浪人が就活で不利と感じる理由
冒頭で「浪人すると就職活動で不利になるのでしょうか?」と質問を受けることがあると述べましたが、そもそもなぜ浪人は就活で不利になると感じる人が多いのでしょうか?
浪人は「劣っている」との思い込み
私の経験上、質問者の多くがこの状態だったように思います。浪人した自分は現役合格した人たちよりも劣っており、それは企業担当者から見ても同じで、だから就活でも劣っているとみなされ不利になるはずだという思い込みです。浪人になったということは、目標に向かって頑張れない人なのではないか、自己管理能力が低い人なのではないかなどと、マイナスの印象を持たれると考えてしまうようです。
しかし、これはその浪人生自身が、浪人をネガティブなものと捉えてしまっているからにほかなりません。例えば浪人生の中には、第二志望の合格は持っていたものの、どうしても第一志望に合格したくて積極的選択として浪人している人もいます。そういった人たちは自分が劣っているとは考えずに、挑戦心をモチベーションにしています。
その人自身の心構えによっては、浪人は自ら険しい道を切り拓く挑戦、冒険であり、自己成長の機会と捉えることもできるのです。そしてそれは就活において、不利どころかアピールポイントになってきます。
浪人が辛いと感じる人もいるかと思いますが、ぜひ自分を高めるための挑戦だと捉え方を変えてみてください。
噂に流されている
大学生になって就職活動をしているとさまざまな話が耳に入ってきます。
就職活動は大学受験の一般入試のように、明確に自分の点数が出るものではありません。企業が欲している人材に適合しているかどうか、その日そのときの面接官にとって印象がどうだったのか、そういったソフトな情報で選考の合否が決まります。
就活生からすれば目に見えない曖昧な基準で戦いを強いられることになるため、憶測でさまざまな噂が飛び交うのです。「あそこの会社は早慶以上しか採用しないらしい」とか「〇〇なタイプの性格の人が受かりやすいらしい」など、真実は企業の人事担当者しか知らないわけですが、就活生がいろいろと勘繰りながら予想し、それが噂となってネット上などで錯綜します。
そんな噂の中には「浪人は不利になるらしい」といった情報も含まれており、それを目にした人が不安になってしまうようです。
浪人は就活でほぼ不利にならない
上記のように、浪人生や浪人検討者が就活を不安視する気持ちはわかりますが、実際の就活において浪人歴が不利に働くことはほぼないと言えます。その理由は下記の通りです。
企業は浪人の経験を見ていないことが多い
まず意外かもしれませんが、企業が採用活動を行う際に、浪人経験をチェックすらしていないケースは往々にしてあります。
企業の採用は「新卒枠」「第二新卒枠」「中途枠」などと複数の枠に分けて行われます。現役合格でストレートに就活生となった人も、浪人をして就活生となった人も、基本的には同じ「新卒枠」の募集に応募をすることになります。
つまり企業から見たときに、現役も浪人も同じ「新卒者」であり、区別をしていないのです。もちろん履歴書を見れば浪人歴についてもわかりますが、企業側がチェックすることは可能であっても、そこまで見ていないことのほうが多いようです。
なお、一般的な企業は卒業後3年以内の人を「新卒枠」で採用する傾向があるのですが、ここで一点注意しなければならないのが3浪以上の浪人をした人です。この人は「第二新卒枠」での応募しか許されないことがあります。
3浪の人も確かに大学卒業から起算すれば、入社時点で3年は経過していないのですが、年齢的には第二新卒枠の人と同じという観点から、新卒枠に応募できなくなるケースがあります。そのため、3浪以上は就活に不利になるケースがあり得ると言えるでしょう。
企業は就活生の「人となり」を主に見ている
企業側の視点に立って考えてみましょう。あなたが人事担当者としてどんな人を採用したいかと考えたときに、「浪人していない人」という条件が真っ先に浮かぶでしょうか?
「タフな人」「素直な人」「リーダーシップがとれる人」など、一緒に同じ会社で働くうえで大切な「人となり」を採用基準にしたくはならないでしょうか?
もちろん「学歴フィルター」という言葉に代表されるように、「経歴」も一つの尺度にはなり得ます。大量の応募者をふるいにかけて採用活動を進める以上、経歴でまず基準を設けることは、企業側にとっては効率的かつ合理的な方法です。しかしそれがどうして基準になり得るかといえば「事務処理能力の高さ」「高い目標をクリアする力」などといった人の資質に、学歴を変換して考えているとみなすことができます。
その人の人となりを多面的に測る試験が企業の採用試験であると考えたときに、「浪人」という経歴が、採用基準に照らし合わせて何かマイナスな資質に変換できるかといえば、その影響はほとんどないと考えてよさそうです。
むしろ浪人生活の経験の中身によっては、有利に働くかもしれません。
浪人はむしろ有利? 就活に与えるポジティブな影響
企業は就活生の人となりを多面的に見ていると紹介しました。その性質を考慮すると、浪人経験は就活で有利に働くと考えることも可能です。
同時期に就活する人たちよりも経験値が豊富
例えば1浪の就活生と現役合格の就活生を比較すると、浪人した人のほうが1歳年齢が上になります。その1年はもちろん浪人生として勉強に捧げた時間だったかもしれませんが、1年365日の中で経験すること、見聞きすることは非常に豊富です。
- 浪人生としてのハードな日々を乗り越えたこと
- 浪人中にアルバイトや趣味など、勉強以外で活動したこと
- 浪人中に新しく知ったこと、考えたこと
浪人生の中には、自分の人間としての幅が、1年の間に何かしらの側面で広がったと感じる人が多いものです。現役合格ストレートで就活を迎える人よりも、豊富な経験や知識を使って、企業にアピールできる武器を多く持っている状態になれるわけです。これは有利と言えます。
浪人経験自体がアピールポイントになることもある
就活で頻繁に問われるのは「どのような経験をし、そこから何を学び取ったか」です。
例えば私がよく聞かれる質問に、「海外留学経験は就活で有利ですよね?」というものがあります。これに答えるならば「留学した事実だけでは有利になることはない。そこで社会人生活に活かせるような、何かを学んだ経験があれば有利になり得る」というアンサーになります。
確かに何事も経験豊富であることは、何も経験していない状態よりはよいでしょう。しかし就活生の人となりを知りたい企業側からすれば、どんな経験をしたのかという事実よりも、それを通して何を得たのか、どんな成長を遂げたのかという、その人の内面を知りたいわけです。
浪人に話を戻します。浪人生活は簡単なものではありません。1年間、目標に向かって勉強を続けるうえではさまざまな苦労があり、それを乗り越えるための工夫があり、それらを通して感じることや学ぶことがあると思います。浪人生活の中で人間的な成長があったのであれば、それはその人にとって欠かせない重要な人となりの構成要素になります。
「私は〇〇な思いで浪人を決めた。〇〇な困難があったが、〇〇な工夫をして乗り越えることができた。その経験を通じて〇〇の大切さを知った。これは会社に入って社会人として〇〇するときに強みとして発揮できるはずだ」。
このように浪人経験が自分の糧となり、就活のときに自分のアピールポイントとなり得ることを考えれば、浪人は就活において不利どころか有利に働く材料だと考えることができます。
就活に関する情報を集めやすい
こちらは少々細かい話ですが、浪人生は就活において大切な情報収集が楽になる可能性があります。
就活をするとわかりますが、世の中には多様な業種があり、数多くの企業が存在します。その中から自分が勤めたい企業を見つけることは大変です。また、採用試験にもさまざまな種類があります。SPIと呼ばれるペーパー試験のようなものや、グループディスカッションや面接など、企業によって選考フローも異なります。
その中で自身の就活を成功させるためには、やはり情報を多く集めておくに越したことはありません。情報は就活塾やネットの掲示板などで取得することもありますが、最も一般的なのは身近にいる、過去に就活を済ませた大学の先輩やOBに頼る方法です。
ここでの浪人生の強みは、かつての高校時代の同級生がすでに就活を終えているという点です。そのような人たちにうまくコンタクトをとれば、より多くの信頼できる情報を取得できるかもしれません。
「浪人は就活に不利?」に関するよくある質問
浪人と就活についてはさまざまな質問を受けることがあるため、いくつか代表例を挙げておきます。
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Q.浪人してさらに留年すると就活に不利ですか?
ポジティブな理由を伝えることができなければ不利になる可能性があります。浪人についても留年についても「勉強をサボったので」という理由であれば、企業側も「そんな怠惰な人とは一緒に働きたくない」と考えるのが普通でしょう。ちなみに、どちらかといえば、企業側は浪人よりも留年のほうを気にすることが多いようです。
各個人の事情があるとは思いますが、浪人も留年も自身が積極的な選択として活用したという伝え方をするように心がけてください。浪人であれば「妥協せず自分の目標を追求したかった」「一生に一度本気で勉強に取り組みたかった」、留年であれば「自分の目標のために学外で活動する時間が欲しかった」などがその例です。
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Q.浪人の事実は就活で自分から伝えていったほうがいいですか?
就活ではエントリーシート(応募書類)や面接で、必ずといっていいほどガクチカ(学生時代に力を入れたこと)や自己PR(自分の強み)について問われます。このとき、浪人での経験が効果的なアピールポイントになりそうなら、それを利用するのがよいと思います。
ただし、そこばかりアピールすると「大学4年間で頑張ったことはなかったのかな?」という印象にもつながりかねませんので、通常は大学時代に学んだことや得たことをメインにしながら、サブとして浪人経験をアピールするかたちがよいと思います。
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Q.就職したあと、浪人だと出世などに影響が出ることはありますか?
おそらく影響はゼロに近いと思います。企業によっては学閥などがあり、出身大学を聞かれることはあります。しかし、そこから発展する会話としても、何学部だったか、卒業が何年度かなどの話はあれど「浪人? 現役?」という話は滅多に出ないと思います。ましてやそれが、出世に影響することはありませんので安心してください。
まとめ|浪人は就活に不利なのか?
浪人が就職活動の際に不利になるのではないかと不安に感じる人がいますが、就活においては浪人経験に触れられないことのほうが一般的です。私の過去の浪人生の教え子も、就活で浪人について質問を受けた子はほとんどいません。ただし、3浪以上の多浪になると第二新卒扱いとなり、応募できる企業が少なくなってしまう点には注意が必要です。
浪人が不利に働かない理由は、企業側が就活生のどのようなポイントを見て採用を検討しているかを考えてもわかります。そしてその観点で見れば、浪人という経験を自己成長の貴重な機会だったと捉え、自分の人となりのアピール材料に利用できることから、浪人は就活においてむしろ有利であると考えることもできます。
いま浪人中の人は、この時間が自己成長の機会となるように日々工夫を重ね、努力を継続しましょう。浪人を経て大学生になった人は、自身が浪人経験を通して何を感じ、何を学んだかを考えて整理してみましょう。浪人生活を乗り越えた経験は、きっと自身の人生の糧となるはずです。