過去問演習の目的

 過去問演習の目的は「本番当日の試験中の自分の動きをなるべくリアルにシミュレーションすること」です。受験本番の試験中の動きをシミュレーションするとは、

  • 各教科の問題における時間配分
  • 各教科の問題における解き方

自分自身が完璧に理解できている状態になることです。当然、過去問とまったく同じ問題が出ることはありませんが、ある程度出題傾向が決まっている大学・学部は多いものです。

「この大学の英語は大問6問構成で、前半3題は基本的な選択問題だから20分で解けるはずだ。そして後半3題の長文に40分残せるようにしよう」

「この大学の国語の問題は必ず接続詞の穴埋めが出題される。空欄部の前後1文をよく読めば結構判断できることが多いから、今年もこの問題が出たらその解き方でいこう」

 こういったシミュレーションができていればこそ、入試本番の一発勝負で動揺せずに高得点を取れる可能性が高まるのです。

 過去問をただ何年分もたくさん解けば、点数が上がると思っている人は大間違いです。過去問演習は、取り組んだあとに真剣に振り返りや分析を行い、そこからなるべく多くの情報を得て、次の年度の問題を解くときに活かすために実施するものなのです。

大学受験の過去問ノートとは?

 上記のように効果的な過去問演習を進めていくためには、過去問ノートの存在が不可欠です。過去問ノートが果たす具体的な役割には下記のようなものがあります。

カルテのような記録媒体になる

 かかりつけの病院に行けば、自分のそれまでの病歴が記録としてカルテに残されています。医師は都度記録を残しつつ、時にカルテに記載された過去の情報から患者の特性を理解し、治療方針を検討します。

 過去問ノートも、いわば学習歴のカルテです。

  • いつ、どの大学・学部の、何年度の問題を解いたのか。
  • そこで、各大問にどれくらいの時間がかかり、結果(正答率)はどうだったのか。
  • 自分の得点力にはどのような傾向(強みや弱み)があるのか。
  • 次回の演習にはどのような戦略で臨めばいいのか。

 記録を残す役割はもちろん、そこから状態の分析や未来に向けた戦略の立案まで、過去問ノート上に言語化していくことで、得点率を高めていくことができるのです。

徹底的な「間違い分析」の場

 特に重要なのが「なぜ間違えたのか」を徹底的に掘り下げて言語化することです。

  • 知識不足(単語、公式、年代など)
  • 読解ミス(問題文や本文の読み間違い、理解不足)
  • 計算ミス
  • 時間配分ミス
  • 解法・アプローチの誤り

 誤答の一つひとつに、自分が間違えてしまった理由が必ず存在します。その理由を明確化・言語化していくことで、少しずつ同様のミスをしなくなり、徐々に得点力が向上していきます。

 また、演習後の振り返り・分析作業の中で大切なのが、「間違えた問題を種類分け」することです。

  1. 答えを見てもわからない(知らない)問題でのミス
  2. 答えを見たら納得できる問題でのミス
  3. ケアレスミスなどのつまらないミス

 受験生が優先的に改善のための方策を考えなければならないのが(2)と(3)のミスです。答えを見てすぐに納得できる問題とは、本来であれば点数が取れたはずの問題ということになります。まずはここの✕を◯に変えることが、簡単に点数を引き上げる道です。

 しかし、多くの受験生は(1)と格闘したがります。もしくは(1)のミスばかり気にして、「難しい、自分はダメだ」などと勝手に戦意喪失しています。それは非常に意味のないことですので、考えを改めてください。

 そもそも合格を得るためには、入試で満点を取らないといけないのでしょうか? 違いますよね、入試は合格最低点より1点でも高い点数を取れば合格できるというゲームです。つまり(1)の問題は別にできなくてもいいのです。難問と呼ばれる問題は、きっと他の受験生も間違えます。

 それよりも、周りの受験生もちゃんと正解しそうな(2)や(3)の問題できちんと得点を重ねるほうが、よほど合格への近道となるのです。そのような近道をしっかり進むためにも、間違えた問題の種類分けを必ず実施してください。

 何度も繰り返しますが、過去問演習は取り組んだあとに真剣に振り返りや分析を行い、そこからなるべく多くの情報を得て、次の年度の問題を解くときに活かすために実施するものです。何も考えず10年分の過去問を解いても、そこから得られる成長はわずかです。60分の試験に対しては最低でも60分、90分の試験であれば最低90分の復習時間を設けることを私は生徒たちにアドバイスしています。

 例年、難関大学に合格していく生徒たちは、復習をとても丁寧に実施している傾向があります。

「戦い方」をストックする

 正解した問題にも、間違えた問題にも、すべての問題に「解き方」「解法」が存在します。上記のように徹底的な「間違い分析」が完了したら、次は「次回の戦い方」を検討し、それを記録していきましょう。

「空欄補充問題は前後の関係を必ず精読してチェックしよう」

「〇〇大学の第1問は毎年同じ問題形式だから、△△の解き方で5分以内に解こう」

 こういった具体的な問題の攻略法を検討後にメモしておき、次回の演習で試してみるのです。そして試した結果をまた分析して、解法を再度検討して変更するのか、うまくいった作戦として確定するのかを自分で判断していきます。

 これを繰り返していくことで、特定の大学の得点率を向上させられるだけでなく、身につけた解法を他の大学の問題を解くときにも横展開して攻略することができます。このようにして過去問ノートの密度を、どんどん濃いものへと進化させてください。

過去問ノートを作成すべき理由やメリットは?

 復習でさえ面倒に感じている人にとって、過去問ノートを記録することは、さらに面倒で時間がもったいないと感じることもあるかもしれません。しかし過去問ノートをきちんと作成していくことは、作成にかけた時間以上の多大なメリットをもたらします。

自分の弱点が「見える化」される

 演習を重ねるうちに、「自分はいつもこのパターンの問題で失点している」「この分野の知識がまだまだ薄くて正答率が低い」といった自分の弱点がノート上に蓄積されていきます。ノートに言語化して記録を残していない場合は、こういった弱点の把握がなんとなく頭の片隅にある程度で、うやむやになったまま具体的な改善もできず、また同じミスを犯してしまいます。

 弱点と、それに対する改善策を文字にして記録していくという作業を積み重ねていくことで、今後やるべきことが明確になり、効果的かつ効率的な復習が可能になります。結果として、過去問演習をこなすたびに毎回着実に成長していくのです。

解法プロセスが定着する

 前述の通り、過去問ノートには「戦い方」もストックされていきます。こちらも頭の中でなんとなく認識している程度では実戦で役に立ちません。しっかりと文字にして記録していくことで効果を発揮します。

 特に数学や理科において、正解に至るまでの「思考のプロセス」を書き出すことで、解法が頭に定着しやすくなります。なんとなくで処理していた曖昧な部分が、過去問ノートに言語化することで確実なものに変わります。

 そして、実践と振り返りを繰り返して積み重ねていくほどに定着が促されます。言ってみれば「問題を見た瞬間に解法が思い浮かび、自然と手が動いて問題を解き始める」ことができる、そういった状態を早期に作り出しやすくなるわけです。

復習の効率が劇的にアップする

 分厚い赤本や参考書を何度も見返すのは大変です。どこに何が書いてあるかを探すだけでも時間がかかりますし、そもそも持ち運ぶのも大変です。しかし過去問ノートをきちんと記録し続けた人は、そのノートさえ見れば、自分が間違えた問題、重要なポイント、正しい解き方をすぐに見返して思い出すことができます。

 特に受験の直前期であれば「解法を確認する」だけでも効果的な対策となります。問題をわざわざ解かなくても、このノートを見るだけで得点アップのための方策を確認・リマインドできるのです。ノートを持ち歩くことで、移動時間や試験直前の短い時間でも、効率的に総復習ができます。

 また過去問演習を重ね、ノートへの記録を継続していくと、さまざまな大学に共通した傾向も理解できるようになっていきます。「〇〇大学の第1問って、△△大学の第3問と同じ種類だから、同じ解法で攻略しよう」といように、ある大学の過去問演習後に丁寧に復習をしてノートに記録したことが、他の大学でそのまま利用できることは頻繁にあります。

 言語化して理解していればこそ、こういった類似点に多く気づき、効率的な学習が可能になっていきます。

過去問ノートの作り方や活用方法

 ここまで過去問ノートを作成すべき理由や目的を紹介しました。続いては具体的なノートの中身や書き方を解説していきます。

適切なノートを用意する

 過去問ノートに使用するノートは、見開きで使えるA4サイズのものがおすすめです。もしくは、レポート用紙やルーズリーフなどの1枚1枚の紙をファイリングしていくのもよい方法です。

 大学・学部ごとや教科ごとに分けて書きためていくと、あとで見返すときにスムーズに情報を確認できます。

毎回同じ項目を記録する

 ノートに記載する内容は毎回統一しましょう。情報が一目で確認しやすくなりますし、あとから数年分を見返せば変化を確認できるようになります。

 記録すべき内容の例は下記です。私が運営するStudyコーデでも、下記の内容を網羅したフォーマットを生徒に配布し、過去問演習後に記入することをルールにしています。

①問題構成

 問題構成を簡単にメモしておきます。確認したいときに赤本を開き直すのは面倒ですので、過去問ノートに記載しておきましょう。

例)英語

(1)長文7問 (2)文法4択10問 (3)整序5問 (4)長文10問 (5)英作文2題

②練習・注意すれば正解できるはずの誤答とその対策

 採点後、間違えてしまった問題の種類判別をし、超難問は除いて改善できそうな問題をメモします。さらに、その問題を間違えてしまった原因を分析して書き留め、次回はどのように取り組むのかという今後の対応策についても記入します。

 この欄をどれだけ具体的に記載できるかが、以降の得点の伸びに大きく影響します。

③時間配分についての感想と次回の作戦

 時間が間に合わなかったときは、その原因として思い当たること。間に合ったときも、うまくいった理由を記入しておきます。

 そして次年度が同じ問題構成だったとして、どのような配分で取り組むかを自分なりに決めて、次回の作戦としてメモしておきます。

④自身の得点と合格最低点

 演習結果をきちんと数字で記録します。配点が不明な大学・学部が多いですが、その場合は、正解数/問題数で得点率を計算してメモしておきましょう。

 また合格最低点のデータを赤本やWebで確認して、隣にメモしておきます。目標とのギャップを認識することはとても大切です。

 最低限、これらの情報は記載しましょう。他にも自分なりの発見や次回への展望があれば記入しておくとよいでしょう。

 誤答数にもよりますが、A4用紙1枚ぐらいは簡単に埋まるかもしれません。それぐらい豊富な情報を残す=頭の中だけでは忘れてしまうであろう情報を、言語化して文字にすることは重要な作業だと考えてください。

ノートの振り返りを適宜行う

 過去問ノートは記入するだけでも十分に意味があります。振り返りを丁寧に実施し、それをきちんと言語化して記録する作業を通して、次の演習に向けた改善点が自然と浮かび上がります。

 しかし、それだけではもったいないのです。さらに過去問ノートを効果的に活用するためには、適切なタイミングでノートの中身を見直すことが大切です。

 例えば、次の過去問演習を行う直前などが最適なタイミングです。前回のノートを見て、時間配分や各問題の解法など、自分がメモしておいた戦略を確認してから演習に臨めば、何も考えずに解くよりも高得点が取れるはずです。

教科別!過去問ノートの記入時のポイント

 国語

 現代文はうまく復習できていない人が多い科目です。解説をサラっと読んで済ませたり、根本的な失点原因を突き止めないまま終わらせてしまったりする人が多いようです。

 解説を読むときに最も重要なことは、「正解にたどり着くまでの思考プロセス」を読み解くことです。本文中のどこに注目すればよかったのか、文中の根拠を発見したあとの選択肢の選定はどうすればよかったのか、解答に至るまでの手順を重点的に見直していきます。

 過去問ノートには、そういった考え方や解き方について抽象化・言語化をしてメモしておくことが効果的です。

 古文・漢文は間違えた箇所の文法事項や重要単語、背景知識などを確認します。古文で特に重要なことは「品詞分解」が正しくできているかどうかです。課題文の内容に関する読解問題も、結局は品詞分解を正確に行い、正しい現代語訳が作れれば正解に近づきます。

 分析を通して発見した自分の弱点や、次回までに絶対に覚え直さなければならないことなどを言語化して記録しておきましょう。

 数学

 数学で不正解となった問題については、まずミスの分析をします。計算ミス、解答方針ミス、時間切れなどが主なミスの内容です。そのうえで特に注意したいのが「解答方針・解法プロセス」についての正しい理解ができていたかどうかです。

 解答を丸写しするような復習をするのではなく、なぜその公式を使うのか、どういう発想でその一手を打つのか、問題文を見たあとの解答の「第一手」はどうするべきかを重点的に検討し、記録しておきましょう。

 英語

 長文読解については現代文に似ています。「正解にたどり着くまでの思考プロセス」が正しかったかどうかを確認します。

 問題には必ず解答の根拠が存在します。その根拠を発見できていたのか、発見した根拠部分を正しく訳せていたのか、選択肢は正しく訳せていたのか。この3点がそろっていれば基本的に正解できるはずですので、逆に言えば不正解の問題はこの3点のどれかで失敗していると言えます。それをすべての誤答で検証して、自分の弱点を突き止め、ノートに記録していきましょう。

 文法問題の場合は、そもそもどんな文法事項が問われているかに気づけたか、その文法事項をきちんと理解・暗記していたかの2点で決まります。誤答の場合は、この2点のどちらかでミスを犯している可能性があるため、それを分析して記録しましょう。

 理科

 理科においてはミスの分析をする際、知識不足、解答方針の誤り、ケアレスミスの他に「条件整理のミス」に注意しましょう。問題文の意図や与えられた条件(「すべて」なのか「一部」なのか、など)を読み取れず、問題の解き始めから方向性を誤ることがあります。

 もちろん数学と同様に「解答方針・解法プロセス」についての正しい理解ができていたかも非常に重要な観点ですので、「なぜその公式を使うのか」など根本的な考え方の部分をしっかりと言語化して記録しておきましょう。

 社会

 社会は基本的に暗記がメインの科目となります。したがって、解き方や考え方に関する検証作業はあまり必要ありません。過去問演習をする中で重要なことは「知識の穴」を発見し、その穴を埋める暗記作業を行うことです。問題を解くアウトプット作業を通して発見した知識の抜けに気づき、それを覚え直すというインプットに必ずつなげてください。この反復を受験までにいかに多く実行できるかが得点向上にかかっています。

 過去問ノートには、次回の過去問演習までに必ず覚え直したい事項を書き留めておくとよいでしょう。

過去問ノートを作る際のコツ・ポイント

端的な言語化を目指す

 ノートに記述する内容は、必要十分な内容でありつつも端的な表現を心がけましょう。過去問ノートを作成する目的は、復習しながら思考を整理することと、見返して記憶を喚起することにあります。

 思考を言語化していくとき、考えたことをだらだらと長文で書き連ねることをよしとすると、整理の質が下がります。端的な言葉に集約できるまで考え、まとめ、言葉にしていく作業を通して、根本的な理解にたどり着くことが可能になります。

 もちろん、あとで見返すときにも、必要なことが的を射た短文で書かれているほうが読みやすく、理解しやすいはずです。過去問ノートを作成する際にキーワードとなる「思考の言語化」ですが、そのクオリティにもこだわりを持ちましょう。

適度に色分けをする

 あとで過去問ノートを見返したときに、さらに読みやすくする工夫として「色分け」があります。例えば、「赤=最重要事項」「青=正しい解法プロセス」「緑=再確認すべき知識」など、自分なりの色分けルールを決めて日々記入しておくと、見返したときに瞬時に情報が頭に入りやすくなります。

美しいノート、完璧なノートを目指しすぎない

 美しい過去問ノートを作ろうとしすぎると、時間を浪費しますし疲れてしまいます。時間をかけるべき大切なことは「復習・分析とそれを次回につなげるための思考」であり、ノートに書くことはその結果としてのメモです。自分が見返してわかれば十分と割り切り、まずは続けることを優先しましょう。

過去問ノート作りで失敗するポイント

ノートを作ることが目的になっている

 過去問ノートをきれいに作ること自体に満足してしまい、肝心の分析の内容が薄いものになっていたり、作るところまでで満足して、見返すことをしなくなってしまったりするパターンです。過去問ノートの作成はあくまで手段であり、目的は学力を上げることです。

「分析まで」で終わってしまっている

 上記と少し似ていますが、時間配分のミスや間違えた問題の原因を時間をかけて分析し、そこまでで満足してしまう人がいます。大切なのは「次に活かす」ことです。その分析をもとに、次回演習時の戦略を立てることが重要ですので、そこまでやりきってください。

すべての問題をまとめようとする

 間違えた問題が多いと、復習や分析の時間は長くなってしまうものです。その際、過去問ノートにどれだけの情報を記載するかは自分で考えて判断してください。例えば、同じ理由で間違えた問題が4題あったとして、その同じ原因分析を4回書くのは無駄な作業です。必要なことは記録しつつも、重複などの無駄がないように考えながら記入しましょう。

まとめ

 過去問演習を実施していく中で、過去問ノートが必要である理由や、作り方のポイントなどを紹介してきました。過去問ノートは、単なる演習の記録帳ではありません。あなたの弱点をあぶり出し、解法を定着させ、次回の演習での成長をもたらしてくれる「自分だけの最強の合格ツール」です。

 作成には確かに時間がかかります。しかし、よく考え、丁寧に分析し、言語化して作り上げた過去問ノートは、受験勉強の後半、特に直前期において、他のどの参考書よりも頼りになる、あなただけの武器になるはずです。

 これまで解きっ放しの過去問演習になってしまっていた人も、今日から過去問ノートの作成を習慣化し、志望校合格をつかみ取りましょう!