地方創生の切り札と留学生の進路
安田 人生100年時代ですから、大学の学部で4年間学んだくらいではねえ。日本は、もはや“科学技術立国“とはいえない状況にあります。賃金も上がりませんし。
後藤 大学院の博士課程に行く価値がないような状況ですからね。ドクターコースの学生には生活費を出すくらいの政策を打ち出していますが、ここで踏ん張ることができないと、この先、日本はしんどいと思います。外資系企業では修士を持っていないと幹部にはなれないですし、こうした面でも国際通用性が求められていると思います。そうしないと、どんどん優秀な人材は日本企業を辞めていきます。既にその傾向はありますからね。
安田 学費の問題で言えば、国もようやく返済不要の給付奨学金に、20年度から低所得世帯向けの新たな制度を導入しました。一方で、日本育英会のときにはあった教職や研究職に一定期間就くことで返済が免除される規定は、学生支援機構になって廃止されています。
後藤 もうこれ以上、私立文系は不要で、むしろ数理情報などを教えるべきだと思います。先ほどの地方に理工系学部をという話に戻しますと、その受け皿として有力になるのが高専(高等専門学校)です。本科は5年制で準学士を取得できますが、学校によっては2年間の専攻科を設けているところもあり、そこからは大学院へ進学できます。
――高専はそんなに使い勝手がいいのですか。
後藤 国立大が県庁所在地にあるのに対して、高専はその県の第二都市にある例が多く、地方振興には役立つと思います。高大一貫の7年制とすればいいのですが、すべての高専に専攻科が設けられているわけではないこともあり、まだ内部での足並みはそろっていません。
滋賀県が新規開設を目指している高専について、三日月大造知事が、設置主体を県立大の運営法人とする考えを示しました。徳島県の神山町には新しい高専ができようとしています。高校において工業系の専門学科がなくなる一方で、高校段階から高度な技術を学び、いち早く社会で活躍する人材を養成していこうという動きですね。
実は日本固有の高専の教育システムは、既にマレーシアなど、海外に「輸出」されています。それほど注目されていますよ。生涯学習の時代ですから、ひと息ついたら大学に編入学するとか放送大学や通信制大学で学士を修得するとか、あるいは高度な能力を磨けば大学を経由せず直接大学院で学ぶケースもありますから。
安田 現状では高専本科卒業生の学部3年編入の受け皿となっている豊橋や長岡にある技術科学大は、学部の入学定員は80人なのに、学部生全体では1000人前後の規模になっています。
後藤 1961年に教育基本法のいわゆる1条校となってから、2021年でちょうど60周年の節目にある高専は、地方密着ということでは優れています。コロナ禍でのリモート授業の実施で判明したように、既存の大学はその所在地や教員配置も含めて再検討する時期に来ていると思います。
――高専の活用も含め、これから考えていくことになりそうですね。
後藤 この前、大分にあるAPU(立命館アジア太平洋大学)の新学部設置構想の記者会見がありました。
安田 あの学校は寮生活ですけど、クラスター発生を恐れて留学生も来ていないのでは。
後藤 いやいや、まだまだ日本は憧れの地ですから、90を超える国・地域から入学者が殺到しています。いまは秋入学を春入学に変更するなどの対応もしていますが、入国管理が緩和されれば、22年1月から留学生は徐々に入国してきます。APUの優秀な国際学生(留学生)は、就職すると3年もすれば欧米のトップ大学院に進学をしたり、キャリアアップを図って転職したりするのだそうです。こういうアグレッシブなキャリア形成に、日本企業や日本の学生は太刀打ちできるのかと思いました。