部活と勉強の両立はなぜ大変と言われるのか

 両立が大変ということは誰でも想像がつきますが、具体的に両立の難しさを分解してみます。

日常的な勉強時間不足に陥る

 部活をやっている人は、やっていない人よりも帰宅時間が遅くなります。つまり勉強にかけられる時間が確保できず、勉強がおろそかになってしまうリスクがあります。土日に部活があれば、そこでも勉強時間は削られることでしょう。

 受験勉強だけでなく、日々の授業の予習復習の完成度も積み重なれば大きな学力の差になって表れてきますが、こちらも部活に圧迫される可能性があります。

疲労による集中力低下

 特に運動部に所属している場合はわかりやすいのですが、部活に打ち込んだ結果、身体的疲労が蓄積し、帰宅後に勉強に集中できないリスクがあります。たとえ勉強へのモチベーションが高い人であっても、どうしても眠気に負けて寝てしまい、勉強時間が損なわれてしまうこともあります。

 早起きして朝練で活動し、日中の授業中にうとうとしてしまう……なんてこともあるかもしれませんね。

引退時期による受験勉強の圧迫

 部活によって引退時期はさまざまですが、高3の何月まで部活があるのかは受験の結果を左右する大きな要因になります。いよいよ受験学年となり、周りも本気になり始める高3の大切な時期に、いつまで部活があり、いつから本格的な受験勉強が開始できるのかは、学力レベルの最終的な到達点を決定づける大きな要因のひとつです。

部活と勉強は両立できる

 前述のように部活と勉強の両立はとても大変なことで、細心の注意を払って取り組まなければなりません。しかし、両立は決して不可能ではありません。

 実際に私が指導してきた受験生の中でも、野球部やサッカー部などのハードな部活を高3の夏まで続けたうえで、第一志望校に合格した人を何人も見たことがあります。私自身も高3の9月末まで週5~6日で部活を続けましたが、大学に現役合格できました。

 受験までの学習スケジュールを綿密に計画して行動するなど、工夫をすれば部活と勉強の両立は誰にでも可能です。むしろ部活も勉強も頑張って、それぞれで自分の納得のいく結果が出れば、それほど楽しく充実した高校生活はないでしょう。

 この記事でも、両立を成功させるための秘訣を紹介します。

部活と勉強を両立させるメリット・重要性

 具体的な秘訣を紹介する前に、両立のメリットに触れておきたいと思います。もちろん「やりたい部活を納得いくまでやる」という自分の中での満足感を得られることが、まず第一のメリットかと思います。ただ、それ以外にも、両立にチャレンジすることから得られるさまざまな効果があると私は考えています。

自己管理能力の向上

 真剣に両立を追求すると、自然と「時間の使い方」を日常的に意識するようになります。限られた時間内で効果を最大化するために、どのように行動すればいいか考えられるようになります。計画的に動く力が鍛えられれば、大学進学後の勉強や就活、社会人生活でも役立つはずです。

ストレス発散・精神の安定

 部活が運動部であれば、体を動かすことが心身の健康につながります。また運動部でなくても、部活の仲間たちとの活動は息抜きになり、充実感を生むでしょう。部活動に所属していることで、ひたすら机に向かって勉強だけに没頭するよりも、適度にストレスを発散しながらモチベーションを維持して勉強に取り組むことができる可能性があります。

入試での評価にもつながる可能性

 年内入試と呼ばれる学校推薦型選抜や総合型選抜においては、部活動での経験が評価されるケースがあります。全国優勝などの華々しい実績がなくても、継続して取り組んだ姿勢や、部活動の中での役職経験や養われた力などがアピール材料となる可能性があります。

引退後に急激に成績が向上する可能性

 これはやや根拠の薄い経験則となりますが、部活に熱中していた人は、引退と同時に一気にそのエネルギーを勉強に注ぎ込むため、急激に成績を向上させる人が少なくありません。中には引退後も余韻に浸って、なかなか勉強モードになれない人もいるため一概には言えませんが、部活に打ち込んでいた人は、引退後に勉強にも真剣に取り組む傾向が高いように思います。

部活と勉強を両立させる方法・コツ10選

 ここまで両立の大変さ、両立から得られるメリットなどについて整理してきました。では両立を実現させるためには、具体的にどのような方法・工夫があるのか、思いつくところを紹介していきます。

部活の選び方を工夫する

 週何回の活動があるのか、引退時期はいつなのかによって、3年間全体で勉強に使える時間は大きく変わります。所属する部活を選ぶ時点で、自分がどの程度部活に時間を使えるのかを想像して選択することは大切です。

学校や塾の授業に集中する

 放課後の勉強時間が部活で圧迫される以上、授業は最大限集中して受講すべきです。自分で復習や暗記、演習をする時間が勉強においてはもちろん大事なのですが、それを十分に確保できない可能性が高いのであれば、授業内でなるべく多くを吸収できるよう心がけましょう。

スキマ時間を有効利用する

 学校の登下校などの移動時間、学校の昼休みなどの休憩時間など、わずかな時間でも勉強できることはさまざまにあります。例えば「5分あったら〇〇をする」「20分あったら△△をする」のように、スキマ時間の長さごとにやることを決めておくのもよい工夫です。短い時間ならアプリで英単語を覚える。少し長めの時間があれば数学の問題の解答方針を思い浮かべてチェックするなどです。

「塵(ちり)も積もれば山となる」という言葉の通り、小さな努力や心がけが最終的に大きな差を生むことになるのは、受験勉強においても間違いのない真実です。

早期に英語を得意にする

 大学受験において、英語は理系でも文系でも、国公立でも私立でも、大抵の場合は必須科目となり、配点も高く設定されています。よって、高校3年間全体を通した受験戦略を考えたとき、高1や高2で英語を得意科目にしておいたほうが受験勉強全体を有利に進められます。

 英語はできるようになるまでに時間がかかるため、高3になった時点で苦手だと、そこからそれなりの時間を英語に割く必要があり、他の科目の勉強が回らなくなるリスクがあります。逆に英語を得意にしておけば、高3で慌てることなく他の科目の仕上げに取り掛かることができます

 私はこの考えに基づいて「高2までの英語塾OUTCOME」を立ち上げました。部活も受験も後悔のないように成し遂げてほしいと考えたとき、早期に英語を得意にすることはひとつの突破口になると考えています。

引退時期を見据えた計画立案

 上記と似ていますが、引退時期を踏まえた高校3年間のマクロ視点でのスケジュール作成は重要です。

 自分の所属する部活の引退時期はみなさん把握していると思います。例えば高2の終わりに引退するのであれば、塾に入るタイミングは高3の4月からでよいかもしれませんが、高3の夏まで部活があるとすれば、逆に高2の夏頃から塾に入って、少しずつ準備を進めておいたほうがいいかもしれません。

 また自学の場合でも「〇月までは基礎固め」「引退後からは過去問演習」などのように学習段階を分けて、長期スパンでの計画を立てておくとよいでしょう。

学校と自宅と塾の三角形を小さくする

 移動時間が長いことは、勉強時間が奪われることにもなれば、心身の疲労の蓄積にもつながるため、基本的にメリットがひとつもありません。

 したがって、学校と自宅と塾の3地点間の距離は可能な限り近づけて、短くしたほうが受験には有利です。どうしても長い移動時間が発生する場合、移動時間中に学習する方法や内容を工夫して決めておくとよいでしょう。

オンライン塾を活用する

 上記の観点でいくと、オンライン塾を活用するのも有効な手段のひとつです。コロナ禍で増加したオンライン塾は、元々は「感染症の影響を受けない」という理由から主に選ばれる傾向がありました。しかし最近では「移動時間がかからなくて効率的」「夜道の独り歩きなど安全面での不安がない」「地方在住でも都会と同じ専門性の高い指導が受けられる」などの理由から選ぶ人が増えています。

 部活をしていると下校時間が遅くなり、塾の授業に最初から参加できないケースも多いようですが、オンライン塾であれば夜遅くに自宅で受講することも可能です。部活と勉強の両立を目指す人は一度検討してみるとよいでしょう。

 私が運営するStudyコーデや、前述した高2までの英語塾OUTCOMEもオンライン塾であり、24時まで受講ができる体制を整えています。実際、部活後の帰宅時間が20時や21時頃になってしまうような高校生たちが多数在籍しています。

ルーティンをつくる

 部活に対しても勉強に対しても、人は常にやる気に満ちているわけではありません。気分の浮き沈みは誰にでもあり、やる気が出ない日があるのは当然です。

 そこで大切なのが、モチベーションに左右されない仕組みづくり、言い換えるとルーティンの構築です。例えば登下校中の勉強内容を固定する、休み時間は図書館で勉強すると決めておく、帰宅して一番最初に取り組む勉強を決めておくなど、毎日同じような過ごし方をすること=ルーティンをつくっておくと、モチベーションに左右されずに勉強を続けやすくなります

仲間をつくる

 同じ境遇で両立を目指しているようなモチベーションの高い仲間をつくると、プラスの刺激をもらうことができると思います。例えば部活の練習が終わった後に、どこかに遊びに繰り出す人もいれば、すぐに自習室や図書館に行って勉強を始める人もいるでしょう。

 この場合、当然ですが後者の仲間をリスペクトし、共に行動したほうが、受験勉強という観点で言えばメリットは大きいはずです。部活でも勉強でもお互いに高め合えるような関係性を、身近な友人たちと築くことができれば素敵ですね。

後輩に背中を見せる気持ちで

 こちらは精神論になりますが、私自身も高校生当時に考えていたことなので紹介してみます。私の部活は高2の終わりに引退することも、高3の夏に引退することも選択できる部活でした。私は後者を選びましたが、そこで考えていたのは「これで大学に落ちたらかっこ悪いな」「部活をやりきっても大学に合格できることを後輩たちに示したいな」ということでした。

 もし自分が受験に失敗すれば、後輩たちは「引退時期が遅いとやっぱり大学受験に失敗するんだな」と部活の継続に不安を覚えてしまうかもしれません。そうではなく「頑張れば両立できるんだ!」と感じてほしいという想いが、私の勉強に対するひとつのモチベーションになっていました。

 いま私の塾の生徒たちを見ていても、「自分以外の誰かのために」という気持ちを持っている人は強いと感じます。家族を喜ばせるため、友人と一緒に喜び合うため、後輩に背中を見せるためなど、自分だけではなく、他者のためにも頑張ろうという気持ちが勉強のモチベーションになるようです。

部活と勉強が両立できる人・できない人

 この記事を読んでいる人の中には、部活と勉強の両立に挑戦するかどうか実際に悩んでいる人もいるでしょう。ここまでの話を踏まえて、両立に向いている人と向いていない人の特徴を列挙してみたいと思います。

 部活と勉強が両立できる人の特徴

  • メタ認知の力があり、自身の状況を冷静かつ客観的に把握できている人
  • 毎日決まった時間に決まった内容を学習するようなルーティンを持っている
  • 「〇分だけでもやる」という意識でスキマ時間を活用できる
  • 周囲に流されず、自分の目標から逆算した行動がとれる

 まず両立において不可欠なのは、長期・短期それぞれの視点で計画的に行動できる力です。自分の置かれた状況や、今後勉強に使えそうな時間、注力すべき課題などを冷静に把握し、それに応じた行動がとれることが大切です。

 日常的に適度な危機感を持ち、授業中やスキマ時間を無駄にしたくないという気持ちで勉強に取り組む姿勢も不可欠です。またそのために、ルーティンをつくるなどの具体的な工夫を取り入れられる行動力も重要となります。

 気分の浮き沈みはあれど、目的のために割り切って、感情に流されずに進んでいける力が大切になります。

部活と勉強が両立できない人の特徴

  • 忙しさを理由にして、日々の学習を後回しにしてしまう
  • 疲れたら何もせずに寝てしまい、生活のリズムが乱れがち
  • 勉強のモチベーションが不安定
  • 「引退してから頑張ればなんとかなる」と考えている

 思い付きで行動を決めてしまうようなタイプは、両立には向いていないと言えます。自分が満足するまで無計画に部活を続けたり、眠気を感じたら寝ることをすぐに選択してしまったり、後先考えずに目の前にある楽しいほう、楽なほうを選択してしまう人は、勉強時間がなかなか確保できずに失敗してしまう可能性が高まります。

 危機感が薄く、日常に隠れた貴重なスキマ時間に目を向けず、「部活を引退してから頑張ればなんとかなるかな」と甘い見通しで日々を通り過ぎてしまう人は、おそらく両立には向きません。

部活と勉強を両立させる際の注意点

 両立を成功させるための方法・コツは紹介しましたが、最後に、実際に両立に挑戦しようとしている人に向けて注意点をお伝えしたいと思います。

「完璧主義」にならないこと

 部活も勉強も全力で完璧にやろうとすると、心身がすり減り、結果的にどちらもうまくいかなくなることがあります。これは真面目な人に多く見られる傾向です。例えば「今日は勉強時間が1時間しか取れなかった」と落ち込むより、「部活後でも眠気に負けず1時間頑張った!」とポジティブに捉える視点を持つことが、両立を継続させる秘訣のひとつです。

 日々の学習計画や目標設定においても高い理想を掲げすぎず、現実的な計画・設定にして淡々と進めることが肝要です。

「睡眠時間を削って勉強」は逆効果

 部活の後に勉強時間を確保しようと頑張りすぎると、就寝時間が遅くなり睡眠不足に陥るケースがあります。睡眠不足は集中力・記憶力の低下だけでなく、ケガのリスクやメンタル面への悪影響にもつながる恐れがあります。

 特に運動部では身体的疲労の回復も重要なため、最低6時間以上の睡眠時間を確保することを意識しましょう。もしくは「自分は睡眠時間を〇時間確保しないとパフォーマンスが下がる」というラインを自分で見定めておき、それを守るように心がけるとよいでしょう。

周囲の意見に振り回されない

「部活をやっていたら受験に間に合わない」「先輩は〇月には引退していた」「遅くても〇月までには塾に入ったほうがいい」など、周囲からのさまざまな声に惑わされることもあります。しかし、人によって状況はそれぞれ異なるため、周りの基準で必要以上に焦らないようにしてください。

 学校の担任や塾の講師など、自分の成績状況などを細かく把握してくれている人がいれば、その人のアドバイスをメインで信じるようにするなど、信頼できるサポーターを見つけることが大切です

引退後に「燃え尽き症候群」にならないための事前準備

 部活引退後、やりきった達成感や解放感、それまで部活に費やしていた時間がまるっとなくなる喪失感などから、何をするにもやる気が起こらない、燃え尽きたような様子になってしまう高3生が少なくありません。これは事前に引退後の学習計画を立て、少しずつ学習時間を増やすなどの準備をしておくことで防ぐことが可能です。

 また、引退後は受験モードへの切り替えができている仲間とすぐに行動を共にするなどの工夫で、自分の切り替えもスムーズにいく可能性があります。

まとめ|部活と勉強は両立できる?

 たった3年間しかない高校時代。部活も勉強も本気で頑張って、最高に充実した高校生活を過ごせたら、それほど素敵なことはありません。しかし限られた時間の中で、やりたいことをすべて納得いくまでやりきるのは相当大変なことです。

 部活と勉強の両立を実現するためには、戦略性、計画性、危機感、行動力、自己管理能力などさまざまな素養が必要になることが、この記事からもご理解いただけたかと思います。中途半端な心構えでは、どちらも中途半端に終わるような残念な結果にもなり得ます。

 大人になって振り返ったときに「本当に充実した高校3年間だった」と言えるように、日々工夫を重ねて両立達成を目指してください!