「学力」のイメージと年中・年長時の「土台づくり」

「学力」=「生きる力」のイメージ
高濱さんの考える「学力」=「生きる力」のイメージ

 高濱さんは冒頭、「学力」=「生きる力」のイメージを図で示します。「心」と「基盤力」という土台の上に、「思考力・べき力・ハカセ力・人間力」という4つの力がある形です。

 もし我が子が、よその子のできない計算が早くからできたとしたら、親としては素直にうれしいことと認めつつ、それはあくまで基礎の土台部分を早く埋めているにすぎない、と指摘します。本当に人生で差がつくのは、上の力にあるとし、だからこそ、4つの力を伸ばしてほしい、といいます。

 まず、年中・年長の段階では、「先走るのではなく、後々の開花のための土台づくりが大事」と話す高濱さん。土台づくりでは、基礎学力だけでなく「心」も重視。「姿勢・運筆・聞く力」といった基本的な力を、「勉強って楽しい」「もっとやりたい」という気持ちを崩さずに、身につけることを目指してほしい、と説明します。

 そして、いよいよ小学校時代を迎え、花まる学習会の小学生コースでも本格的に扱っていくのが、4つの「差がつく力」です。

創設当初から注目してきた「思考力=考える力」

「差がつく力」として、花まる学習会の創設当初から注目していたのが「思考力=考える力」だと高濱さんは振り返ります。補助線が思い浮かぶかどうか、立体の裏側をイメージできるか、複雑な問題をあきらめず最後までやりきれるか──。大学受験生を指導してきた経験から、単なる計算より「考える力」こそが大きな差をつける、と実感。そこを重視した幼児教育があまりない、という問題意識が花まる学習会の出発点だった、と語ります。

 そして、花まる学習会の代表的な教材として挙げられるのが、「なぞペー」や、そこから広がった「Think!Think!」「ワンダーボックス」といったコンテンツ。

 教室では、1年生から思考力を鍛える教材を傾斜的に用意しており、レベルの高い子でも簡単には解けない問題までそろえているといいます。中学受験のトップ層の生徒でも「これは厳しすぎる」というようなレベルの問題も含まれており、「どんな子が来ても伸びる」ような素材を用意していると述べます。

将来の入試でも支えとなる「やるべきことをやる力」

 高濱さんが、思考力と並んで重要視するのが「やるべきことをやる力」です。小学校低学年での勉強の大元は、「決まった時間に、やらなければならない宿題をちゃんとやる力」だと位置づけます。

 その象徴として紹介されるのが、「花漢」(花まる漢字テスト)や、計算と書き写しの教材『あさがお』『サボテン』です。一見、ごく簡単な内容に見えて、長年の観察から、後の入試で力を発揮する子に共通する習慣づくりに役立っている、と感じているそうです。

 難しすぎるものを宿題にすると、家庭がギスギスしてしまうこともあるため、思考力の課題は教室で、毎日コツコツ取り組める内容を家庭で──そんな役割分担も意図的だと説明します。短時間でもいいので、決まった時間に「毎日」ちゃんとやる。そうすることで、やるべきことをやりきる力が育ち、結果として、入試などの場面でも大きな支えになると語られています。

子どもの関心をとことん深める「ハカセ力」

 近年、新しく力を入れているのが、将来の学びにおいても自ら課題を見つけて探究していく姿勢につながる「ハカセ力」です。例えば「カマキリが好き!」など、入試に出る・出ないに関係なく、子どもが特定の分野に強く関心を持った内容をとことん研究することが大事、と高濱さんは伝えます。

 花まる学習会でも、1年間を通じて子どもたちの自由研究を評価する仕組みをつくり、自分の関心をとことん掘り下げる経験を応援している、とのことです。

AIの時代に必要な「人間力」を体験で育てる

AIの時代に必要な人間力
AIの時代に必要な力を育てる具体策とは?

 高濱さんは、これからはAIが「頭の良さ」の部分を代わりにやってくれる時代になる、と見ています。その中で、より重要になるのが、「人間力」。つまり、「心」の部分だと強調します。

 花まる学習会では、サマースクールをはじめとする宿泊体験や、季節ごとのプロジェクトを通じて、この人間力を育てる具体策を持っている、と説明します。異学年との触れ合いや外遊びなどの体験を通じて、喧嘩や仲直り、甘えたりかわいがったりといった経験をする──。こうした経験により、ワクワク感や優しさ、そして強さを備えた子どもを育てたいと語ります。

 ただし、強さを育てるには、傷つきすぎてしまわないよう、程度の見極めも重要。乗り越えられるレベルの「負けや悔しさ」を経験として与えるのが小学校の野外体験だと位置づけています。

まとめ

 高濱さんの話を通して見えてくるのは、「計算が早い」「先取りしている」といった“上澄み”だけが子どもの勉強の力ではない、という視点です。根のしっかりした、たくましくて強い勉強の力を育てるべきでしょう。それが、結果として受験やその後の人生での力につながる、というメッセージが語られています。

 親としては、短期的な成果だけに一喜一憂するのではなく、子どもの土台づくりと、学びを楽しむ感覚、人としての強さをどう支えていくかを意識しておくことが、長い目で見て大切になりそうです。(次ページに解説動画あり)