主体性のある学びへの第一歩
 
笹森さんによると、授業内で取り組むカリキュラムやゲームに対して、「このカリキュラムがつまらない」「このゲームが面白くない」と不満を漏らす子どもがいる。その際、子どもたちに主体的な学びをしてもらうために、最初にマインドセットとして「自責の考え方」を伝えるという。
カリキュラムやゲームが面白いかどうかを決めるのは、“向こう側”ではなく自分。要は、楽しさを相手任せにしないという姿勢だ。相手に左右されるのではなく、自分側で合わせ、工夫して楽しめる人になる——─この価値観の変化を、主体性のある学びへの出発の第一歩と位置づける。
高濱さんも、自分側次第という考え方の大切さを説く。ゲームにしても人間にしても、相手を切り捨てて自分を保とうとすると、残念な人生に突き進んでしまう。親が「○○がダメだから、うちの子は困っている」という「他責の考え方」をしていると、子どもが変わるのも難しい、と述べる。良いところを見つけるクセを育てるなど、残念な見方から卒業させることが大事。楽しめた方が幸せな人生につながるという。
捉え方の違いでノイズも“盛り上がり”に変わる
笹森さんは「うるさいのが苦手」「大勢がイヤ」という子どもの例を挙げ、友達の輪に入れない状況が不安を生じさせていると指摘する。輪に入れていない状況だと“ノイズ”に感じるものが、輪に入って友達になれた瞬間に、賑やかで楽しい“盛り上がり”へと変わる。
そういった捉え方の違いを、笹森さんは、合宿が不安で泣いていた子どもに話す。更に伝えたのが「友達になれるトレーニングをした方がいいのでは」という提案だ。対話を経て、その子どもがまず「修学旅行に行ってみる」と、考え方を切り替えた経緯が紹介される。子どもが不安に感じていても、周囲の大人が心がまえを伝えることで、本人の見方を変えられる、ということだ。
挑戦を避けざるを得ない状況の問題
一方、笹森さんは構造的な問題も挙げる。子どもたちが不登校になるきっかけのほとんどは学校にあり、学校に安心して預けられないとなると、家庭は守りのスタンスに入り、子どもに挑戦させることを避けてしまう。結果的に、子どものわがままが際限なく広がりがちという指摘だ。逆に、学校での安心が生まれたことで、家で厳しくできる、というのは、アノネエレメンタリースクールに届いた保護者のリアルな声。
しかし、子どもが学校で不安な時間を過ごしている場合、家ではストレスを減らしたいと、子どもの要求に過度に応えてしまう。お母さんの大変さを感じる、と笹森さんは語る。
教育現場と医師・カウンセラーの認識のズレ
不登校などの問題を抱える子どもに対する、教育現場と医師・カウンセラーとの認識の違いも、笹森さんから課題として挙げられた。例えば、ある日の「ドロケイ」(鬼ごっこ)で、役が気に入らず離脱した子どもに、ルールや周囲の受け取り方を丁寧に説いた。ルールを守れなければ、いずれ子どもの輪から外されてしまう可能性もあるからだ。しかし子どもは流れの一部を切り取って保護者や医師・カウンセラーに伝えるため、「配慮が必要」「イヤなことを無理にさせないように」というのが医師・カウンセラーの方針となる。
しかし、一連の流れの中にも、子どもにとって大切な瞬間がたくさんある、と笹森さんは強調する。対話することで本人も考え方を持ち直し、行動の修正が見られた。子どもの体験や挑戦の中に、軌道修正やサポートのチャンスがある、と述べる。
高濱さんも、挑戦を乗り越えて強くなるというのが、基本的な人の心の成長の形だと同意する。イヤなことを避ける、不安を取り続けるアドバイスは、子どもの挑戦する機会を奪うというのは、教育現場での実感。専門家として視点は違い、連携が一番望ましい、と話す。
“本物に触れる”体験が学びの大きな力に~海外演奏旅行~
 
笹森さんは、音楽教室で実施したウィーン演奏旅行で、子どもたちに大きな変化や成長が見られたことも報告する。子どもたちは“本物に触れる”海外の場で表現し、観客の涙や称賛に心を動かされた。帰国後に、練習時間が伸びたという声が相次いだのは、「努力の先にある喜び」を身をもって知ったからだという。旅行の最初の頃は日誌に素直な不満を書いていた高校生が、最終日には運営のサポートを申し出るまでに変化したエピソードも示される。
演奏をその場で聞いていたという高濱さんからも、参加した子どもの「今まで生きてきて一番の経験」という感動の言葉や、わが子の姿に深く揺さぶられた家族の様子が共有された。
まとめ
物事の捉え方や考え方次第で、子どもの楽しみや学びは主体的なものに変わる。周囲の大人が子どもとの対話で心がまえを伝えることが、学びを変えるきっかけになる。同時に、子どもにとって軌道修正や飛躍のチャンスとなる、挑戦や体験の大切さも示された。(次ページに解説動画あり)


 
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    