神奈川県立校の下克上
図1と図2には、2022年「国公立100大学合格力」ランキングから首都圏3県(神奈川・埼玉・千葉)の公立校を抜粋してランキングした。難関国立大に何人合格したかよりも、対象となる国公立大に卒業生の多くが合格した学校の方がこの「合格力」は高くなる。
神奈川には全国で唯一、三つの政令指定都市がある。横浜市(約377万人)は、静岡県(約358万人)よりも人口が多く、県の人口ランキングと比較してみても、9位福岡県(約512万人)に次ぐ規模だ。流入で人口増が続いている川崎市(約154万人)と相模原市(約72万人)を合わせると、これら政令指定都市に神奈川県民の3分の2が集まっている。
横浜翠嵐に何人合格者を出すかで県内の進学塾は競い合っているが、長らく神奈川の県立トップ校は、旧制中学から100年超の歴史を誇る湘南や希望ケ丘だった。以前掲載した1960年の東大合格者数ランキングでも、県内から唯一、湘南が11位にランクされている。ちなみに14位に浦和、16位に千葉の名前も見えている。
2022年の神奈川県全体の合格力トップは栄光学園(鎌倉市)だった。聖光学院(横浜市西区)、浅野(横浜市神奈川区)、サレジオ学院(横浜市都筑区)、逗子開成(逗子市)と私立男子中高一貫校が並び、次いで私立女子一貫校の両雄であるフェリス女学院(横浜市中区)と洗足学園(川崎市高津区)が並んだ。公立進学校は、これら強力な私立難関・上位校と競うことになる。
神奈川県立高校の通学区域(学区)は何度か区割りが変更された。図中には、90年度から続いた最後の18学区を併記してある。県立校はすべて共学化されている。05年度から学区が撤廃され、県教育委員会が「学力向上進学重点校」を指定している。対象校について、図中の順位と旧学区を併記しながら見ていこう。
07年にまず指定された10校は、2位横浜翠嵐(横浜東部)、5位湘南(鎌倉藤沢)、8位柏陽(はくよう/横浜南部)、26位多摩(川崎北部)、27位小田原(県西)、34位光陵(横浜中部)、39位平塚江南(平塚)、この他ランク外で、横須賀(横須賀三浦)、鎌倉(鎌倉藤沢)、横浜国際(横浜臨海)となっている。
10年に追加指定された8校は、14位厚木(厚木海老名愛甲)、21位川和(横浜北部)、25位横浜緑ケ丘(横浜臨海)、36位大和(大和座間綾瀬)、この他ランク外で、希望ケ丘(横浜西部)、追浜(横須賀三浦)、秦野(秦野伊勢原)、相模原(相模原北部津久井)がある。
指定された高校がない旧学区は、川崎南部、茅ヶ崎、相模原南部のみで、2校ずつ指定されている旧学区は横浜臨海、鎌倉藤沢、横須賀三浦となっており、おおむね旧学区内のトップ校は指定を受けているものの、学校間の合格力格差は顕著に表れている。
32位の神奈川総合は実験的な学校かもしれない。県立神奈川工業に間借りするような形で94年に新設された県立初の単位制高校で、普通科のほか舞台芸術科も設けている。後述する国際バカロレア(IB)コースを持つ横浜国際に対して、神奈川総合は私立一貫校でブームのSTEAM的な教育を取り入れようとしているといえなくもない。