浪人生でも総合型選抜の受験は可能!

 浪人生と話していると「総合型選抜って浪人生でも受験できるんですか!?」と驚かれることがありますが、結論から言えば受験可能です。指定校推薦など、他の年内入試は現役生しか受験できないことや、高校の評定を出願基準に含む総合型選抜を実施する大学が多いことなどから、現役生でないと受験ができないというイメージを持っている人が多いのかもしれません。

 しかし、既卒生でも多様な大学で総合型選抜が可能ですので、志望校合格のための一手段として、戦略的に活用していくことを一度は検討してみるとよいでしょう。

浪人生が総合型選抜を受験するメリット

 総合型選抜を受験することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。一般的なメリットだけでなく、浪人生ならではのメリットも紹介していきます。

受験回数が増えることで合格可能性が高まる

 例えば、私立大学のとある学部への合格を目指している人が、一般入試のみでチャレンジするとなると、受験機会は①共通テスト利用入試 、②一般入試(全学部入試)、③一般入試(学部個別入試)の、多くて3回となるのが一般的です。

 これに、もし総合型選抜での受験を追加することができれば、志望の大学学部に4回挑戦できることになります。

 総合型選抜を活用して受験回数を増やすことは、合格可能性を高めるための合理的な手段と考えることができます。

学力以外の側面で評価してもらえる

 総合型選抜はその名の通り、「総合的に」受験生を評価する入試になっていることが一般的です。大学学部により試験内容はさまざまですが、学力以外の強み、コミュニケーション能力、活動実績、熱意などを評価してもらうことができます。

 学力が低くてもよいわけではありませんが、一般入試の勉強に大量の時間を割くのではなく、課外活動に重きを置いて日々を過ごしたい人もいるはずです。そういった人にとっては、総合型選抜の入試内容は非常に相性のよいものになります。

現役生よりも準備に時間をかけられる

 上記までは現役・浪人にかかわらず、一般的な総合型選抜のメリットになりますが、それを踏まえ、浪人生特有のメリットを挙げていきます。

 まず1点目は、準備の時間を十分に確保できる点です。現役時代は総合型選抜のみを受験するにしても、一般入試と総合型選抜を両立させるにしても、とにかく時間が足りなかったと思います。総合型選抜では志望理由書、自己PR書、プレゼンテーション資料、レポート課題など多種多様な準備が必要であり、その一つひとつにとても多くの時間がかかります。高校生活を送りながら放課後の時間を使って行うには、なかなかハードな分量です。

 しかし浪人生は、その点で時間の確保がしやすい立場になります。浪人生は絶対に合格をしなければならない、後がない状況であるため、基本的には一般入試をメインに対策しながらサブで総合型選抜に挑戦しますが、その両立も時間的には十分可能です。納得のいくまで丁寧に準備をして挑めば、現役生よりもハイクオリティーな内容で勝負することができるかもしれません。

自己分析や探究活動にじっくり取り組める

 総合型選抜の試験準備にあたっては、前提として自分がやりたいことを明確にし、そのやりたいことに自分なりに取り組んでおく必要があります。そういったプロセスを経てこそ、さまざまな書類や面接試験において、自分の言葉で大学側にアピールすることが可能になります。

 例えば、自身の進路が明確になっていない人であれば、そもそも自分は何を学びたいのか、実際にその学びのために現時点からできる活動はないのか、その活動はどこで誰とできるのか、実際に活動してみて何を感じたか、その活動を今後どのように発展させていきたいか、今後の学びのフィールドはどの大学学部が適切なのか……など、頭と体をフルに使って自己分析と探究活動を重ね、大学での学びを見定めていく必要があります。

 しかし、これほどのことを短時間で完了させられるはずがありません。人それぞれとはいえ、長い期間をかけてじっくりと煮詰めていくような作業ですから、多大な時間が必要です。

 高校時代には表面的にしか活動できていなかった人も、浪人生になれば納得のいくまで時間を使ってこれらを深めていくことができます。そしてそれは総合型選抜の入試において、大学側に強く自分をアピールできる材料になるのです。

浪人生が総合型選抜を受験するデメリット

 浪人生の総合型選抜にはメリットがある一方で、デメリットや注意点もあります。下記にその例を列挙します。

総合型選抜に確実な合格はない

 総合型選抜は総合的な人物評価による入試です。それは裏を返せばテストの得点などの、明確に数値化できる指標ではないもので合否が決まるということです。一般入試であれば模試や過去問の点数から合否がある程度予測できますし、入試本番後も答え合わせをすれば自分の得点が大方判明します。しかし総合型選抜は、合格だったとしても不合格だったとしても、なぜそのような結果になったのか、受験生がその背景を知ることはできません。

 例えば私の経験でも、総合型選抜の指導をしていて「この子はしっかり準備できているし、きっと合格しそうだな」と思っていた生徒が不合格になったり、逆に「ちょっと不安が残るな……」と感じていた生徒が合格になるなど、予想を裏切られる結果となったことは少なくありません。そのように、一般入試と比較して不確実性が高く、合否の予想もしづらいのが総合型選抜なのです。

 多くの浪人生は「今年は絶対に合格しなければ」という気持ちを持っています。2浪は避けたいと思い、後がない状況で受験準備をしています。そのような中で不確実な総合型選抜一本に絞って受験をすることは、かなりハイリスクであることが想像できます。

 よって、基本的にはあくまでも一般入試対策をメインに取り組んでおいたほうが、浪人生として後悔のない受験になると考えられます。

浪人になってから準備をしても間に合わない可能性がある

 メリットの説明で「浪人生は総合型選抜の準備に時間をかけることができる強みがある」と述べましたが、人によっては注意が必要です。例えば、高3時に一度、総合型選抜に挑戦した経験がある人は、受験準備や入試の流れなどをよく把握できています。また個人の探究活動も、高校時代から浪人にかけて継続することでより深めることができ、浪人生としての総合型選抜の出願に向けて効率的に準備ができるでしょう。

 しかし、浪人になって初めて総合型選抜の受験を検討する人は注意が必要です。総合型選抜の出願は秋頃に始まりますが、浪人が決まった4月から秋までの半年間でできる準備には限りがあります。毎日時間があるとはいえ、これといって研究したいテーマがあるわけではなく、さらにそのために活動してきた実績もない場合、ゼロから準備を積み重ねていかなければなりません。選ぶテーマによっても変わりますが、おそらく相当な時間を費やすことになります。

 つまり、安易に総合型選抜の準備に取り掛かることで時間を浪費し、一般入試の対策まで不完全となり、共倒れするリスクがあると考えることもできるのです。

アドバイスをくれる人が周りにいないと準備が難しい

 総合型選抜の準備・対策で非常に難しい点は「正解がない」ことです。英語や数学の試験であれば絶対的な模範解答があり、それに対して正解・不正解に応じて得点がつきますし、自己採点も可能です。しかし総合型選抜は、総合評価であるがゆえに明確な模範解答があるわけではなく、自分を信じて書類や面接で自分を売り込み、大学教授に認めてもらわなければなりません。

 こういった試験に向けてどのような準備をすればよいかを考えたときに、いろいろな注意点の中の一つが「第三者に見てもらう」ことです。志望理由書や自己PR書、プレゼンテーション資料など、自分が作成したものを第三者に見てもらって評価やアドバイスをもらい、改善を積み重ねていく必要があります。実際の入試での評価者は大学教授ですから、教授の視点を理解した大人、つまり指導経験豊富な高校教員や、プロの塾講師などに頼ることが好ましいと考えられます。

 現役生であれば学校に高校の先生がいて、いつでも相談できる環境があったかもしれません。また、自分と同じように総合型選抜の準備をしている同級生と情報交換などもできたかもしれません。

 しかし浪人生は、その点では孤独な環境に置かれているため、なかなかアドバイスをもらえず、準備がはかどらないリスクがあります。これは、総合型選抜の準備において致命傷になり得ます。

浪人生でも総合型選抜を受験可能な大学リスト

 現在、総合型選抜は、国公立大学でも私立大学でも数多くの大学で実施されています。下記はそのほんの一部の例です。ぜひ自分の興味がある大学についても、総合型選抜が実施されているかどうか調べてみてください。

国公立大学

北海道大学、東北大学、千葉大学、筑波大学、東京都立大学(公立)、京都大学、大阪大学、鳥取大学、島根大学、九州大学、琉球大学 など

私立大学

早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学、近畿大学 など

浪人生が総合型選抜で合格するコツ

 浪人生も総合型選抜で十分チャレンジができることがわかったところで、実際に合格を勝ち取るためにどのようなポイントを意識すればよいのか考えてみます。

総合型選抜が自分にとって有効な手段か早期に判断する

 まず最も大切なことは、総合型選抜を受験するのかどうかを早期に決めることです。前述のように、総合型選抜の対策準備には多大な時間を要します。もし高校時代に総合型選抜を受験していないのであれば、なおさらです。

 浪人が決まったら速やかに志望校を決め、その大学学部に合格する上でどのような受験戦略が有効なのかを検討してください。総合型選抜に可能性を感じれば、早速準備をスタートさせましょう。

第三者からフィードバックをもらえる環境づくりをする

 デメリットの説明で記載したように、総合型選抜の対策においては第三者からの客観的な評価・アドバイスが必要になります。できれば総合型選抜の指導経験が豊富で、大学側の視点も理解した大人からフィードバックをもらえることが理想です。そのための環境づくりを積極的に行いましょう。

 例えば高校時代の先生に連絡を取り、定期的な指導をお願いするのもよいでしょう。もちろん総合型選抜対策が可能な塾に入るのも有効です。知り合いに大学の関係者などがいれば、そういった人に頼るのもよいでしょう。

 また、過去に総合型選抜で合格した先輩などにアドバイスをもらうのもよいと思いますが、指導者ではないので、あくまでもただの経験者である点には注意しましょう。

一般入試とのバランス管理に細心の注意を払う

 確実に大学から合格をもらって受験を成功させるためには、一般入試の対策をメインにすべきであると前述しました。一般入試と総合型選抜を同時並行で両立させながら対策を進めることで受験機会を増やし、合格可能性を高めることができます。

 ただし、その際に注意すべき点は、一般入試対策と総合型選抜対策のバランス管理です。限られた時間の中で2つのことを進めるわけですから、時間や労力の配分が必要になります。筆者の過去の経験では、総合型選抜対策のほうが面白みがあるという理由で、そちらにばかり時間を割き、一般入試の勉強がおろそかになるケースが多いように感じます。両者を抜かりなく遂行できるように、バランス管理には十分注意しましょう。

 この点に関しても、なかなか自分だけの視点では要領よく進められないケースが出てくると思いますので、第三者の客観的な視点で自分の状態を把握し、指摘してもらえる環境をつくっておくと安心です。

浪人生の総合型選抜に関するよくある質問

 ここからは、浪人生の総合型選抜についての疑問に回答します。

  • Q.2浪でも総合型選抜の受験は可能ですか?

     多くの大学学部で可能ですが、募集要項を事前によく読んでください。大学学部によって現役のみ、2浪までOKなど条件はさまざまです。

     

     例えば、大妻女子大学の総合型選抜の2025年度入試の要項にある出願条件の項には「高等学校もしくは中等教育学校等を令和7年3月卒業見込みの者または卒業後5年以内の者」と書かれています。これは言い換えれば、5浪まで出願可能であることを意味しています。

  • Q.現役生と比較して、合格の容易さに差はありますか?

     同じ出願条件、同じ試験内容で実施されている以上、そこに差が生じることはないと考えてよいはずです。「はず」という表現をあえて使用するのは、実際の合否の判断がどのように行われているのか、総合型選抜では不明だからです。

     

     ただし、浪人生は浪人生なりの戦い方をしなければならないと個人的には考え、自塾の浪人生にも指導をしています。それは何かと言えば「探究の深さと継続性のアピール」です。時間がある浪人生だからこそ取り組むことができる活動をしたり、浪人中も自身のテーマをブラッシュアップすべく、活動を続けている姿勢を示すことが重要です。

     

     大学教授の視点に立って考えてみたとき、浪人してからも自身の探究テーマと向き合って活動を重ねている人と、高校時点でストップしている内容を受験に持ってくる人を比較すれば、当然、前者のほうに本気度や熱量を感じて高い評価を与えたくなるはずです。大学側は受験生が浪人生であることを把握し、その視点で見ています。浪人生になって、高校時代から探究を進化させているのかどうかは気になるポイントでしょう。

     

     例えば、もし高3時も浪人時も同じ大学学部の総合型選抜を受験するとすれば、提出書類も面接で話す内容も、昨年からの変化度を見せられなければ「去年から何も成長してないな」と、逆にマイナスの印象を持たれてしまうことが考えられます。

     

     浪人生として総合型選抜に挑むのであれば、浪人になってからも立ち止まらずに、より深く自身のテーマと向き合ってきたという姿勢が示せるとよいでしょう。

まとめ|浪人生は総合型選抜(旧AO入試)を受験できる?

 浪人生でも総合型選抜の受験が可能な大学学部は数多くあるため、受験機会を増やすために総合型選抜の受験を検討する余地は十分にあります。

 しかし受験準備にあたっては、環境整備などさまざまな注意点があることや、そもそも総合型選抜の合否が不確実であるという性質上、一般入試の準備も並行して欠かさないことが重要であることも、ご理解いただけたかと思います。

 浪人生は後がない状況だからこそしっかりと戦略を練り、総合型選抜活用の要否を判断しながら志望校合格を目指していただければ幸いです。