希望ケ丘の凋落と湘南の再興

 ランク外の学校をいくつか見ておこう。横浜市南区にある横浜国際は58位となった。廃止された県立外語短期大学の付属と県立六ツ川を併合して2008年に開校した単位制国際科のユニークな学校で、県立で唯一のIBコースを設置している。

 旧制第一中の希望ケ丘(横浜市旭区)は、戦後移転するまで西区にあった。現在でも旧横浜西部学区ではトップ校だが、横浜翠嵐の後塵を拝するまで凋落していった原因は何か。東京は学校群の導入で都立高校が落ち込んでいったが、神奈川の場合は、東京の2倍近い18にも細分化された旧学区にもその原因が求められそうだ。もう一点、学校のあるエリアの盛衰も大いに反映している。

 また、中3進級前に実施されたアチーブメント・テスト、複数志願制など約40年間続いた「神奈川方式」と呼ばれる独特の入試制度も影響しているだろう。

 神奈川の県立高校は、「高校無償化」の影響を強く受けた。塾の影響力が強く、その指導下で東京の私立への流れを加速させた結果、高校受験生の流れは西から東へと移っていった。そして、高校での学費負担が下がったため、私立中学受験を活況にした。さらには高校受験で県立が不合格になっても私立の特進コースに行けばよいといった塾の指導が激しくなり、強気で横浜翠嵐、湘南を受験する流れができた。

 やがてこの流れは、塾の合格実績を分かりやすく示すため横浜翠嵐1校に絞られることになる。学区が残っていれば、いくつもの峰が存在する「八ヶ岳型」にもなり得ただろうが、全県一区でもあり、一つの高校に塾の合格者を集中させる「富士山型」に変わった。全国的に見ても出生数が多い神奈川県であったとしても、少子化の影響も強く影響している。希望ケ丘は、そうしたあおりを受けた学校の一つであろう。

 ここに来て、湘南が塾の力を超えて人気を盛り返してきている。大学受験対策だけに取り込まれない、教養を重んじる伝統的な教育や「日本一の体育祭」と呼ばれる学校行事、文武両道への憧れは、高校生活を充実させたい中学生のみならず、保護者にも根強くある。AIの進化などで、これから先の職業や生き方が不透明な時代に、湘南の育む「人としての強さ」に期待するところが大きいのだろう。

 湘南の構内にあり、同窓会が提供する歴史館では、幅広い卒業生や学校の沿革を紹介しており圧巻である。部活動の宿泊施設も同窓会により設置されている。こうした良き伝統とその影響力の強さが地域に理解されている点は、他の高校にはなかなか真似ができない。

 公立中高一貫校は5校あり、県立の中等教育学校が相模原と平塚に、高校の付設型が横浜市立の南と横浜サイエンスフロンティア、そして川崎市立の川崎にある。図1のランキング上位に、こうした公立中高一貫校が旧学区それぞれのトップ校を追い抜いて多く顔をのぞかせていることにも注目しておきたい。公立中高一貫校である横浜市立2校と県立の2校は、私立上位校と競い合えるようになっており、旧学区によっては、そこに君臨する既存の公立トップ校の座を脅かす存在にまで育っている。