2025年度入試を振り返ってみてどうでしょうか?

 受験者増加と堅実志向の台頭が起こりました。

 2025年度の首都圏中学入試では、全体的な受験者数は堅調に推移しました。特に埼玉県内の私立中学で受験生総数が約1.2倍に増加し、約11,000名を記録。これは児童数の減少傾向に逆行する動きで、注目を集めています。

 その背景にあるのは、開智と開智所沢の合同入試の影響でした。2024年度に新規開校した開智所沢は、開智ブランドの信頼を背景に、都内や神奈川、千葉、茨城からの受験生も集めました。JR武蔵野線「東所沢」から徒歩12分とアクセスが良く、東京西部や埼玉西部からも流入しています。

 結果、開智所沢の倍率が高くなり、合格ラインが大幅に上昇。開智所沢が不合格なのに、開智は合格という逆転現象まで発生したほどです。これに対応し、2026年度は開智所沢の定員を360名に拡大し、クラス数も10~12に増やす予定です。

 一方、神奈川・千葉では受験者数に大きな変化はなく、児童数減少の影響が色濃く出ています。ただし、東京近郊の人口増加地域である千葉の流山や埼玉の武蔵浦和では、局所的な増加が見られました。

「堅実志向」が続くとも言われますが?

 従来のチャレンジ型入試から、確実な合格を目指すスタイルへシフトしているのが全体のトレンドですね。都内の男女御三家6校である、開成、麻布、武蔵、桜蔭、女子学院、雙葉で受験者数がすべて減少したのは象徴的です。

 埼玉の栄東では難度の高い東大選抜の受験者数が減少し、一般コースの難関大選抜が増加。千葉でも渋谷幕張や東邦大東邦、市川といった難関校の受験者数が減る一方、午後入試のある上位校の昭和学院秀英が増えました。この堅実志向の理由は、受験率の上昇による競争激化に加え、学校の情報発信強化です。

 偏差値だけでなく、施設、教育内容、進学実績、在校生の雰囲気などを総合的に評価する傾向が強まっています。例えば、理数系志向の子には専門教育が充実した学校、グローバル志向の子には国際バカロレアやケンブリッジ国際認定校などのプログラムがある学校を選ぶケースが増えています。

なるべく早くに合格を得る「早期決着」もトレンドですね。

 早期決着と午後入試の活用です。近年、入試スケジュールに「早期決着」の流れが定着しています。従来は2月5日まで入試を続けるのが一般的でしたが、今は1月入試や午後入試を活用して早めに合格を確保し、後半を避ける受験生が増えました。

 受験生の約7割が午後入試を受験する時代です。東京・神奈川のデータでは、2月1日と2日の午前・午後の入試が増加する一方、2月3日以降は減少傾向。これは受験スケジュールを「横に広げる(日程を後ろに延ばす)」より「縦に伸ばす(同日の午前・午後活用)」スタイルの定着を示します。1月入試も「お試し」から「本命」へシフトし、埼玉・千葉の学校を進学の視野に入れる受験生が増えています。

 この傾向はコロナ禍で始まり、感染リスク回避のための短期間・近場受験が基盤となりました。コロナ収束後もこれは継続しており、1月に合格を確保できれば2月の受験で精神的な余裕を持てるメリットが評価されています。

人気校への集中も話題になり、高倍率の学校も目立ちますが?

 堅実志向の副作用として、「人気校への局所集中」が問題化しています。話題性がある学校や、進学実績の伸びが良い学校である、広尾学園、三田国際科学学園、日本工業大学駒場、安田学園などに受験生が殺到し、倍率が想定外に上昇しました。

 結果、前半戦で合格が勝ち取れず、後半入試まで延びるケースも出てきています。保護者へのアドバイスは、情報収集の徹底です。学校訪問で雰囲気を感じ取り、多様な選択肢を検討しましょう。1月入試を含め、子どもの特性に合った学校を幅広く候補に挙げるのが鍵です。

先ほど堅実志向のお話が出ましたが、2026年度は「サンデーショック」でチャレンジ層も出てきそうですが?

 2026年度の受験者総数は前年並み、受験率18%台を維持と予測されます。ただし、2028年度以降は児童数の急減が予想され、受験規模の縮小が懸念されています。それでも入試難度は低下せず、チャレンジ志向の復活が期待されます。私立高校の授業料支援拡大(無償化)の影響にも注目です。受験率上昇で新規層が生まれ、地域間移動が活発化。公立・私立の垣根を越えた学校選択が増える可能性があります。

 また、2026年度の目玉は「サンデーショック」です。2月1日が日曜日にあたり、プロテスタント系女子校である、女子学院、立教女学院、東洋英和女学院、横浜共立学園、玉川聖学院が2月2日に日程変更。これが全体に波及します。2月1日の影響で変更校の受験生が他の学校に流れ、吉祥女子、桜蔭、洗足学園、鷗友学園女子などで志望者増加の傾向が模試の志願状況から見られています。また、女子校だけでなく東京農業大学第一や早稲田実業も増加の傾向が見られます。

 一方、横浜エリアのフェリス女学院は日程変更なしでそれほど大きな変化は見られません。2月2日の影響で女子学院は模試の志願状況から志願者数が300名以上増加と見られ、従来2日の学校である豊島岡女子学園や明治大学付属明治が減少。堅実志向で無理なチャレンジを避ける動きが見られるでしょう。

 その中で戦略としておすすめなのは、2月1日や2月2日を両方チャレンジ校にせず、片方を安全校にすることです。1月や2月1日の午後入試で合格を確保しましょう。

 模試データを参考にしつつ、第一志望の過去問対策を優先して勉強してください。2月3日以降は高倍率覚悟で、安易に「狙い目」と判断しないほうがいいでしょう。

大学附属校と新規校の動向を教えてください。

 大学附属校は、受験者の増減が交互する隔年現象が特徴です。

 2026年度は明治大学付属世田谷の新開校が注目されています。明治大学付属明治と併願可能ですが、過去問が少なく難易度の予測が不可能です。東京農業大学第一は高校募集停止で人気が継続し、探究活動の充実が魅力です。

 日本学園が明治大学付属になり、校名を明治大学付属世田谷とします。順天は北里大学附属になり、北里大学附属順天となります。大学との連携で質の高い探究学習が期待でき、医学部、薬学部、獣医学部などへの内部進学が可能になります。浦和学院、羽田国際は今まで高校のみでしたが、中学が開校します。英明フロンティアや鎌倉国際文理も共学化しました。

 英語利用入試についても触れましょう。2025年度入試で豊島岡女子学園の英語資格入試は106名と、相当な数の受験生を集めました。これは他の学校にも影響がありそうです。2026年度入試では頌栄女子学院、富士見が導入します。東京女学館では英検加点制度が始まります。

 算数1教科は、4教科受験をする受験生たちが併願で受けることを前提にしていますが、英語利用入試は習い事や海外での経験などで学習が進んでいる受験生を対象にしています。習い事で英検取得などをしている場合は4教科入試にこだわらず、英語利用入試や英検加点制度を検討するのもいいでしょう。

最後に受験生・保護者へのメッセージを

 中学受験は情報戦です。学校訪問で先生のビジョンや在校生の様子を確認し、改革の本質を見極めましょう。塾や周囲に相談し、不安を解消してください。子どもの特性に合った環境を選べば、偏差値にとらわれず活躍の場が広がります。2026年度はサンデーショックですので、慎重な戦略で受験を乗り切りましょう。