教わる側から教える側への循環

 前述のように、メンターにはITに関する高い技術力に加えて、ファシリテーション能力が要求される。採用には対面でのグループ面接と課題審査の2回の選考が課され、採用決定後も長い研修が待っているため、「なぜメンターをやりたいのか」という志望動機も重視される。

 動機はもちろん人それぞれである。ITを学びたい、中高生を教える仕事がしてみたい、スタートアップの企業でインターンをしてみたい、といったところが一般的だ。しかし、最近は「ライフイズテックに戻って来て貢献したい」という理由でやってくる学生の数が増えているという。彼・彼女たちはライフイズテックの卒業生であり、今では全メンターの約35%を占めるようになった。

「高校生の頃ここに通って、当時のメンターが情報系の大学・学部で学んでいることを知り、自分も同じ道に進んだ。情報系など考えてもいなかっただけに人生が大きく開けた」

「大学にはAO入試(現・総合型選抜)で合格した。自分で課題を決めて、解決策としてアプリを開発して、コンテストでも評価された実績がAO入試でのアピールポイントとなった」

「ライフイズテックで一緒に学んだ友人とは、大学生になってからも深い付き合いが続いている。今の中高生が学校以外の場所で、そんな一生の友人を作るための支援をしたい」

 かつて教わる側だった卒業生メンターの中には、進学先を決める際、当時のメンターに影響を受けた人たちもいる。

「彼・彼女らは知名度や偏差値だけで進学先を選んでいません。中高生の頃に10年、20年先の社会を見据えて自身が取り組みたい課題やテーマを見つけ、そのことについて学べる大学に進んでいます。

 例えば、高校生の時にアプリをリリースした地方出身の受講生は、地元の国立大学に進学する同級生が多い中で、あえて東京の情報系の大学を選びました。また、都内女子御三家の一つに通っていた受講生は、高校生の時に映像制作に強い興味を持ち、偏差値とは関係なくクリエイティブ系の大学へ進学しました。そんな彼・彼女たちのロールモデルは一番近くにいたメンターです」(讃井さん)

 ライフイズテックが受講生の中高生に教えていることは、単なるプログラミングスキルではない。身の回りの課題を自分で解決する力だ。課題の設定も、課題解決のアクションも、最後は中高生が自分で決めている。大学をどう選び、どのように学んでいくかも課題解決の一環である。

 高校を卒業して大学生になると、メンターとして再びライフイズテックに関わり、今度は後輩となる中高生の能力を引き出す仕事を担う。時に技術を教え、時に挫折しそうな子どもを勇気づけながら、他者に働きかけて一緒に一つの物事をやり遂げる実践経験を経て、メンター自身が成長していく。オリジナルの作品をゼロから完成させた中高生が喜ぶ姿を間近で見たとき、それまでの苦労が「人の成長や幸せを実現できた」という得難い自信に変わり、自らも成長していくのだ。

「『中高生一人ひとりの可能性を一人でも多く、最大限伸ばす』という私たちの理念に共感し、次の世代のために戻って来てくれる卒業生たちがこれほどいてくれることに、うれしい気持ちでいっぱいです。プログラミングをはじめとして、新しい教育分野では必ず教え手の不足が生じます。ですから、教わる側から教える側へと人が循環していく文化がなければ新しい教育や人材育成は実現できません。

 2025年には、大学入学共通テストで新たに導入される教科の『情報』の中で、プログラミングが出題されます。ICTで社会課題を解決する“当事者”が全国で継続的に生まれるよう、メンター研修や教員研修など、教え手が生まれる取り組みが一段と重要になってきます」(讃井さん)