志願者数を30年前の5.6倍に増やした千葉工業大。3・4年生が学ぶ津田沼キャンパス(千葉・習志野市)

志願者数トップに躍り出た
近畿大と千葉工大

――前回触れたように、2023年度の一般選抜志願者数は近畿大(15万2493人)と千葉工業大(14万5128人)が1位と2位でした。それはなぜなのか、1990年度以降の高卒者数と大学進学率の推移(図1)も見ながら、ひもといていきたいと思います。

 まず前提として、団塊ジュニア層が大学を受験していた頃、1992年が18歳人口のピークであり200万人以上の高卒者がいましたが、22年度からは100万人を割っています。大学進学率が30%を超えた30年前の94年度と同57%の23年度の志願者数を比較して、増加している大学(図2)減少している大学(図3)を5大学ずつ挙げました。なぜそうなったのでしょう。

井沢 秀(いざわ・しげる)
大学通信情報調査・編集部部長。1964年神奈川県生まれ。明治大学卒業後、大学通信入社。「夕刊フジ」をはじめ、各紙誌で大学に関する多くの連載を持つなど、精力的に発信を続けている。 Photo by Kuniko Hirano

井沢 図2の近畿大は実に10年間、志願者数トップを維持しています。それに次ぐ千葉工業大が志願者数ランキング上位に顔を出し始めたのは2020年くらいからです。

後藤 両大学とも、さまざまな取り組みをして、志願者数は膨らんできました。千葉工業大は21年度から共通テスト利用方式の受験料を無料にしました。

 近畿大は併願割引で、共通テスト併用なら5志願まで一律3万円という具合に多く出願できるようになっています。とにかく受験生を集めて、上澄みの合格者に来てもらえればという考えでしょう。

井沢 それは悪いことではないと思います。併願しても入りたいという受験生がいるわけですから。千葉工業大はPRも上手です。

 志願者数の増加に合わせて東京スカイツリーの中にキャンパスをつくり、宇宙とロボットを全面に打ち出して、中身も充実させるようになってきました。24年度も二つの新学部(情報変革科学部、未来変革科学部)をつくります。

――学長も、地球物理学者の松井孝典氏からデジタルアーキテクトでベンチャーキャピタリストの伊藤穰一氏に交代しました。ここまで迫ってくると、志願者数で近畿大を抜くかもしれませんね。

後藤 前回、明治大にとって志願者数は重要と言いましたが、千葉工業大にとっても志願者数は重要なのです。その点が、早稲田大や慶應義塾大とは異なります。

――近畿大といえば、「嗚呼!!花の応援団」の南河内大のモデルという印象がかつては強かったのですが(笑)。

井沢 千葉工業大のようにゼロからというわけではなく、以前から知名度はありました。最近になってそれまでのバンカラなイメージをがらりと変えました。このあいだオープンキャンパスに行きましたら、女子大かと思うほど女子が多く来ていて驚きました。

後藤 いまは同じ応援団でもチアガールですから(笑)。

井沢 15万人台まで志願者数が増えた背景として考えられるのは、やはり効果的な学部を新設してきたことでしょうか。

後藤 あとは広報の上手さ。「近大マグロ」のように、研究の部分を少しずつ見せるようにした。大学進学率の向上に合わせた大衆向けのイメージ戦略と受験生の掘り起こしはうまくいきました。「学びに行くのは楽しい」というイメージが志願者数を増やしたと思います。

井沢 それを「実学」という御旗の下にどんどん動かしていく。22年度に新設した情報学部も、学部長に元ソニー・コンピュータエンタテインメントの久夛良木健氏を招きました。入学式のプロデュースを卒業生のつんく♂に依頼するなど派手ですし。

――それでも、受験状況を勘案すると、実質トップは明治大だと思うのですが。

井沢 近大や千葉工大の実質の志願者数は、のべ志願者数との差が比較的大きい。対して、明治大の実質の志願者数はのべ志願者数の半数程度です。その意味では、明治大が一番受験生の人気を集めているといえます。