受験塾が候補となります。圧倒的な指導実績によりカリキュラムが洗練されており、課される宿題をきちんと理解してやり切れれば大抵の志望校へ合格できるでしょう。ただ問題はほとんどの子どもは宿題をやり切れないということです。学習スケジュールを家庭で管理してあげたり、理解不足の単元について家庭教師や個別指導塾で補習を受けたりということが必要になってきます。それでも足りない場合は、金銭的な負担が増しますが中学受験に精通したプロ講師がいる個別指導塾や家庭教師への転塾が次のアクションになってきます」としている。
中学受験のメリットやデメリットまとめ
中学受験には、大学までエスカレーター式で進学できたり、質の高い教育を受けられたりするというメリットがあります。
一方で、高額な費用がかかったり、保護者や子どもの負担が大きかったりするというデメリットもあります。今回お話しした内容を踏まえて、中学受験が妥当かどうかぜひ検討してみてください。