SS義塾
SS義塾HP画像(出典:SS義塾公式サイト

音信不通となった「オンライン推薦対策塾」

 総合型選抜・推薦入試対策のSS義塾と連絡がとれないと生徒や保護者から声が上がった。SS義塾を運営する苗田岳史社長はテレビ局の取材に対し、「業務のネットサービスがログインできなくなり、口座から4000万円が引き出された」という旨を語っている。

 この事態を受けて、多くの推薦塾が「生徒を引き受ける」と名乗り出た。しかし、これに対して「二次被害」を注意喚起する声も上がっている。「詐欺にあうと永遠にカモにされるのと似ている」と指摘するSNS上の投稿もあった。実際、資格商法は一度被害に遭うと、情報が他の業者にも共有されて、その後も同じように勧誘されてしまうケースが多い。

 今回の件で非常に多くの「オンライン推薦対策塾」があることが可視化されたが、問題のある塾はないのだろうか。『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)の著者で受験ジャーナリストの杉浦由美子氏に話を聞いた。

参入ハードルの低い推薦塾が投資の対象になっている

「例えば、一般選抜対策の場合、私立文系特化塾であっても現代文、漢文、古文、日本史、世界史、英語など多くの科目を教えられる講師を揃えないといけません。大学入試対策ができる講師は減っているので、新規で塾を始めるのは難しいです。一方で、推薦対策の場合、学科科目の対策がいらないので、“総合型選抜で慶應に合格しました”というだけの学生やそれに近い人たちが塾を始めることがあります。これらの学生講師たちは自分の成功体験を伝えるだけのケースも多く、業界でも問題視されています」

 杉浦氏によると、推薦対策の塾は参入のハードルが低いようだ。確かに最近、オンライン推薦塾が急増しているような印象を受ける。

「コロナ禍のサウナブームの時に、投資家たちがサウナ事業に投資をしました。その“話題になっているから投資される”の波が今、総合型選抜対策に来ています。東北大学が“2050年までにすべての入試を総合型選抜にする”とコメントしたこともあり、昨年に多くのメディアが“総合型選抜が拡大する!”と報じました。そのため、投資家が“総合型選抜対策は成長産業だ”と見込み、投資をしたのです。私が知っている女子学生は”総合型選抜で慶應のSFCに合格した”という経験しかないのですが、どこからか投資をされ、オンライン塾を立ち上げました。オンラインだと初期費用はかかりませんし、簡単に始められます」

  そして、杉浦氏は首を傾げてこうもいう。 

「『大学入学者の半分が総合型選抜になっている』と報じるメディアもありますが、文部科学省の発表によると全体の19.5%にすぎません(出典:文部科学省『令和7年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要』)。半分以上が推薦入試になっていますが、実際に拡大したのは指定校推薦です。総合型選抜の花形は早慶上智ICUやMARCHですが、それらの総合型選抜の枠も大きいわけではありません。慶應は比較的枠が大きいですが、すでに慶應の対策は早稲田塾や洋々といった老舗推薦塾が合格実績を出して、シェアを占めていますから、新興のオンライン塾に伸びしろがあるようにも見えません

 オンライン推薦塾は初期投資が少ないため、突如撤退するとなっても業者の痛手は少なくて済むのかもしれない。しかし、何より生徒のために、今回のSS義塾のような入金後に連絡がとれないという事態は起きないでほしいものだ。信頼できる塾を見極めるにはどうすれば良いのだろうか。

「あるオンライン推薦塾の経営者は”1万人分の志望理由書を分析した”という肩書きでメディアに出ていました。それだけのデータを持っているのは大手塾ぐらいですよ。新興の業者はそんなビッグデータは持っていません。塾を選ぶなら、校舎を構えていて一定の年数を運営している塾が無難です。そういった塾もオンライン対応をしています」

 校舎を構えて一定の期間経営しているということは、その地域で信頼を得ている証拠でもある。推薦塾が乱立する中で、しっかりと塾は選んでいってほしい。

落ち着いて錯綜する情報を見極める

 今回のSS義塾の騒動は混迷を深めている。複数の総合型選抜・推薦入試対策塾が、支援に名乗りを上げている一方で、あるオンライン推薦塾が当初SS義塾の生徒たちの受け入れを表明したものの、突如として「塾と生徒保護者との契約関係が不明な段階での行動は、不正競争防止法に抵触して訴訟を受ける可能性が指摘され」と投稿し、「生徒の受け入れ、サポートコース、キャンペーン等は一切行わない」と方針を転換した。

 しかし、弁護士によれば、「SS義塾はサービスを提供できていない状態なので、他の塾が生徒を勧誘してもその塾に損害賠償請求することは難しいと考えます。藁をも掴む思いの生徒や保護者につけこんだ不当に高額な授業料を示して受け入れる等でなければ、一般的には自由競争の範囲ではないでしょうか」とのことだ。

 このように真偽不確かな情報が錯綜してしまっている。生徒や保護者は、まずは落ち着いて情報を見極めてほしい。

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